アルバムレビュー:Made of Rain by The Psychedelic Furs

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2020年7月31日

ジャンル:ポストパンク、ニューウェイヴ、オルタナティヴ・ロック、アート・ロック、ゴシック・ロック

概要

The Psychedelic Fursの『Made of Rain』は、2020年に発表された通算8作目のスタジオ・アルバムであり、1991年の『World Outside』以来、約29年ぶりとなる新作である。長い沈黙を経て登場した作品であるにもかかわらず、本作は単なる再結成バンドの懐古的なアルバムではない。むしろ、1980年代のポストパンク/ニューウェイヴ期に確立したThe Psychedelic Fursの美学を、年齢を重ねた視点と現代的なプロダクションの中で再構築した作品である。

The Psychedelic Fursは、Richard Butlerのかすれた低いヴォーカル、サックスを含む独特の編成、陰影のあるギター、都会的な退廃感、皮肉とロマンティシズムが入り混じる歌詞によって、1980年代の英国ロックにおいて特異な存在感を放った。初期の『The Psychedelic Furs』や『Talk Talk Talk』では、ポストパンクのざらつきとアート・ロック的な混沌が強く、その後『Forever Now』『Mirror Moves』『Midnight to Midnight』を経て、よりポップで洗練された方向へ進んだ。映画『Pretty in Pink』との結びつきによって、彼らは80年代カルチャーの象徴的存在にもなったが、その本質は単なる青春映画的なノスタルジーではなく、都市の孤独、感情の摩耗、美しさの裏にある腐敗を歌うバンドだった。

『Made of Rain』は、その本質に非常に忠実である。タイトルの「雨でできている」という表現は、本作の音楽性をよく示している。雨は、悲しみ、浄化、記憶、都市の濡れた風景、曖昧な視界を象徴する。The Psychedelic Fursの音楽にはもともと、乾いた皮肉と濡れた情感が同居していたが、本作ではその「濡れた」側面がより深く、暗く、成熟した形で現れている。アルバム全体は、灰色の空、夜の街路、古い記憶、失われた愛、死や時間の感覚をまとっている。

音楽的には、1980年代の彼らのサウンドをそのまま再現するのではなく、ポストパンク的な緊張感、ゴシック・ロック的な陰影、オルタナティヴ・ロックの厚み、そしてクラシックなPsychedelic Fursらしいサックスやギターの響きを組み合わせている。プロダクションは現代的に整理されているが、過度に清潔ではない。音には霧や湿度があり、Richard Butlerの声のざらつきがアルバム全体を支配している。

Richard Butlerのヴォーカルは、本作最大の核である。若い頃の彼の声は、皮肉っぽく、挑発的で、どこか壊れたロマンティシズムを持っていた。『Made of Rain』では、その声に老いと時間の重みが加わっている。かすれた声は以前にも増して深く、疲れを含んでいるが、それが弱さではなく説得力になっている。彼は感情を過剰に歌い上げるのではなく、長い年月を経た人間が、まだ消えない痛みや美しさを静かに語るように歌う。

歌詞の面では、喪失、記憶、宗教的なイメージ、世界の崩壊、愛の残骸、自己の不確かさが繰り返し現れる。The Psychedelic Fursの歌詞は、常に明快な物語を語るというより、断片的なイメージによって感情を浮かび上がらせる。本作でも、タイトルやフレーズの多くが象徴的であり、聴き手はその意味を一つに固定するより、雨のように降り積もるイメージの中で感情を受け取ることになる。

2020年という時代に発表されたことも、本作の印象を強めている。世界的な不安と孤立の時期に、『Made of Rain』の暗く内省的な音楽は、単なる80年代ロックの復活以上の意味を持った。外の世界が不確かで、人々が過去や喪失と向き合う時間が増えた時期に、このアルバムの雨のような音像は非常に自然に響いた。The Psychedelic Fursは、過去の栄光に戻るのではなく、過去を背負ったまま現在の暗さを鳴らしている。

日本のリスナーにとって本作は、80年代ニューウェイヴやポストパンクを好む人にはもちろん、The National、InterpolEcho & the BunnymenThe Chameleons、The Cure、Editorsなどの陰影あるロックを好む層にも響く作品である。派手な復活劇ではなく、長い沈黙の後にしか作れない、深く沈んだ美しさを持つアルバムである。

