発売日: 1995年10月23日
ジャンル: オルタナティブロック、アートロック、グランジ
The Smashing Pumpkinsの3枚目のアルバム「Mellon Collie and the Infinite Sadness」は、90年代を代表するオルタナティブロックの名盤として、その壮大なスケールとコンセプトで音楽シーンに衝撃を与えた。全28曲からなる2枚組のアルバムには、愛、孤独、喪失、怒りといった感情が幅広く表現され、ビリー・コーガンの詩的かつ内省的な歌詞が美しく響く。プロデューサーには、かつてのブッチ・ヴィグに代わり、フラッドとアラン・モウルダーが参加し、彼らのプロダクションが複雑なサウンドスケープを緻密に作り上げた。コーガンの多層的なギターとバンド全体のパワフルなアンサンブルが、「無限の悲しみ」をテーマにした叙事詩を生み出している。
このアルバムは、夜をテーマにした「Dawn to Dusk」と、より内省的な「Twilight to Starlight」の2部構成で展開されており、スマッシング・パンプキンズの持つ幅広い音楽性が存分に発揮されている。ロックの枠を超えた芸術作品として、またコーガンの人生観を映し出す深遠な作品として、リスナーを強く引き込むアルバムだ。
各曲解説
Disc 1: Dawn to Dusk
1. Mellon Collie and the Infinite Sadness
美しいピアノのインストゥルメンタルで幕を開けるこの曲は、アルバム全体のテーマである「儚さ」と「無限の悲しみ」を象徴している。シンプルでありながらも胸に響くメロディが、まるで物語の序章のようだ。
2. Tonight, Tonight
弦楽器を取り入れた壮大なアレンジが特徴で、希望と絶望が交錯するような感情を表現している。サビの高揚感が心を揺さぶり、歌詞には夢と現実、愛と喪失が込められている。アルバムを代表する名曲のひとつだ。
3. Jellybelly
エネルギッシュでノイジーなギターリフが印象的なロックナンバー。コーガンの焦燥感があふれる歌詞と、激しいサウンドが曲に圧倒的なパワーをもたらしている。
4. Zero
「I’m in love with my sadness」という印象的な歌詞が語るように、自己否定と憂鬱をテーマにした曲。ギターリフが特徴的で、暗く鋭いサウンドがリスナーを引き込む。パンプキンズのスタイルを象徴する、クールで象徴的な一曲。
5. Here Is No Why
ノスタルジックなメロディと歌詞が印象的で、青春の挫折や孤独を描いた曲。コーガンの淡々としたボーカルが、内なる孤独を際立たせる。
6. Bullet with Butterfly Wings
バンドの代表曲で、コーガンの絶叫が特徴の名曲。「Despite all my rage, I am still just a rat in a cage」というサビが聴く者の心に突き刺さる。怒りと無力感が凝縮された、力強いロックナンバーだ。
7. To Forgive
しっとりとしたメロディと静かなボーカルが心に染みるバラード。過去の傷や自己嫌悪をテーマにしており、アルバム全体のテーマである「悲しみ」を象徴する一曲。
8. An Ode to No One
アグレッシブでヘヴィなロックナンバー。怒りと反抗のエネルギーが溢れ出し、破壊的なギターリフと激しいドラムが際立つ。
9. Love
ノイジーなギターとサイケデリックなサウンドが融合した独特の曲。テーマは「歪んだ愛」で、暗く複雑な感情が曲全体に漂う。
10. Cupid de Locke
夢のようなエフェクトが印象的な一曲で、柔らかなメロディがロマンティックな雰囲気を醸し出す。愛の儚さと幻想が描かれた、静かで美しい楽曲。
11. Galapogos
ゆったりとしたテンポとメランコリックなメロディが、孤独と諦めの感情を映し出す。ギターとボーカルが優しく重なり、深い感傷が込められている。
12. Muzzle
力強いビートとエモーショナルなボーカルが印象的で、コーガンの自己肯定感がテーマ。アルバムの中でも特に前向きなメッセージが込められている。
13. Porcelina of the Vast Oceans
9分にわたる壮大な楽曲で、サイケデリックなサウンドが特徴。ゆったりとしたイントロから始まり、徐々に盛り上がりを見せる構成が魅力だ。
14. Take Me Down
