発売日: 2002年9月2日
ジャンル: アコースティック、ポストパンク、オルタナティヴロック
概要
『This Never Ending Now』は、The Chameleonsが2002年にリリースした再構築アルバムであり、過去の代表曲を中心に、アコースティックを基調とした新たな装いで再録した作品である。
前作『Strip』(2000年)に続く“静かなる再解釈”シリーズの第2弾と位置づけられ、バンドのアイデンティティを保ちつつ、より洗練された録音と構成力が光る。
タイトルの「終わらない今(This Never Ending Now)」は、過去の記憶が現在と繋がり続ける感覚や、時間を超えた感情の持続を象徴している。
単なる懐古ではなく、年月を経て成熟した視点から再びこれらの曲と向き合い、“今”という時間に落とし込んだ作品であり、The Chameleonsの再結成期における重要な節目でもある。
全曲レビュー
1. The Fan and the Bellows
未アルバム化だった初期楽曲を初めて本格収録。
アコースティックになったことで、抑えられた怒りや焦燥がより鮮明に伝わってくる。
2. Tears
1986年の『Strange Times』の名曲を、しっとりと再解釈。
ギターのアルペジオとバージェスの穏やかな歌声が、涙の理由をそっと問いかけるようだ。
3. Intrigue in Tangiers
『Strip』でも再演された楽曲だが、こちらはより精度の高い演奏と録音で、異国の幻影が一層くっきりと描かれている。
4. Is It Any Wonder
『Tony Fletcher Walked on Water…』収録曲の初アコースティック版。
ロック色の強かった原曲が静謐なアレンジで染め直され、怒りの裏にある悲しみが際立つ。
5. Seriocity
原曲の跳ねるようなグルーヴは抑えられ、代わりに会話のような繊細な演奏が際立つ。
言葉の面白さと音の抑制が見事に共存している。
6. Swamp Thing
バンドを代表する楽曲のひとつが、幻想的なアコースティック・アレンジで蘇る。
重厚な世界観を保ちつつ、音数を削ぎ落としたことによって、より深い精神性が浮かび上がる。
7. Soul in Isolation
幽玄的なギターと、語るようなボーカルが響く再解釈版。
孤独は激しさではなく、静寂の中に潜むものとして描かれている。
8. Singing Rule Britannia (While the Walls Close In)
アイロニーと皮肉に満ちた原曲が、冷静な語り口で再演されることで、むしろ鋭さを増している。
ギターの繊細な和音が、閉ざされた空間の不穏さを伝える。
9. Forever the Same
あまり再録されることのなかった『Strange Times』収録曲の美しいリメイク。
運命の不可避性と、繰り返される感情の渦を静かに描いている。
10. Home Is Where the Heart Is
過去と現在、個人と国家、家庭とアイデンティティ——
複層的なテーマを内包した楽曲が、透明感のあるサウンドで新たな命を得ている。
11. Miracles and Wonders
唯一の新曲。
バンドの再始動と、これまでの道のりを静かに祝福するようなメッセージが込められている。
タイトルの“奇跡と驚異”とは、まさにThe Chameleonsの歩みそのものである。
総評
『This Never Ending Now』は、The Chameleonsというバンドがいかに“時間”という概念と向き合い、音楽として結晶化させてきたかを如実に物語る作品である。
激しく鳴らすことなく、ただ淡々と語りかける。
だがその内側には、過去の痛み、再会の喜び、そして未来への希望が確かに息づいている。
前作『Strip』よりも洗練され、構成や録音の完成度も高い。
それゆえ、再結成後のファンのみならず、初めてThe Chameleonsに触れるリスナーにも最適な入門盤として薦められる。
“永遠に続く今”とは、彼らの音楽が過去を更新し続け、聴くたびに新たな感情を呼び起こすという、その特異な力のことなのかもしれない。
おすすめアルバム(5枚)
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The Chameleons – Strip (2000)
本作と対になる先行セルフ・カバー集。より荒削りで素朴な音像が魅力。 -
Mark Burgess – Zima Junction (1993)
The Chameleons解散後のソロ的作品。再構築の萌芽がここにある。 -
The Church – Beside Yourself (2004)
アンビエント寄りの音世界と叙情性が、『This Never Ending Now』と共鳴。 -
Red House Painters – Ocean Beach (1995)
内省と静けさが交差するアコースティック・ロックの名作。 -
For Against – Shade Side Sunny Side (2002)
同時期のインディ・ポストパンク再興の一例として、気品ある演奏が印象的。
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