全曲レビュー

1. The Boy That Invented Rock & Roll

オープニング曲「The Boy That Invented Rock & Roll」は、アルバムの始まりにふさわしい、象徴的で皮肉を含んだ楽曲である。タイトルは「ロックンロールを発明した少年」という大げさな言葉を含んでいるが、The Psychedelic Fursらしく、これは単純なロック賛歌ではない。若さ、幻想、自己神話、ロックンロールの夢、そしてそれが時間とともに崩れていく感覚が込められている。

サウンドは、重くうねるベースとドラム、陰影のあるギター、そしてRichard Butlerの低くかすれた声によって構成される。曲は大きな爆発を狙うのではなく、じわじわと緊張を高める。サックスやギターの響きには、The Psychedelic Fursらしい都会的な退廃感があり、冒頭からバンドの世界へ聴き手を引き込む。

歌詞では、ロックンロールを発明した少年という神話的な人物像が提示される。しかし、その少年は純粋な英雄というより、過剰な自己像や失われた若さの象徴として響く。ロックは若さの音楽であると同時に、若さが過ぎ去った後にその意味を問い直す音楽でもある。この曲では、長いキャリアを持つバンドが、自分たちのルーツであるロックの神話を、距離を置いて眺めているように感じられる。

アルバムの冒頭にこの曲を置くことで、『Made of Rain』は過去のロック史に対する単純な敬礼ではなく、その神話の残骸を見つめる作品として始まる。The Psychedelic Fursは、若いバンドのようにロックの未来を信じきっているわけではない。しかし、ロックンロールの亡霊はまだ彼らの中で生きている。この曲は、その亡霊を呼び起こす導入である。

2. Don’t Believe

「Don’t Believe」は、タイトル通り不信をテーマにした楽曲である。The Psychedelic Fursの歌詞世界では、愛、宗教、社会、自己、言葉のどれも完全には信じられないものとして描かれることが多い。この曲でも、「信じるな」という否定の言葉が、アルバム全体の暗い精神を支えている。

サウンドは鋭く、リズムには緊張感がある。ギターは冷たく鳴り、バンドは硬質なポストパンク的推進力を作る。Richard Butlerの声は、説教するようではなく、長年の失望を経た人物が静かに警告するように響く。彼の声の疲労感が、歌詞の不信感とよく合っている。

歌詞では、真実のように語られるもの、救いのように見えるもの、愛のように差し出されるものへの疑いが描かれる。現代社会において、人はさまざまな物語や約束を信じるよう求められる。しかし、それらはしばしば裏切りや欺瞞を含んでいる。この曲は、その感覚を非常に簡潔に「Don’t Believe」と表現する。

「Don’t Believe」は、『Made of Rain』の中でも比較的ストレートなロック感を持ちながら、歌詞には深い冷笑がある。The Psychedelic Fursは、希望を完全に否定しているわけではないが、簡単な救済を信じることはない。この曲は、本作の成熟した不信の姿勢を象徴する楽曲である。

3. You’ll Be Mine

「You’ll Be Mine」は、タイトルだけを見るとロマンティックな所有の歌に思える。しかし、The Psychedelic Fursの文脈では、その言葉には執着、不安、支配、欲望の暗さが混ざる。愛する相手に「君は僕のものになる」と言うことは、甘い約束であると同時に、危うい支配欲の表現でもある。

サウンドはメロディアスで、アルバムの中でも比較的開かれた印象を持つ。ギターとシンセの響きは暗くも美しく、サビにはThe Psychedelic Fursらしいロマンティックな高揚がある。ただし、その高揚は決して純粋な幸福ではない。常に影が差している。

歌詞では、相手への強い欲望と、それが完全には叶わない不安が描かれる。愛は相手を求める感情であるが、その求め方が強すぎると、相手を所有したいという衝動へ変わる。この曲には、その境界の危うさがある。Richard Butlerの歌唱は、情熱的というより、少し壊れた執着を帯びている。

「You’ll Be Mine」は、本作における恋愛表現の典型である。美しいメロディの中に、支配や喪失の予感が潜んでいる。The Psychedelic Fursにとって愛は、救いであると同時に、さらに深い孤独へ導くものでもある。この二重性が曲の魅力である。