ジェームズ・イハがボーカルを務める柔らかなバラードで、メランコリックなサウンドが美しい。アルバムの第1部を穏やかに締めくくる一曲。
Disc 2: Twilight to Starlight
1. Where Boys Fear to Tread
不気味でダークなトーンが漂うロックナンバー。ギターのリフが重厚で、闇の中を彷徨うような感覚が味わえる。
2. Bodies
エネルギッシュで怒りに満ちた一曲。内面の不安や自己破壊的な感情が、激しい演奏で爆発する。
3. Thirty-Three
穏やかで優しいメロディが流れるバラード。静かに過ぎゆく時間を歌った曲で、アルバムの中で特に落ち着いた印象を与える。
4. In the Arms of Sleep
切ないメロディとコーガンの柔らかなボーカルが心地よいバラード。眠りに誘うような静かなサウンドが特徴だ。
5. 1979
バンド最大のヒット曲で、青春の儚さやノスタルジーを感じさせる一曲。シンプルなメロディとビートが心に残り、誰もが共感できる普遍的なテーマが魅力。
6. Tales of a Scorched Earth
ノイジーでアグレッシブなサウンドが、怒りと絶望を表現する。このアルバムの中でも特にヘヴィで、激しい感情が音に乗って伝わる。
7. Thru the Eyes of Ruby
壮大な展開とドラマティックなアレンジが際立つロックナンバー。ギターソロが美しく、アルバム全体のクライマックスともいえる。
8. Stumbleine
シンプルなアコースティックギターと歌声だけで構成された静かなバラード。孤独と自己反省がテーマの、しみじみとした一曲だ。
9. X.Y.U.
激しく混沌としたロックナンバーで、暴力的なギターとドラムが迫力を生み出す。コーガンの絶叫が印象的で、破壊的なエネルギーに満ちている。
10. We Only Come Out at Night
シンセサイザーを使ったポップで不思議な楽曲。夜にだけ現れる孤独な心を描いており、軽快なビートが癖になる。
11. Beautiful
タイトル通り、美しいメロディが特徴のポップナンバー。希望と哀愁が入り混じる独特のムードが心地よい。
12. Lily (My One and Only)
ユーモラスで少し不気味な一曲。コミカルな歌詞とメロディが異彩を放ち、アルバムの雰囲気を和らげる。
13. By Starlight
夜空を眺めるような静かなバラード。幻想的でロマンティックなムードが漂い、コーガンの柔らかなボーカルが響く。
14. Farewell and Goodnight
アルバムを締めくくる、子守唄のような穏やかなバラード。メンバー全員がボーカルを務め、優しく終わりを告げる一曲だ。
アルバム総評
「Mellon Collie and the Infinite Sadness」は、ビリー・コーガンが紡ぎ出す壮大な叙事詩であり、オルタナティブロックの名盤として語り継がれる一枚だ。怒り、愛、喪失、希望といった人間の複雑な感情を描きながら、サイケデリック、グランジ、バラードといった多彩なサウンドで彩られている。全28曲にわたる楽曲が、一貫したテーマのもとで統一感を持ちながらも、多様性に満ちている点がこのアルバムの魅力だ。90年代のオルタナティブロックを象徴する一大作品として、今なお多くのリスナーに影響を与え続けている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Downward Spiral by Nine Inch Nails
怒りと絶望を極めたオルタナティブの名盤。感情の奥底に触れるサウンドが「Mellon Collie」と共鳴する。
OK Computer by Radiohead
人間の不安や孤独をテーマにした名作。美しいメロディと複雑な構成が、パンプキンズの壮大さと響き合う。
In Utero by Nirvana
感情のむき出しと粗削りな音が特徴。コーガンの自己探求とコバーンの内面世界がリンクする部分が多い。
Grace by Jeff Buckley
内省的で美しい音楽が心に沁みるアルバム。バッカリーの表現力とコーガンの感情的な歌唱が似た雰囲気を醸し出す。
Ænima by Tool
プログレッシブメタルの金字塔。深遠なテーマと複雑なサウンドが、「Mellon Collie」の重厚な音作りと共鳴する。
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