Hailee Steinfeldは、アメリカ・カリフォルニア州出身の俳優/シンガーである。10代で映画『トゥルー・グリット』に出演し、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたことで一気に注目を集めた。その後は『ピッチ・パーフェクト』シリーズや『バンブルビー』、『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズなど幅広い作品に参加している。
音楽活動を本格化させたのは2015年。デビュー曲「Love Myself」をヒットさせ、ダンス・ポップを中心としたシンガーとしても存在感を高めた。「Starving」「Most Girls」などではEDMやエレクトロ・ポップへ接近し、2020年のHalf Written Storyでは失恋や孤独をより個人的な言葉で歌った。
俳優が副業的に音楽を出しているというより、演技と音楽という二つの表現を並行して続けてきた人物である。作品数は決して多くないが、時期によって音楽の方向を変えながら、自分自身の感情をポップ・ソングへ落とし込んできた。
Hailee Steinfeldの背景とキャリア
Hailee Steinfeldは1996年、カリフォルニア州で生まれた。子どもの頃から演技の仕事を始め、短編映画やテレビ出演を経験した後、大きな転機となったのが2010年の『トゥルー・グリット』だった。
Coen兄弟が監督したこの作品でMattie Rossを演じ、まだ10代前半ながら高い評価を受ける。アカデミー賞助演女優賞にもノミネートされ、若手俳優として一躍知られるようになった。
その後も『エンダーのゲーム』『はじまりのうた』などに出演。特に音楽活動へつながる重要な作品となったのが、2015年の『ピッチ・パーフェクト2』である。歌唱を含む役を演じたことで、Steinfeldがシンガーとして活動できることも広く知られるようになった。
同年にデビュー・シングル「Love Myself」を発表し、EP Haizをリリースする。ここから俳優業と並行した本格的な音楽活動が始まった。
2016年にはGreyとZeddとの「Starving」が大きなヒットとなり、ポップ・シンガーとしての知名度をさらに高めた。翌2017年には「Most Girls」と「Let Me Go」を発表。特にこの時期は、EDMやエレクトロ・ポップと相性のいい透明感のある声を生かしていた。
一方、俳優としても活動は続く。2018年には映画『バンブルビー』で主演し、同作に関連した「Back to Life」も発表した。2019年からはドラマ『ディキンスン ~若き女性詩人の憂鬱~』でEmily Dickinsonを演じ、主演だけでなく製作総指揮にも参加している。
2020年にはEP Half Written Storyを発表。「Wrong Direction」などを通じて、それまで以上に個人的な感情へ踏み込んだ。
その後もMarvel作品『ホークアイ』でKate Bishopを演じるなど俳優業を続ける一方、2022年にはAnderson.Paakを迎えた「Coast」、2023年には「SunKissing」を発表した。2025年にはRyan Coogler監督の映画『Sinners』に出演し、サウンドトラック曲「Dangerous」も歌っている。
Hailee Steinfeldの音楽スタイルと特徴
Hailee Steinfeldの音楽の基本にあるのは、2010年代以降のメインストリーム・ポップである。
初期は電子的なビートと大きなサビを組み合わせたダンス・ポップが中心だった。「Love Myself」ではリズムを強く押し出し、「Starving」ではEDMの高揚感を取り入れている。
歌声には、極端な癖がない。低い音では少し息を含んだ落ち着いた声を使い、サビでは声を強くして曲を広げる。この柔軟さがあるため、EDMからバラード、軽快なポップまで幅広いサウンドに合わせやすい。
歌詞では自尊心、恋愛、自立、失恋といった題材が目立つ。「Love Myself」や「Most Girls」では、自分自身を肯定する感覚が前面に出ていた。一方、Half Written Storyでは関係が終わった後の怒りや寂しさ、混乱をより直接的に扱っている。
2022年の「Coast」以降には別の変化も見える。電子音を強く押し出した初期のポップから離れ、1970年代のカリフォルニアを思わせる温かい音へ接近した。本人もこの時期にThe Beach BoysやEaglesなどを聴いていたことを語っている。
そのため、Hailee Steinfeldの音楽は一つのスタイルだけでは説明しにくい。大きく分ければ、初期のダンス・ポップ、2020年前後の内省的なポップ、そして「Coast」以降の開放的でグルーヴのあるサウンドという変化がある。
Hailee Steinfeldの代表曲5選
「Love Myself」
2015年に発表された音楽活動の出発点となるシングルである。太いビートと電子的な音を使ったダンス・ポップで、サビではタイトルを繰り返しながら一気に開放感を作る。