4. Wrong Train

「Wrong Train」は、人生の選択、方向の間違い、戻れない移動をテーマにした楽曲である。タイトルは「間違った列車」を意味し、自分が乗るべきではなかった流れに乗ってしまった感覚を示している。列車はロックやブルースの伝統において、旅、別れ、運命、逃走を象徴するモチーフだが、この曲ではそれが後悔と結びついている。

サウンドは重く、リズムには一定の推進力がある。曲は列車のように前へ進むが、その行き先には不安がある。ギターやサックスの響きは、暗い風景を通過していくような印象を与える。止まりたいのに止まれない、引き返したいのに引き返せない。その感覚が音楽にも反映されている。

歌詞では、間違った選択をした人物が、その流れの中で自分を見つめる。人生において、人はしばしば自分の意思で選んだと思っていた道が、実は破滅へ向かう列車だったと気づく。しかし、気づいた時にはすでに遅い。この曲には、その諦めと焦りがある。

「Wrong Train」は、『Made of Rain』の中でも非常に大人びた後悔の歌である。若い頃の間違いは、時に取り返しがつく。しかし年齢を重ねると、間違った列車に長く乗り続けてしまったことの重みが増す。この曲は、その時間の重さを静かに鳴らしている。

5. This’ll Never Be Like Love

「This’ll Never Be Like Love」は、愛に似ているが愛ではない関係を描いた楽曲である。タイトルは「これは決して愛のようにはならない」という意味を持ち、欲望、依存、習慣、慰めが、愛と混同されることへの冷めた認識が込められている。The Psychedelic Fursらしい、ロマンティックでありながら徹底的に醒めた視点が表れている。

サウンドは美しく、ゆったりとした陰影がある。バンドの演奏は過度に荒くならず、曲のメランコリーを丁寧に支える。Richard Butlerの声は、諦めと皮肉を含みながら、どこか優しさも残している。この複雑な声の表情が、曲のテーマに深みを与えている。

歌詞では、二人の間にある関係が、愛の形をしているようでいて、本当の愛には届かないことが語られる。人は孤独を埋めるために誰かを求めることがある。しかし、その関係が相手への深い理解や献身ではなく、空白を埋めるためのものなら、それは愛ではない。この曲は、その苦い真実を静かに見つめている。

「This’ll Never Be Like Love」は、アルバムの中でも特に成熟した感情表現を持つ楽曲である。若い頃なら愛と錯覚したかもしれないものを、年齢を重ねた視点で見抜いている。The Psychedelic Fursのロマンティシズムは、ここで非常に苦い形を取る。

6. Ash Wednesday

「Ash Wednesday」は、宗教的なイメージを持つタイトルの楽曲である。Ash Wednesdayはキリスト教における灰の水曜日を指し、悔い改め、死の意識、節制、復活へ向かう準備と結びつく日である。The Psychedelic Fursは宗教的な題材を信仰の告白としてではなく、罪、喪失、救済への不信、精神的な荒廃のイメージとして使うことが多い。この曲もその系譜にある。

サウンドは暗く、荘厳さがある。ギターやシンセの層は重く、曲全体には儀式的な雰囲気が漂う。Richard Butlerの声は、祈るようでありながら、完全な信仰には届かない。彼の声には、救いを求めながらも救いを信じきれない人間の響きがある。

歌詞では、灰、罪、終わり、悔い、失われたものへの意識が暗示される。灰は、燃え尽きたものの残骸であり、同時に人間の死すべき運命を思い出させる象徴でもある。『Made of Rain』という雨のアルバムの中で、この「灰」のイメージは、雨によって濡れた残骸のようにも響く。

「Ash Wednesday」は、本作の中でも特に重厚で、精神的な深さを持つ曲である。The Psychedelic Fursの音楽が、単なる恋愛や都市の孤独だけでなく、宗教的な象徴を通じて人間の罪や死を扱うことを示している。アルバムの暗い中心のひとつである。

7. Come All Ye Faithful

「Come All Ye Faithful」は、クリスマス・キャロル「O Come, All Ye Faithful」を連想させるタイトルを持つ楽曲である。ただし、The Psychedelic Fursがこの言葉を扱う時、それは素直な祝祭や信仰の呼びかけにはならない。むしろ、信じる者たちへの皮肉、集団的な信仰への距離感、あるいは救済を求める人々への冷めた視線が含まれているように響く。

サウンドはダークで、緊張感がある。リズムはしっかりしているが、曲全体には不穏な空気が漂う。タイトルの宗教的な親しみやすさとは対照的に、音は冷たく、どこか不信を帯びている。この対比が曲の魅力である。

