
発売日:1983年4月29日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、パンク・ロック、ガレージ・ロック、パワー・ポップ、カレッジ・ロック、ポスト・パンク
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Hootenanny
- 2. Run It
- 3. Color Me Impressed
- 4. Willpower
- 5. Take Me Down to the Hospital
- 6. Mr. Whirly
- 7. Within Your Reach
- 8. Buck Hill
- 9. Lovelines
- 10. You Lose
- 11. Hayday
- 12. Treatment Bound
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. Let It Be by The Replacements
- 2. Tim by The Replacements
- 3. Zen Arcade by Hüsker Dü
- 4. Murmur by R.E.M.
- 5. Radio City by Big Star
- 関連レビュー
概要
The Replacementsの2作目のスタジオ・アルバム『Hootenanny』は、1980年代アメリカン・インディー/オルタナティヴ・ロックの形成過程において、荒削りなパンク・バンドがより広いソングライティングへ向かい始めた重要作である。1981年のデビュー作『Sorry Ma, Forgot to Take Out the Trash』では、ミネアポリス出身の若いバンドらしい高速で乱暴なパンク・ロックが前面に出ていた。曲は短く、演奏は荒く、言葉は皮肉と若者特有の衝動に満ちていた。だが『Hootenanny』では、その初期衝動を残しながらも、より多様なスタイル、ユーモア、自己批評、そして後のThe Replacementsを決定づける傷ついたメロディ感覚が少しずつ顔を出している。
The Replacementsは、ポール・ウェスターバーグ、ボブ・スティンソン、トミー・スティンソン、クリス・マーズによって形成されたバンドであり、アメリカ中西部のパンク/ハードコア・シーンと密接に関わりながらも、早い段階からその枠に収まりきらない存在だった。彼らはパンクの速度と反抗心を持ちながら、クラシック・ロック、ガレージ、R&B、カントリー、パワー・ポップ、シンガーソングライター的な内省を雑然と取り込んでいった。その雑多さは、整ったジャンル横断というよりも、練習場や安酒のライブハウスで思いついたことをそのまま鳴らすような無防備さに近い。
アルバム・タイトル『Hootenanny』は、もともとフォーク・ミュージックにおける集まりや即興的な演奏会を指す言葉である。The Replacementsがこの言葉を使うことには、明らかに冗談や皮肉が含まれている。彼らは伝統的なフォークの共同体的な温かさをそのまま受け継ぐのではなく、パンク・バンドらしい乱雑さ、酔ったような演奏、ふざけたアイデアを持ち込み、ロックンロールの形式そのものを半ば壊しながら遊んでいる。つまり本作は、完成されたアルバムというより、バンドが自分たちの可能性を試すための混沌とした実験場である。
本作の意義は、The Replacementsが単なる高速パンク・バンドから、後の『Let It Be』『Tim』『Pleased to Meet Me』へ続くオルタナティヴ・ロックの重要なソングライター・バンドへ変化する過渡期を記録している点にある。『Hootenanny』には、明らかに未整理な部分が多い。冗談のような曲、途中で崩れそうな演奏、勢いだけで押し切るトラックもある。しかし、その中に「Color Me Impressed」「Within Your Reach」のような、後のThe Replacementsの本質を先取りする楽曲が含まれている。特にポール・ウェスターバーグの歌詞には、若者の虚勢、孤独、自己嫌悪、ロマンティシズムが混ざり始めている。