テーマになっているのは自己肯定だ。誰かに認めてもらうことだけに自分の価値を求めないという姿勢が、力強いポップ・サウンドと結びついている。俳優Hailee Steinfeldとは別に、ポップ・シンガーとしてのイメージを作った重要な曲である。
「Starving」
GreyとZeddとのコラボレーションによって2016年に発表された代表的ヒット曲。アコースティック・ギターを思わせる軽い音から始まり、電子的なビートへ広がっていく。
Steinfeldの声は強く押し出されるというより、滑らかなトラックの中を軽く流れていく。この歌い方がEDM系のプロダクションとよく合った。2010年代半ばのポップとEDMが接近していた時代を感じさせる一曲でもある。
「Most Girls」
2017年の「Most Girls」は、女性同士を比較して優劣をつける考え方から距離を取ったポップ・ソングである。
明るいビートと覚えやすいサビを持つが、歌詞のメッセージが曲の中心にある。それぞれ違う生き方や個性を持つ女性を肯定し、「ほかの女性とは違う」という言葉を褒め言葉として使う考え方を反転させている。Steinfeldの初期作品に多かった自己肯定というテーマを広げた曲だ。
「Wrong Direction」
2020年のEP Half Written Storyから発表されたバラード。それまでの自信に満ちたダンス・ポップとは大きく雰囲気が異なる。
ピアノを中心にした静かな音の中で、終わった関係を振り返る。Steinfeldも声を張り上げすぎず、弱さや疲れを残した歌い方をしている。ポップ・スターとしての強いキャラクターよりも、個人的な感情を前面に出した時期を理解するうえで重要な曲である。
「Coast」
2022年に発表されたAnderson.Paakとのコラボレーション曲で、Steinfeldの音楽に新しい方向を持ち込んだ。
タイトル通り、カリフォルニアの海岸を思わせる開放感がある。ファンクやソウルの軽いグルーヴを取り込み、初期のEDM系ポップとは違って、生楽器に近い温度を感じさせる。
Steinfeld自身も、この時期にはThe Beach BoysやEaglesなどから得た感覚について語っている。「Coast」はキャリア初期のサウンドを繰り返すのではなく、自分が育ったカリフォルニアの音楽文化へ目を向けた転換点となった。
重要作品から見る音楽性の変化
Haiz(2015年)
Hailee Steinfeldの音楽キャリアを本格的に始めたEPである。タイトルのHaizは本人のニックネームから取られている。
中心にあるのは「Love Myself」。エレクトロ・ポップの強いビート、覚えやすいメロディ、自己肯定を扱う歌詞によって、Steinfeldの初期イメージを作った。
「Rock Bottom」では恋愛関係の浮き沈みを扱い、「Hell Nos and Headphones」では周囲の空気に無理に合わせない姿勢を歌う。作品全体として、若い女性が自分の意思を持つことが重要なテーマになっている。
音楽的には2010年代半ばのメインストリーム・ポップに近い。しかし、声を必要以上に加工して個性を作るより、Steinfeld自身の明るくはっきりした歌声を中心に置いている。
Half Written Story(2020年)
Haizから約5年後に発表された2作目のEPである。
初期作品と大きく違うのは感情の方向だ。「Love Myself」が外へ向かって自信を示す曲だったのに対し、Half Written Storyでは失恋や孤独、怒り、混乱といった感情へ向き合っている。
「Wrong Direction」はその変化が最も分かりやすい。「I Love You’s」ではAnnie Lennoxの「No More “I Love You’s”」を引用しながら、恋愛から距離を取ろうとする気持ちを現代的なポップへ置き換えている。
Steinfeld自身にとっても感情的に明確な時期を記録した作品だった。当初は続編となるパートも想定されていたが、最終的にはその構想から離れ、新しい音楽へ進むことになった。
「Coast」以降(2022年〜)
Half Written Storyの次に現れた「Coast」は、それまでの流れを大きく変えた。
Steinfeldはパンデミック期に古い音楽を聴き直し、The Beach BoysやEaglesなどから影響を受けたことを明かしている。そこで目指したのは、Half Written Storyにあった悲しさや混乱とは反対の、聴いていて気分が上向く音だった。
「Coast」ではAnderson.Paakのリズム感も加わり、ファンク、ソウル、カリフォルニア・ポップが混ざった軽快なサウンドになった。
2023年の「SunKissing」も、その開放的な雰囲気を引き継いでいる。作品数は限られているものの、Steinfeldが初期のEDM中心のスタイルだけに戻ろうとしていないことが分かる時期である。
Hailee Steinfeldが影響を受けた音楽
