アルバムレビュー：The Beautiful Game by VULFPECK

発売日: 2016年10月17日
ジャンル: ファンク、ソウル、ミニマル・グルーヴ、DIYポップ、モータウン・リバイバル

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『The Beautiful Game』は、VULFPECKによる2枚目のフルアルバムであり、ミニマル・ファンクという形式を通じて“歌とダンスと笑い”の調和を極限まで洗練させた、バンドの表現的ピークのひとつである。

タイトルはサッカーを意味する俗称“The Beautiful Game”を借用しており、「ルールがある中で自由に遊ぶことの美しさ」をそのまま音楽に投影したような内容となっている。

本作では、Antwaun Stanley、Joey Dosik、Charles Jonesらをボーカルに迎えながら、Joe DartのベースとTheo Katzmanのドラム、Jack Strattonのアレンジが、いつにも増してタイトかつユーモラスに機能。
“踊れる知性”を武器にしたインディーファンクの金字塔として、VULFPECKの評価を決定づけた作品である。

全曲レビュー

1. The Sweet Science

アルバムの冒頭を飾るファンキーなインスト・グルーヴ。
スネアとベースの絡みが“甘美な格闘技”＝ファンクの真髄を示す。
この時点でリスナーの身体はもう踊り出している。

2. Animal Spirits

Antwaun Stanleyがボーカルを務める、愛と経済の交差点を描く名曲。
「君となら、401K（年金積立）も怖くない」という投資と恋愛を融合させた唯一無二のラブソング。
メロディのキャッチーさとテーマのニッチさが見事に溶け合っている。

3. Dean Town

VULFPECKを語るうえで外せないJoe Dartの超絶ベースインスト。
Jaco Pastoriusへのオマージュでありながら、ミーム的拡散力も兼ね備えた現代ファンクの代表曲。
ライブでは観客がコール＆レスポンスする一大儀式的存在。

4. Conscious Club

シンセとクラビネットの反復がクセになる、“意識高い系クラブ”への皮肉を込めたダンサブル・ファンク。
言葉遊びとビートの融合が痛快。

5. El Chepe

インストゥルメンタルによる小旅行。
メキシコの鉄道“El Chepe”にちなんだタイトル通り、景色の変化を感じさせるようなサウンド構成が魅力的。
リズムの揺らぎとメロディの軽やかさが心地いい。

6. 1 for 1, DiMaggio

Theo Katzmanがボーカルをとる、切なさと優しさがにじむポップソウル。
Joe DiMaggioを例に、「君がたった一回うまくいくだけで、僕は十分幸せ」というミニマリズムな愛が描かれる。

7. Daddy, He Got a Tesla

Antwaun Stanleyによるコメディ寄りファンク。
タイトル通りの“金持ち息子風”歌詞と、過剰にならないユーモアの絶妙な匙加減がVULFならでは。

8. Margery, My First Car

ローズとシンセがメロディを紡ぐインスト曲。
どこか懐かしいモータウンの匂いを残しつつ、“語らないことで語る”情緒がにじむ。

9. Aunt Leslie

Joey Dosikによるピアノとボーカルのバラード。
家庭的なモチーフから“愛”の普遍性を引き出す、感傷的かつ誠実な一曲。

10. Cory Wong

ギタリストCory Wongをタイトルに冠した、爆発的なグルーヴのインスト名演。
ソロの構成と演奏が、まるで“ジョークと技巧の同居”のようで、最後にして圧巻。

総評

『The Beautiful Game』は、VULFPECKが持つ技術・遊び心・感情・知性のすべてが、完璧にバランスした傑作であり、
あらゆる意味で“現代ファンクのスタンダード”となったアルバムである。

どの曲も単体で名曲として成立しつつ、アルバム全体で一つの物語を紡ぐような流れがあり、聴き手は自然と“VULFPECKの世界”に引き込まれていく。

「美しきゲーム」とは、規律の中で自由に踊ること。
VULFPECKはそれを、音で見事に実践してみせた。