歌詞では、信じること、集まること、救いを待つことへの複雑な感情が描かれる。The Psychedelic Fursにとって、信仰は安心だけをもたらすものではない。それは時に盲目であり、時に空虚であり、時に人間の弱さを映す。タイトルが持つ祝祭的な響きに対して、曲の中には暗い疑念がある。

「Come All Ye Faithful」は、「Ash Wednesday」と並んで、本作の宗教的なイメージを強める楽曲である。ただし、それは信仰のアルバムという意味ではない。むしろ、信仰が失われた時代に、なお宗教的な言葉だけが残っているような感覚である。この空洞感が、アルバムの暗さを深めている。

8. No-One

「No-One」は、孤独と匿名性をテーマにした楽曲である。タイトルは「誰でもない」「誰もいない」という意味を持ち、自己の消失、社会からの不可視化、あるいは関係の中で存在を認められない感覚を示している。The Psychedelic Fursの音楽には、都市の中で自分が誰でもなくなる感覚が常にあるが、この曲ではそれが非常に直接的に表れている。

サウンドは冷たく、沈んでいる。リズムは抑制され、ギターとシンセが灰色の空間を作る。Richard Butlerの声は、ここでは特に深く、疲れた響きを持つ。彼は自己主張するというより、自分が消えかけていることを静かに認めるように歌う。

歌詞では、誰にも見られないこと、誰でもない存在になること、あるいは愛や社会の中で自分の名前を失うことが描かれる。現代的な孤独は、単に一人でいることではない。多くの人に囲まれながら、自分が誰でもないと感じることでもある。この曲はその感覚を、非常に簡潔なタイトルに凝縮している。

「No-One」は、『Made of Rain』の中でも最も内向的な楽曲のひとつである。アルバム全体の雨のイメージが、ここでは存在をぼかし、輪郭を消していくように作用する。静かだが、深い孤独を残す曲である。

9. Tiny Hands

「Tiny Hands」は、タイトルから小ささ、脆さ、幼さ、無力さを連想させる楽曲である。The Psychedelic Fursの作品では、大きな感情や都市的な退廃の中に、こうした小さく壊れやすいイメージが置かれることがある。この曲も、本作の中で繊細な側面を担っている。

サウンドは比較的抑えられており、曲には静かな不安がある。ギターやキーボードは控えめに響き、Richard Butlerの声が近くに感じられる。タイトルの小さな手というイメージに合わせて、曲全体にも過度な大きさはない。むしろ、細部に感情が宿っている。

歌詞では、小さな手が象徴として使われている。これは子ども、失われた無垢、助けを求める存在、あるいは自分自身の無力さを示している可能性がある。大人の世界の冷たさや失望の中で、小さな手は非常に脆いものとして浮かび上がる。The Psychedelic Fursのロマンティシズムは、こうした壊れやすいイメージに強く反応する。

「Tiny Hands」は、アルバムの中で大きなドラマを作る曲ではないが、感情の細やかな部分を支える重要な楽曲である。The Psychedelic Fursの暗い音楽には、常にただ冷たいだけではない、脆いものへの眼差しがある。この曲はその側面を示している。

10. Hide the Medicine

「Hide the Medicine」は、タイトルから病、治療、依存、現実逃避を連想させる楽曲である。「薬を隠せ」という言葉は、治癒を拒むこと、薬に頼ることへの恐れ、あるいは自己破壊的な衝動を暗示する。The Psychedelic Fursの世界において、薬は救いにも毒にもなり得る。

サウンドはやや不穏で、リズムには緊張感がある。ギターは暗く、曲全体にざらついた質感がある。Richard Butlerの声は、ここでも皮肉と疲労を含み、歌詞の危うさを引き立てている。曲は直接的なロックの勢いを持ちながらも、内側には精神的な不安がある。

歌詞では、苦痛を抑えるためのもの、あるいは現実から逃れるためのものとしての薬が象徴的に扱われる。薬は人を救うこともあるが、同時に人を麻痺させることもある。この曲では、その両義性が重要である。痛みを消すことは、本当に治ることなのか。苦しみを感じないようにすることは、生きていることなのか。このような問いが背景にある。

