アルバムレビュー：Afrique Victime by Mdou Moctar

発売日: 2021年5月21日
ジャンル: サハラ・ロック、デザート・ブルース、サイケデリック・ロック、ポリティカル・ロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Afrique Victime』は、Mdou Moctarが2021年に発表したスタジオ・アルバムであり、彼の音楽キャリアと精神性が一つの頂点に達した作品である。
“アフリカは被害者だ”という強いメッセージを掲げ、サハラの砂嵐のようなギターと、植民地主義への告発、そして文化的誇りが交錯するこのアルバムは、現代アフリカ音楽の金字塔として高く評価された。

制作はアメリカとアフリカの複数の地で行われ、ツアーバンドのメンバーとともにライブ感を重視した録音が実現。
一方でリリックには政治的な怒りや社会的な視点が色濃く織り込まれ、歌詞の多くはタマシェク語で語られながらも、その意味はグローバルに共有されうる普遍的なものとなっている。

ギターはますます攻撃的かつ詩的になり、構成もアルバム単位で緻密に設計されている。
Moctarの名は、この作品によって“伝統音楽の進化者”から“ポリティカル・ロックの旗手”へと飛躍したのである。

全曲レビュー

1. Chismiten

アルバム冒頭を飾る、トリッキーで高速なギターフレーズと激しいビートが炸裂するナンバー。
一気に加速するビートの中で、恋と混乱（”Chismiten”＝嫉妬、三角関係）を語るリリックが乗る。
“恋愛×爆走サハラ・ロック”というコンセプトを見事に体現している。

2. Taliat

愛する女性への想いをギターで語る、トゥアレグ音楽らしいロマンティックな楽曲。
リズムは軽やかで、メロディはどこまでも哀しく、美しい。
これまでの“Taliat”と同名だが、アレンジは新たな形に再構築されている。

3. Ya Habibti

“愛しの人よ”という意味を持つ、アラビア語のタイトル。
ギターの歌うような旋律と穏やかなビートが、サハラの夜の静けさを連想させる。
文化的ミクスチャーを象徴するスロー・バラード。

4. Tala Tannam

メンバーとのコーラスが心地よい、アコースティックな温もりに満ちた小品。
旅路や友情を描いたこの曲は、Moctarの人間味を感じさせるスロー・ナンバーである。

5. Untitled

ノイズと即興のようなフレーズが交錯する、インタールード的なトラック。
アルバムの“間”として、荒々しいギターの余白が耳を休め、次なる展開へと導く。

6. Asdikte Akal

「この土地を守れ」という意味のタイトル通り、土地と自然をめぐる誇りと闘争を描く。
Moctarのギターはここで雷鳴のように響き渡り、怒りと祈りを代弁する。
ポストロック的展開を含み、構成のダイナミズムも圧巻。

7. Layla

“レイラ”という女性に向けた抒情的なラブソング。
重くも美しいギターラインと柔らかいビートが、深い感情のレイヤーを作り上げている。
サハラに咲く一輪の花のような存在感を放つ。

8. Afrique Victime

アルバムの核にして、タイトル曲。
7分半に及ぶ壮大な構成の中で、アフリカ大陸が受けた植民地主義の傷と、そこから立ち上がる人々の姿を描く。
終盤のギターソロは、怒りと悲しみと誇りが炸裂するような熱量を持ち、リスナーの精神を震わせる。
まさにMoctarのキャリアの中でも最も情念の込められた演奏と言える。