発売日: 2013年5月17日
ジャンル: インディーロック、ポストパンクリバイバル
The Nationalの6作目「Trouble Will Find Me」は、バンドが長年築き上げてきたメランコリックで内省的なサウンドがさらに洗練され、成熟味を増した作品である。前作「High Violet」で見せたシネマティックで感情的な表現が深まり、マット・バーニンガーのバリトンボイスがさらに引き立つ形で、愛や喪失、自己の不安といった普遍的なテーマが詩的に描かれている。また、アーロン・デスナーとブライス・デスナー兄弟による複雑で緻密なアレンジが各トラックで光り、シンプルな構成の中に繊細な感情が隠されている。
「Trouble Will Find Me」は、静かな焦燥感や儚さが表現された一方で、前作よりも柔らかなトーンが感じられるアルバムだ。重厚なアレンジに頼らず、ミニマルで温かみのあるサウンドがリスナーに寄り添い、バンドの持つ親密な魅力が最大限に引き出されている。The Nationalの真摯で誠実な音楽性が詰まった作品として、多くのファンに愛され続けている。
各曲解説
1. I Should Live in Salt
アルバムの幕開けを飾る「I Should Live in Salt」は、優しいギターのリフとバーニンガーの落ち着いたボーカルで進行する一曲。後悔や自己嫌悪がテーマで、タイトルの「塩に浸るべきだった」というフレーズが象徴するように、痛みと赦しが描かれている。
2. Demons
「Demons」は、繰り返される低音のギターリフとメランコリックなメロディが特徴的なトラック。自己の内面と向き合い、心の「悪魔」を抱えながら生きる苦悩が表現されている。バーニンガーの声に込められた静かな焦燥感が印象的だ。
3. Don’t Swallow the Cap
アップテンポでポップなメロディが目立つ「Don’t Swallow the Cap」は、愛と痛みのバランスをテーマにした一曲。繊細なギターリフと力強いリズムが絡み合い、都会的な冷たさと感情の温かさが同居するサウンドが心地よい。
4. Fireproof
抑えられたビートと静かなメロディが響く「Fireproof」は、愛が壊れる不安と悲しみを描いたナンバー。バーニンガーの低く深い声が、切なさと諦めの感情を淡々と伝える。
5. Sea of Love
エネルギッシュなドラムとキャッチーなギターリフが印象的な「Sea of Love」は、アルバムの中でも特にエモーショナルな楽曲。愛の複雑さと情熱がテーマで、バンドの一体感ある演奏が聴く者を圧倒する。
6. Heavenfaced
「Heavenfaced」は、穏やかなピアノとメランコリックなボーカルが美しいバラード。救いを求めるような歌詞が、儚さと優しさに包まれたメロディに乗って静かに心に響く。
7. This Is the Last Time
繰り返されるギターリフが心地よい「This Is the Last Time」は、愛と別れの決意が描かれている一曲。感傷的なメロディが、バーニンガーの低く深い声によってさらに引き立ち、切ない余韻を残す。
8. Graceless
重厚でダークな雰囲気が漂う「Graceless」は、自己嫌悪や無力感に悩む主人公の心情を表現。力強いドラムと浮遊感のあるメロディが対比的で、バンドのダイナミックな演奏が聴き応えのある一曲だ。
9. Slipped
アコースティックギターの静かな音色が印象的な「Slipped」は、後悔と赦しをテーマにしたバラード。優しいメロディと深い歌詞が心に染み渡り、儚い美しさが感じられる。
10. I Need My Girl
「I Need My Girl」は、繊細なギターとメロディアスなボーカルが印象的な愛のバラード。日常の中で恋人に寄り添う気持ちが描かれ、シンプルで純粋な愛の表現が切なくも美しい。
11. Humiliation
「Humiliation」は、緊張感のあるビートとリズムが続き、自己嫌悪や不安がテーマ。バーニンガーのボーカルがダークでシネマティックな雰囲気を生み出し、楽曲全体に陰影が感じられる。
12. Pink Rabbits
美しいピアノとメランコリックなメロディが絡み合う「Pink Rabbits」は、感情の複雑さや諦めの心情が描かれた一曲。優しいサウンドに乗せて、愛と喪失が詩的に表現されている。
13. Hard to Find
アルバムの最後を飾る「Hard to Find」は、穏やかなアコースティックギターとピアノが美しいバラード。過ぎ去った愛や失われた希望への想いが、柔らかなサウンドで静かに語られ、アルバムを感動的に締めくくる。
アルバム総評
「Trouble Will Find Me」は、The Nationalの深い内省と感情表現が美しく融合した作品であり、愛や喪失、自己との葛藤が繊細に描かれている。バーニンガーの渋く優しいボーカルが全編を通して心に沁み、デスナー兄弟のギターワークとアレンジが音楽に深みと奥行きを加えている。ミニマルで落ち着いたサウンドながらも、複雑な感情が音楽に表れ、聴くほどに新しい発見がある名盤。The Nationalのファンにとっても、初めて聴く人にとっても、その豊かな音楽世界に浸ることができる作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
感情的で繊細なリリックと美しいメロディが特徴のアルバムで、「Trouble Will Find Me」の感傷的な雰囲気が好きなリスナーに響く。
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
内省的でメランコリックなサウンドと詩的な歌詞が、「Trouble Will Find Me」と共通する。シンプルながら深い感情表現が魅力。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
喪失感と愛情がテーマで、静かな音色とバーニンガーのボーカルに通じる感情が込められたアルバム。儚い美しさが共通している。
Antics by Interpol
ポストパンクの要素を持ちながらもメランコリックなサウンドが楽しめる作品。The Nationalのファンにも共鳴する部分が多い。
Lost in the Dream by The War on Drugs
シネマティックで深い音楽が特徴で、メランコリックなテーマや壮大なサウンドが「Trouble Will Find Me」に響き合う。
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