「Hide the Medicine」は、本作の暗い現代性を示す楽曲である。精神的な痛み、治療、逃避、依存といったテーマは、The Psychedelic Fursの退廃的な美学と自然に結びつく。アルバム後半において、内面の不安をさらに深める一曲である。

11. Turn Your Back on Me

「Turn Your Back on Me」は、拒絶と裏切りをテーマにした楽曲である。タイトルは「僕に背を向けろ」という命令形にも聞こえ、相手に去られることへの恐れと、それをあえて受け入れようとする自虐的な感覚が含まれている。The Psychedelic Fursの恋愛表現では、愛はしばしば拒絶や諦めと隣り合わせにある。

サウンドは力強く、アルバム終盤に再びロック的な推進力をもたらす。ギターは厚く、ドラムはしっかりと曲を支える。Richard Butlerの声は、痛みを抱えながらも、どこか挑発的に響く。拒絶されることを恐れながら、それを先に言葉にしてしまうことで自分を守るような歌唱である。

歌詞では、相手に背を向けられること、あるいは自分からその関係を壊すことが描かれる。人は傷つく前に、自分から破壊的な言葉を投げることがある。この曲には、その防御的な攻撃性がある。愛されないことを知っているなら、先に「背を向けろ」と言ってしまう。その姿勢は強さではなく、深い脆さの表れでもある。

「Turn Your Back on Me」は、アルバム終盤で感情を再び前面へ出す楽曲である。The Psychedelic Fursの歌における関係性は、常に近づくことと突き放すことの間で揺れている。この曲は、その揺れを力強く表現している。

12. Stars

ラスト曲「Stars」は、アルバムを締めくくるにふさわしい、広がりと余韻を持つ楽曲である。タイトルの「星」は、夜空、遠さ、記憶、死者、希望、届かない光を象徴する。雨でできたアルバムの最後に星が現れることは、非常に美しい構成である。暗い雨の中を進んだ後、最後に遠い光が見える。

サウンドは広がりがあり、終曲らしい大きな余韻を持つ。ギターやシンセは空間を広げ、Richard Butlerの声はその中で静かに響く。曲は明るい解決へ向かうわけではないが、完全な闇にも終わらない。遠くに小さな光が残るような感覚がある。

歌詞では、星が象徴として用いられ、失われたものや届かない希望が暗示される。星の光は遠い過去から届くものであり、今見えている光はすでに過ぎ去ったものかもしれない。このイメージは、The Psychedelic Fursの長いキャリアとも重なる。過去の光が現在に届き、それを新しい形で見つめ直す。本作のラストとして非常にふさわしい。

「Stars」は、『Made of Rain』を静かに閉じる楽曲である。アルバム全体に漂っていた雨、灰、信仰への不信、孤独、壊れた愛の後に、最後に残るのは遠い光である。それは救済というほど強くはない。しかし、完全な絶望ではない。The Psychedelic Fursらしい、苦く美しい終曲である。

総評

『Made of Rain』は、The Psychedelic Fursの復帰作として非常に高い完成度を持つアルバムである。約29年ぶりの新作という背景だけでも注目される作品だが、本作の価値は単なる復活の事実にあるのではない。長い時間を経たバンドが、自分たちの美学を失わず、むしろ時間の重みを取り込むことで、より深い作品を作り上げた点にある。

アルバム全体を貫くのは、雨のような感情である。ここでの雨は、悲しみを洗い流すものではなく、記憶や痛みをより深く染み込ませるものとして機能している。「Cut My Heart Out」「Killed Our Love」「Say It’s Over」では愛の傷が描かれ、「Ash Wednesday」「Come All Ye Faithful」では宗教的な言葉が空洞化した時代の精神的な不安が表れる。「No-One」では自己の消失が歌われ、「Hide the Medicine」では痛みと麻痺の問題が扱われる。最後の「Stars」でようやく、雨の向こうに遠い光が見える。

音楽的には、The Psychedelic Fursの古典的な要素がしっかり残っている。Richard Butlerの声、サックスの陰影、暗いギター、都会的なポストパンクの質感は、過去の作品と明確につながっている。しかし、サウンドは単なる80年代の再現ではない。プロダクションは現代的で、低音や空間の処理には厚みがあり、アルバム全体に深い暗さと奥行きがある。過去の音を懐かしくなぞるのではなく、現在の耳で聴ける形に更新されている。