1980年代初頭のアメリカにおいて、The Replacementsはハードコア・パンクの厳格な速度や政治性から距離を取り、より個人的で、だらしなく、矛盾したロックを鳴らしていた。同時代のHüsker Düがハードコアからよりメロディックで感情的な方向へ進み、R.E.M.が南部から謎めいたカレッジ・ロックを広げていたのに対し、The Replacementsは中西部の飲んだくれた若者のような態度で、パンクとクラシック・ロックの間にある壊れた橋を渡っていた。『Hootenanny』は、その危うい橋の途中にある作品である。
音楽的には、パンク、ロカビリー、ブルース、パワー・ポップ、フォーク風の内省、ジャンクなガレージ・ロックが無秩序に並ぶ。統一感という意味では後の作品に劣るが、その不統一こそが本作の特徴である。The Replacementsは、アルバムをきれいな作品として仕上げるよりも、バンドが持つ人格のばらつきそのものを記録している。ふざけているのか本気なのか、怒っているのか照れているのか、壊れているのか輝いているのか分からない。その曖昧さが、彼らを単なるパンク・バンドではなく、後のオルタナティヴ・ロックの原型のひとつにしている。
日本のリスナーにとって『Hootenanny』は、The Replacementsの代表作としてまず挙がる『Let It Be』や『Tim』に比べると、やや取っつきにくい作品かもしれない。楽曲ごとの完成度にばらつきがあり、音質も粗く、冗談のような瞬間も多い。しかし、このアルバムを聴くことで、The Replacementsがどのようにしてパンクの枠からはみ出し、傷だらけのアメリカン・ロックへ成長していったのかが見えてくる。完成された名盤ではなく、崩れながら成長していくバンドの記録として、本作は極めて重要である。
全曲レビュー
1. Hootenanny
アルバムの冒頭を飾るタイトル曲「Hootenanny」は、The Replacementsらしい悪ふざけとロックンロールの解体感が強く表れた楽曲である。曲名はフォーク的な集まりを連想させるが、実際のサウンドは整ったフォーク・セッションとは程遠く、雑然としたリズム、投げやりなヴォーカル、崩れかけた演奏によって構成されている。
音楽的には、いかにもアルバムのオープナーらしい堂々とした始まりではない。むしろ、バンドがリハーサル中にふざけて鳴らした音をそのまま収録したような印象がある。ここには、The Replacementsの重要な美学がある。彼らは、ロック・バンドが「かっこよくあるべき」という前提を疑い、失敗や雑音、冗談、未完成さを音楽の一部として取り込む。
歌詞や声の使い方も、明確なメッセージよりも場の空気を作ることに重点が置かれている。タイトルの反復や掛け声めいた表現は、フォークの集団性をパンク的に茶化すようにも聞こえる。The Replacementsにとって「集まり」は、整った共同体ではなく、酔い、騒ぎ、崩れ、笑いながら進む不完全な場である。
この曲は、アルバム全体の宣言として機能している。『Hootenanny』は、完成度の高い作品を提示するアルバムではなく、The Replacementsというバンドの混乱した魅力をそのまま見せる作品である。その意味で、冒頭から聴き手に対して、整ったロック・アルバムを期待しないよう促している。
2. Run It
「Run It」は、初期The Replacementsのパンク的な勢いを残した短く鋭い楽曲である。前曲のふざけた導入から一転して、ここではバンドの直線的な攻撃性が表れる。デビュー作『Sorry Ma, Forgot to Take Out the Trash』に近いスピード感があり、若いバンドの荒々しさがそのまま刻まれている。
音楽的には、速いテンポ、荒いギター、前のめりなドラムが中心である。ボブ・スティンソンのギターは整ったリフというよりも、勢いで切り込むように鳴り、クリス・マーズのドラムは曲を乱暴に前へ押し出す。演奏はタイトというより、今にも脱線しそうな緊張を持つ。
歌詞は、行動への衝動、何かを始める勢い、制御されない若さを感じさせる。The Replacementsの初期の言葉は、しばしば短く、直接的で、深い説明を避ける。その代わり、語感とテンションが曲の意味を作る。「Run It」という表現には、走らせる、実行する、押し切るといったニュアンスがあり、バンド自身のやり方とも重なる。
この曲は、アルバムにパンク・バンドとしての基礎体力を与えている。The Replacementsは本作で多様なスタイルへ広がっていくが、その土台には、こうした乱暴なスピードと衝動がある。
3. Color Me Impressed
