発売日: 2019年5月17日
ジャンル: インディーロック、アートロック
The Nationalの8作目「I Am Easy to Find」は、バンドがさらなる音楽的な冒険と成熟を遂げた、革新的な作品である。このアルバムは、同タイトルのショートフィルム（監督：マイク・ミルズ）と共に制作された、映像と音楽が相互に影響を与え合うプロジェクトとして発表された。マット・バーニンガーの特徴的なバリトンボイスに加え、多くの女性ボーカリストがゲストとして参加し、これまでのThe Nationalにはなかった幅広い音楽表現が取り入れられている。柔らかで詩的な歌詞と、複雑なアレンジが織りなすサウンドスケープが、リスナーを深い内面の旅へと誘う。
本作では、バーニンガーの声だけでなく、女性ボーカルによるハーモニーが豊かに響き、バンドの音楽に新たな温かみと感情の多様性が加わった。ストリングスやシンセサイザーを多用したアレンジが幻想的な雰囲気を醸し出し、The Nationalのサウンドがシネマティックで壮大なものに進化している。愛、孤独、人生の儚さといったテーマが、より深く、そして普遍的に響く作品となっている。
各曲解説
1. You Had Your Soul with You
アルバムの冒頭を飾る「You Had Your Soul with You」は、シンセサイザーと鋭いギターリフが絡み合う、ダイナミックな一曲。バーニンガーの声に、ゲイル・アン・ドロシーの清らかなボーカルが重なり、愛と葛藤を象徴的に描く。
2. Quiet Light
「Quiet Light」は、ミニマルなビートとシンプルなメロディが印象的なナンバーで、静かな中にも強い感情が宿る。リフレインされるサウンドが、どこか安らぎと切なさを同時に感じさせ、アルバム全体のトーンを象徴する一曲だ。
3. Roman Holiday
優雅なストリングスと控えめなギターが特徴的な「Roman Holiday」は、恋人たちの間の甘く切ない時間を描く。ゆったりとしたリズムが心地よく、穏やかな時間が流れていくような印象。
4. Oblivions
女性ボーカルとバーニンガーのデュエットが響く「Oblivions」は、愛の不安や逃避をテーマにした曲。シンプルなリズムとメロディが、二人の声を際立たせ、心の葛藤を優しく描き出す。
5. The Pull of You
「The Pull of You」は、シンセサイザーとパーカッションがリズミカルに絡み合う、エネルギッシュな一曲。バーニンガーの低音ボーカルが際立ち、愛や葛藤の引力が表現されている。
6. Hey Rosey
淡いシンセと柔らかなボーカルが特徴的な「Hey Rosey」は、バンドの持つ繊細な一面が強調されたバラード。静かに進行するメロディが、穏やかな夜を感じさせるような心地よさを生み出す。
7. I Am Easy to Find
アルバムタイトル曲「I Am Easy to Find」は、女性ボーカルがメインを務め、静かで優しいサウンドが広がる。穏やかなメロディとシンプルなアレンジが、アルバムのテーマを象徴するように温かく響き渡る。
8. Her Father in the Pool
インストゥルメンタルの「Her Father in the Pool」は、ピアノが中心となり、短いながらも幻想的なムードが漂う。物語の幕間として、次の展開を予感させるような役割を果たしている。
9. Where Is Her Head
「Where Is Her Head」は、エネルギッシュで高揚感のあるトラック。女性ボーカルが主体となり、軽やかなリズムと共に、希望や自己探求が描かれている。リフレインが心地よく、力強さを感じさせる。
10. Not in Kansas
シンプルなギターとバーニンガーの低い声で始まる「Not in Kansas」は、郷愁や喪失感を歌った一曲。日常の風景を詩的に綴り、心に響くリリックが特徴的で、アルバムの中でも特に印象的なトラックだ。
11. So Far So Fast
静かに始まる「So Far So Fast」は、徐々にビートが加わり、エモーショナルなサウンドへと展開する。遠くにいる愛する人との距離を感じるリリックが、切なくも美しい。
12. Dust Swirls in Strange Light
荘厳なコーラスとシンセサイザーが重なり合う「Dust Swirls in Strange Light」は、幻想的な雰囲気に包まれたトラック。人生の儚さや瞬間の美しさが、サウンドとともに詩的に描かれている。
13. Hairpin Turns
メランコリックなギターとシンセが特徴の「Hairpin Turns」は、愛と自己の迷いをテーマにした一曲。淡々としたリズムが静かな焦燥感を表現し、心にじんわりと響く。
14. Rylan
「Rylan」は、軽快なリズムとポップなメロディが印象的なナンバー。希望と不安が交錯するリリックが、親しみやすくも深い印象を与える。
15. Underwater
シンセサイザーと静かなビートが絡み合う「Underwater」は、夢の中にいるような感覚を呼び起こす。バーニンガーのボーカルが穏やかに響き、アルバムのクライマックスに向けた静けさが漂う。
16. Light Years
アルバムのフィナーレを飾る「Light Years」は、美しいピアノとメランコリックなメロディが流れるバラード。別れと希望が織りなす歌詞が、バンドの成熟した音楽性を象徴し、感動的な締めくくりを迎える。
アルバム総評
「I Am Easy to Find」は、The Nationalの音楽的な成長と革新を象徴する作品であり、彼らのサウンドに新しい視点が加わった。女性ボーカルやストリングス、シンセサイザーが豊かに響くアレンジメントが、物語性を深め、感情の多層性を際立たせている。愛や自己の探求、孤独といったテーマが、映像的で詩的な表現で描かれ、The Nationalの音楽がより普遍的な次元に達している。アルバム全体が映画のように進行し、リスナーを感動的な音の旅へと誘う名盤である。
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Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
静けさと内省的なリリックが共通し、感情の深みを表現したアルバム。柔らかで美しいアレンジが「I Am Easy to Find」に通じる。
A Moon Shaped Pool by Radiohead
緻密なアレンジとメランコリックな雰囲気が共通し、シネマティックなサウンドがThe Nationalファンにも響く作品。
Sleep Well Beast by The National
「I Am Easy to Find」の前作で、エレクトロニックな要素や複雑な感情が表現されている。二つの作品を聴くことで、The Nationalの進化を感じられる。
The Suburbs by Arcade Fire
人生の移ろいや失われた時間をテーマにしたアルバムで、壮大なサウンドスケープが共通。The Nationalのファンにも親しまれる一枚。
All Mirrors by Angel Olsen
ストリングスや女性ボーカルが美しく響く、感情的でドラマチックな作品。The Nationalの豊かなサウンドとリンクする部分が多い。
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