初期のHailee Steinfeldは、2010年代のポップ・ミュージックの中から登場したシンガーだった。Julia MichaelsやJustin Tranterをはじめとするソングライター陣とも仕事をし、短い時間で印象に残るメロディと、日常的な言葉を使った歌詞を身につけていった。
ZeddやGreyとの「Starving」に代表されるように、EDMも初期キャリアを考えるうえで欠かせない。強いビートと電子音の上にポップな歌を乗せる方法は、2010年代半ばの彼女の音を大きく支えている。
一方、「Coast」以降について本人が具体的に挙げているのがThe Beach BoysとEaglesである。どちらもカリフォルニアと深く結びついた音楽であり、明るいコーラスや開放感、自然なグルーヴという部分が「Coast」にもつながっている。
ここには、流行しているポップを歌うだけではなく、自分がどんな音楽を心地よいと感じるのかを探そうとする変化が見える。
俳優活動と音楽の関係
Hailee Steinfeldをほかのポップ・シンガーと分ける最大の要素は、俳優としてのキャリアが音楽活動と同じくらい大きいことである。
『ピッチ・パーフェクト2』は、二つの活動が最も分かりやすく接続した作品だった。映画の中で歌う経験が、本格的なレコード制作へ進むきっかけの一つになった。
その後も映画と音楽が交差する場面は多い。主演した『バンブルビー』には「Back to Life」を提供し、『ディキンソン』では主演と製作総指揮を務めながら「Afterlife」を発表した。2025年の『Sinners』でも、出演だけでなくサウンドトラックの「Dangerous」を歌っている。
ただし、本人名義の音楽をすべて映画の延長として考えると、その特徴を見落としてしまう。Half Written Storyでは映画の役ではなく、自分自身の感情に近いところから曲を書いている。「Coast」でも、自分が育ったカリフォルニアや個人的な音楽のルーツへ意識を向けた。
演技では別の人物になり、音楽ではより直接的に自分自身を表現する。この違いが、二つの活動を並行して続ける意味になっている。
同世代のポップ・アーティストとの違い
Hailee Steinfeldは、2010年代に登場した若い女性ポップ・シンガーたちと同じ時代を歩んできた。しかし、アルバムを定期的に発表して大規模なツアーを繰り返す典型的なポップ・スターとは活動の仕方が異なる。
音楽ではシングルやEPを中心に発表し、その間には映画やドラマへ出演している。そのため、ディスコグラフィーは同世代の専業シンガーほど大きくない。
反対に、この間隔が作品ごとの違いを分かりやすくしている。Haizでは若々しい自己肯定、Half Written Storyでは失恋と孤独、「Coast」ではカリフォルニア的な開放感と、それぞれ異なる時期の本人が音に残されている。
また、Steinfeldは圧倒的な声量や高度な歌唱技術を前面に出すタイプでもない。曲に合わせて声の温度を変え、ポップ・ソングの中で感情を伝えることに強みがある。その点では、俳優として培った表現力とも自然につながっている。
Hailee Steinfeldの音楽シーンでの位置づけ
Hailee Steinfeldは、音楽だけで時代を変えたタイプのアーティストではない。むしろ特徴的なのは、映画、テレビ、アニメーション、ポップ・ミュージックという異なる場所を行き来しながら、それぞれで大きな作品に参加してきたことである。
音楽面では「Love Myself」や「Most Girls」によって、2010年代に広がった自己肯定をテーマにしたポップの流れに加わった。「Starving」はEDMとポップが密接だった時代を代表するヒットの一つでもある。
その後は同じ成功パターンを繰り返さず、Half Written Storyでより個人的な方向へ進み、「Coast」では70年代のカリフォルニア音楽からヒントを得たグルーヴへ移った。
作品数の多さではなく、それぞれの時期に異なる自分を記録していることがSteinfeldの音楽キャリアの特徴である。
まとめ
Hailee Steinfeldは、俳優として早くから高い評価を受けながら、2015年以降はポップ・シンガーとしても独自のキャリアを築いてきたマルチタレントである。
音楽では「Love Myself」の自己肯定感に満ちたダンス・ポップから、「Starving」のEDM、「Wrong Direction」の内省的なバラード、「Coast」の温かなカリフォルニア・ポップへと変化してきた。作品数は多くないが、その変化には本人の年齢や感情、音楽的な興味の移り変わりがはっきり表れている。
演技では役を通して物語を表現し、音楽では自分自身に近い感情をポップ・ソングへ変える。その二つを行き来できることこそ、Hailee Steinfeldというアーティストの大きな特徴である。


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