「Color Me Impressed」は、『Hootenanny』の中でも特に重要な楽曲であり、The Replacementsが単なる悪ふざけのパンク・バンドではなく、鋭いソングライティングを持つバンドであることを示す代表曲である。タイトルは「感心したよ」という意味の皮肉な表現で、歌詞全体にも冷笑、退屈、疎外感が漂う。
音楽的には、パンクの勢いを残しながらも、メロディの輪郭が明確である。ギターは荒いが、曲にはしっかりとしたフックがあり、ポール・ウェスターバーグのヴォーカルも投げやりな中に切実さを含む。ここには後の『Let It Be』や『Tim』へつながるThe Replacementsの核心がある。すなわち、だらしない演奏の中に、傷ついたメロディと鋭い言葉が潜んでいるという構造である。
歌詞では、周囲の人々や社会的な振る舞いに対する退屈と皮肉が描かれる。「感心した」と言いながら、実際には何にも感心していない。むしろ、表面的なかっこよさや、流行、他人の自己演出にうんざりしている。これはパンク的な反抗であると同時に、より内向的な孤独の表現でもある。
「Color Me Impressed」は、The Replacementsの世代感覚を端的に示す曲である。何かに熱狂したいのに、何も信じられない。周囲を笑っているが、自分自身もその空虚さから逃れられない。この苦い感覚が、彼らを後のオルタナティヴ・ロックにおける重要な存在へ押し上げていく。
4. Willpower
「Willpower」は、タイトル通り意志の力、自己制御、踏みとどまる力をめぐる楽曲である。ただしThe Replacementsがこの言葉を扱うとき、そこには真面目な自己啓発的な響きではなく、むしろ意志の弱さや滑稽さへの意識が含まれる。
音楽的には、比較的ミドルテンポで、パンクの疾走感よりもギター・ロックとしての揺れがある。演奏にはラフな質感があり、きれいに整ったロックではない。声もどこか頼りなげで、タイトルの「意志力」とは裏腹に、曲全体には不安定さがある。
歌詞では、何かを我慢しようとすること、あるいは自分を律しようとすることの難しさが示される。The Replacementsの世界では、人間は立派でも強くもない。むしろ、飲みすぎ、言いすぎ、失敗し、後悔し、それでもまた同じことを繰り返す存在である。「Willpower」という言葉は、その弱さを逆説的に照らす。
この曲は、アルバムの中で内面的なテーマを少し広げる役割を持つ。The Replacementsは単に反抗的なバンドではなく、自分自身のだらしなさや矛盾にも目を向けている。その視点が後年の名曲群につながっていく。
5. Take Me Down to the Hospital
「Take Me Down to the Hospital」は、タイトルからしてThe Replacementsらしい不健康さとユーモアを持つ楽曲である。「病院へ連れて行ってくれ」という言葉には、怪我、酔い、身体の崩壊、あるいは精神的な限界が含まれる。しかし曲は悲壮なバラードではなく、むしろ荒っぽいロックンロールとして鳴る。
音楽的には、ブルースやロカビリー的な要素を含んだガレージ・ロックの感触がある。パンクの直線性から少し離れ、古いロックンロールの荒さをバンド流に崩している。演奏は緩く、どこか酔ったような感覚があり、それが曲のテーマとよく合っている。
歌詞では、身体的な不調や危機が冗談めかして描かれる。The Replacementsの特徴は、深刻な状況を深刻なまま歌うのではなく、笑いと自嘲を混ぜる点にある。病院行きという危機的なイメージも、ここではロックンロール的な茶番として扱われる。しかし、その茶番の裏には、若さの無謀さや自己破壊の気配がある。
この曲は、The Replacementsのルーツ・ロック的な側面を示す一曲である。彼らはパンクを鳴らしていたが、同時に古いアメリカン・ロックへの愛着も強かった。その愛着を真面目に再現するのではなく、乱暴に崩して自分たちの音にしている点が重要である。
6. Mr. Whirly
「Mr. Whirly」は、本作の中でも特に遊び心とパロディ感覚が強い楽曲である。The Beatlesや1960年代ポップへのからかいのような要素を含みながら、The Replacementsらしい雑な演奏と皮肉な態度で処理されている。ここでは、彼らが音楽史を敬愛しつつも、その権威をそのまま受け入れない姿勢が見える。