Richard Butlerの歌唱は、本作最大の魅力である。彼の声は若返ろうとしていない。むしろ、年齢を重ねたかすれ、疲労、苦味をそのまま音楽にしている。これは非常に重要である。再結成や復帰作では、過去の若さを再現しようとして不自然になることがある。しかし『Made of Rain』では、バンドは過去に戻ろうとしない。老い、時間、喪失を受け入れたうえで、それをThe Psychedelic Fursの音楽へ変えている。

歌詞の面では、明快な物語よりも、象徴的な言葉が多い。雨、灰、星、薬、列車、信仰、手、愛の死。これらのイメージがアルバム全体に散りばめられ、聴き手はその断片を自分の経験と結びつけながら受け取ることになる。The Psychedelic Fursの歌詞は、感情を直接説明しすぎない。だからこそ、曲の余韻が長く残る。意味が一つに固定されないことが、彼らの音楽の魅力である。

『Made of Rain』は、1980年代ニューウェイヴのファンにとっては、期待以上に「The Psychedelic Fursらしい」作品である。一方で、現代のポストパンク・リバイバルや陰影あるオルタナティヴ・ロックを好むリスナーにも十分に届く内容を持つ。InterpolやThe National、Editors、The Twilight Sad、The Chameleonsなどの暗いギター・ロックに親しんでいるリスナーにとっても、本作の湿度と深さは魅力的に響くだろう。

また、本作はキャリア後期のロック・アルバムとしても重要である。多くのバンドが長い休止後に新作を出す場合、過去の代表曲の影に隠れてしまうことがある。しかし『Made of Rain』は、過去の名曲群とは別に、ひとつの完成された後期作品として聴くことができる。若いバンドには作れない、時間の蓄積がある。再出発というより、長い沈黙の後にしか出せない声で作られたアルバムである。

日本のリスナーには、まず暗い夜や雨の日に聴くことを想定したい作品である。即効性のあるポップ・ソングよりも、アルバム全体の湿った空気に浸ることで良さが分かる。80年代のThe Psychedelic Fursを知る人には、変わらない核と成熟した変化の両方が感じられる。初めて聴く人には、ポストパンクが年齢を重ねた時にどのような深みを持ち得るかを知る入口になる。

総じて『Made of Rain』は、The Psychedelic Fursが自分たちの美学を現代に再び響かせた、非常に優れた復帰作である。雨、灰、壊れた愛、不信、孤独、そして遠い星の光。これらがRichard Butlerの声とバンドの暗い音像の中でひとつに溶け合っている。過去の栄光に依存するのではなく、時間そのものを音楽にした、後期ポストパンクの重要作である。

おすすめアルバム

1. The Psychedelic Furs『Talk Talk Talk』

The Psychedelic Furs初期の代表作であり、ポストパンクの荒さとロマンティックな退廃が最も鋭く表れた作品。「Pretty in Pink」を含み、『Made of Rain』の陰影ある音楽性の原点を理解するうえで欠かせない。より若く、攻撃的で、ざらついたFursを聴くことができる。

2. The Psychedelic Furs『Forever Now』

Todd Rundgrenのプロデュースによって、バンドのアート性とポップ性が大きく広がった重要作。サックスやギターの使い方、Richard Butlerの声の存在感が際立っており、『Made of Rain』の成熟した音像と比較すると、バンドの進化がよく分かる。

3. Echo & the Bunnymen『Ocean Rain』

1980年代英国ポストパンク/ニューウェイヴの陰影とロマンティシズムを代表する名盤。弦楽器を含む壮大なアレンジと、暗い叙情性が特徴で、『Made of Rain』の雨や夜のイメージと深く響き合う。湿った英国ロックの美学を理解するうえで重要な作品である。

4. The Chameleons『Script of the Bridge』

広がりのあるギター、内省的な歌詞、ポストパンクの深い陰影を持つ重要作。The Psychedelic Fursよりもギターの重層性が強いが、都市的な孤独や感情の暗さという点で『Made of Rain』と相性がよい。後のオルタナティヴ・ロックにも大きな影響を与えた作品である。

5. Interpol『Turn on the Bright Lights』

2000年代ポストパンク・リバイバルを代表するアルバム。The Psychedelic Fursの世代とは異なるが、低いヴォーカル、都市の孤独、暗いギター・サウンドという点で関連性が高い。『Made of Rain』を現代的な陰影あるロックの流れの中で聴く際に有効な比較対象である。

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