音楽的には、短い曲の中に複数の参照や冗談が詰め込まれている。メロディやコード感には60年代ポップの残響があるが、演奏は意図的に崩れており、きれいなオマージュにはならない。The Replacementsは、過去のロックやポップを宝物のように扱いながら、同時にそれを汚すことを恐れない。
歌詞やタイトルには、明確な物語というよりも、言葉遊びやキャラクター的な感覚がある。「Mr. Whirly」という人物は、現実の誰かというよりも、ふざけたポップ・ソングの中に現れる架空の存在のように響く。The Replacementsはここで、ポップの形式そのものを遊び道具にしている。
この曲は、アルバムの統一感を壊すようにも聞こえるが、その壊し方こそがThe Replacementsの本質である。彼らにとってアルバムとは、整った作品集ではなく、真剣さと冗談が同居する場である。「Mr. Whirly」はその混乱を象徴する一曲である。
7. Within Your Reach
「Within Your Reach」は、『Hootenanny』の中で最も異色で、同時に最も重要な楽曲のひとつである。ドラムマシンを用いたミニマルな質感、孤独なヴォーカル、夢のようなメロディが、他の荒っぽいバンド演奏とは大きく異なる雰囲気を作り出している。後のThe Replacementsの内省的な側面を先取りする曲として非常に重要である。
音楽的には、シンセやドラムマシンの使用によって、当時のポスト・パンクやニュー・ウェイヴにも近い冷たい空間が生まれている。通常のロック・バンド的な勢いは抑えられ、曲は孤立した夜の独白のように進む。ギターも激しく鳴るのではなく、音の余白を残しながら配置されている。
歌詞では、届きそうで届かないもの、近くにあるはずなのに掴めないものがテーマになっている。「Within Your Reach」というタイトルは「手の届く範囲にある」という意味だが、曲の響きはむしろ、届きそうで届かない距離を感じさせる。恋愛、夢、自己理解、救済。何が対象であれ、語り手はそれを完全には手にできない。
この曲は、The Replacementsが内に抱えていたロマンティックな孤独を初めてはっきりと示した楽曲のひとつである。荒っぽいパンク・バンドの中に、これほど繊細で壊れやすい感情が潜んでいたことを明らかにしている。アルバムの混沌の中で、突然深い夜のように開ける重要曲である。
8. Buck Hill
「Buck Hill」は、インストゥルメンタルに近い性格を持つ楽曲であり、バンドの遊び心とローカルな感覚が表れている。タイトルはミネソタ州のスキー場を連想させ、The Replacementsの地元性、中西部的な日常風景とも結びつく。
音楽的には、サーフ・ロックやインストゥルメンタル・ロックの影響を感じさせる軽快な曲である。ギターのフレーズが前面に出ており、歌詞による意味づけよりも、演奏のノリと音色が中心となる。アルバム全体の中では、気分転換のような役割を持つ。
この曲の重要性は、The Replacementsがパンクの怒りだけではなく、ロックンロールの歴史にあるさまざまな形式を遊びながら取り込んでいた点にある。サーフ的なフレーズやインスト曲の軽さは、彼らの音楽的な雑食性を示している。ただし、その演奏は洗練された再現ではなく、あくまで荒いガレージ・バンド風である。
「Buck Hill」は、アルバムの流れに一種の余白を与える曲である。深刻な意味を読み込むよりも、バンドが音を鳴らして遊んでいる感覚を味わうべきトラックである。The Replacementsのアルバムには、こうした無駄に見える瞬間がしばしば重要な人間味を与えている。
9. Lovelines
「Lovelines」は、本作の中でも特にユーモアと実験性が混ざった楽曲である。タイトルは「恋愛相談」や「愛の言葉」を連想させるが、曲は素直なラブソングではない。雑誌の個人広告や恋愛欄を読み上げるような形式が取り入れられ、The Replacementsらしい皮肉と観察眼が表れている。
音楽的には、曲としての整った構成よりも、アイデアの面白さが重視されている。演奏はラフで、言葉の断片が曲の中心になる。ロック・ソングというより、社会の中に流通する恋愛の定型文を茶化すようなコラージュに近い。ここにはポスト・パンク的な発想もある。
歌詞では、恋愛や欲望が商品化され、短い文句や条件として並べられる様子が描かれる。個人広告のような形式では、人間の複雑さが数行の説明に圧縮される。The Replacementsはその滑稽さを笑いながらも、同時に人が誰かを求める孤独を見逃していない。ふざけているようで、根底には寂しさがある。
「Lovelines」は、The Replacementsのユーモアが単なる悪ふざけではなく、社会観察にもつながっていることを示す楽曲である。彼らは真面目なラブソングを書くこともできるが、ここでは恋愛が定型句に変わる瞬間をからかっている。
10. You Lose
「You Lose」は、短く攻撃的なパンク・ロックであり、The Replacementsの初期衝動が再び前面に出た楽曲である。タイトルは「お前の負け」という直接的な言葉で、勝敗、対立、拒絶の感覚が明確に示されている。
音楽的には、速いテンポと荒いギターが中心で、長い説明を拒むように曲が突き進む。演奏は粗く、声も投げつけるようである。The Replacementsのパンクは、政治的に整った主張というより、日常の苛立ちや対人関係の怒りをそのまま吐き出すタイプのものだった。この曲にもその性格がよく表れている。
歌詞では、相手に対する断絶や勝ち負けの意識が描かれる。ただし、その言葉は強いようでいて、どこか子どもじみてもいる。「You Lose」と言うことで相手を切り捨てようとするが、その単純さがかえって語り手の不安定さを示す。The Replacementsの怒りには、しばしばこうした未熟さと自嘲が混ざる。
この曲は、アルバムの混沌の中にパンク的な瞬発力を戻す役割を持つ。完成度よりも勢いを重視する姿勢が、The Replacementsの初期の魅力を支えている。
11. Hayday
「Hayday」は、タイトルの綴りからして遊びがあり、通常の「heyday」、すなわち全盛期という言葉を連想させる。The Replacementsがこの言葉を扱う場合、そこには成功や栄光への皮肉が含まれる。バンドがまだ地下シーンの存在だった時期に「全盛期」を歌うこと自体が、冗談であり、同時に未来への予感でもある。
音楽的には、比較的メロディアスなロック・ソングで、アルバム終盤に少し明るい表情を与えている。荒っぽい演奏の中にも、ポール・ウェスターバーグのメロディ・センスが見える。The Replacementsの魅力は、どれだけ雑に演奏しても、曲の奥に切ないメロディが残る点にある。この曲もその一例である。
歌詞では、全盛期や若さの瞬間が皮肉っぽく扱われていると考えられる。人は自分が「全盛期」にいるとき、それに気づかないことが多い。むしろ、後から振り返って初めて、あの時期が特別だったと分かる。The Replacementsの音楽には、若さの真っ只中にいながら、すでにその終わりを予感しているような感覚がある。
「Hayday」は、本作の中で後のThe Replacementsの感傷的なロックへつながる要素を持つ曲である。ふざけたタイトルとラフな演奏の下に、時間への意識がにじんでいる。
12. Treatment Bound
アルバムを締めくくる「Treatment Bound」は、The Replacementsの自己破壊的なユーモアと弱さが同時に表れた楽曲である。タイトルは「治療行き」「処置される運命」といった意味を持ち、酒、失敗、病気、精神的な不調を連想させる。アルバムの最後にこの曲を置くことで、『Hootenanny』は明るい勝利ではなく、壊れたまま終わる。
音楽的には、アコースティックな質感を持ち、荒いパンク・ソングとは異なる親密さがある。演奏は決して整っていないが、その不完全さが曲の内容と深く結びついている。まるで酔った後の帰り道で歌われるような、弱々しくも人間味のある曲である。
歌詞では、自分たちがまともではないこと、治療や矯正が必要な状態にあることを自嘲的に歌う。しかし、その自嘲は単なる笑いではない。The Replacementsの音楽には、自分たちのだらしなさや失敗を笑いながら、その奥にある孤独や痛みを隠しきれない瞬間がある。この曲はまさにその典型である。
「Treatment Bound」は、『Hootenanny』の締めくくりとして非常に象徴的である。アルバム全体を通して、バンドはふざけ、走り、崩れ、時に美しい曲を書き、最後には治療が必要だと笑っている。その笑いの中に、The Replacementsというバンドの深い悲しさと魅力が凝縮されている。
総評
『Hootenanny』は、The Replacementsのディスコグラフィの中で最も整った作品ではない。むしろ、粗く、散漫で、冗談が多く、曲ごとの完成度にも大きな差がある。しかし、その未完成さこそが本作の本質である。The Replacementsはここで、デビュー作の高速パンクから抜け出し、後のオルタナティヴ・ロックを準備するための混沌とした実験を行っている。
本作の中心にあるのは、若さの矛盾である。真剣になりたいのに、真剣になることを恐れてふざける。愛や孤独を歌いたいのに、冗談やノイズで隠す。ロックンロールの伝統に憧れているのに、その伝統をまともに演奏することを拒む。The Replacementsは、その矛盾をきれいに整理しない。むしろ、矛盾を抱えたままアルバムに刻み込む。そのため『Hootenanny』は、聴き手にとって時に雑で不親切に感じられるが、非常に生々しい。
音楽的には、パンク・ロックを基盤にしながら、ガレージ、ロカビリー、パワー・ポップ、フォーク、インストゥルメンタル、ニュー・ウェイヴ的な要素までが混ざり合う。これらは洗練されたジャンル横断ではなく、無秩序な試行錯誤である。しかし、この試行錯誤がなければ、後の『Let It Be』の多様性や『Tim』のソングライティングには到達しなかった。『Hootenanny』は、The Replacementsが自分たちの狭いパンクの檻を壊し始めた瞬間の記録である。
特に重要なのは、「Color Me Impressed」と「Within Your Reach」である。前者は、皮肉と孤独をパンク・ロックの形で表現した曲であり、後者は、荒っぽいバンドの中に潜む繊細で孤独なロマンティシズムを明らかにした曲である。この2曲は、The Replacementsが後にアメリカン・オルタナティヴ・ロックの重要バンドとして評価される理由を早くも示している。彼らは下手で、荒く、ふざけていたが、その奥に非常に鋭い感情の核を持っていた。
1980年代アメリカン・インディーの文脈では、『Hootenanny』はカレッジ・ロックやオルタナティヴ・ロックの形成過程における重要なアルバムである。R.E.M.が謎めいたギター・ポップで新しい知性を示し、Hüsker Düがハードコアからメロディックな激情へ向かっていた時期に、The Replacementsはもっとだらしなく、もっと人間的で、もっと矛盾したロックを作っていた。その不完全な姿勢は、後の多くのオルタナティヴ・ロック、インディー・ロック、エモ、パワー・ポップに影響を与えることになる。
日本のリスナーにとって本作は、The Replacementsの入門作としては少し癖が強い。最初に聴くなら『Let It Be』や『Tim』の方が分かりやすい可能性が高い。しかし、The Replacementsというバンドの本質、すなわち失敗と名曲、冗談と本音、パンクとクラシック・ロックへの愛情がぐちゃぐちゃに混ざった魅力を知るには、『Hootenanny』は避けて通れない。整っていないからこそ、バンドの輪郭がむき出しになっている。
『Hootenanny』は、完成された名盤というより、名盤へ向かう途中でバンドが床にこぼした酒、破れた歌詞、失敗した冗談、そして突然現れる美しいメロディを集めたアルバムである。The Replacementsの危うさ、だらしなさ、才能、照れ、孤独が一枚の中で衝突している。オルタナティヴ・ロックがまだ名前を持ちきらなかった時代に、ロックの不完全さをそのまま魅力へ変えた、重要な過渡期の作品である。
おすすめアルバム
1. Let It Be by The Replacements
The Replacementsの代表作のひとつであり、『Hootenanny』で見え始めた多様性とソングライティングが大きく開花した作品。パンク、パワー・ポップ、バラード、ユーモア、孤独がより高い完成度で結びついている。「I Will Dare」「Unsatisfied」など、バンドの核心に触れる名曲が多く、The Replacementsを理解するうえで最重要のアルバムである。
2. Tim by The Replacements
メジャー移籍後の作品であり、ポール・ウェスターバーグのソングライターとしての才能がさらに明確になったアルバム。『Hootenanny』の粗さは整理され、よりメロディアスで普遍的なロックへ進んでいる。「Bastards of Young」「Here Comes a Regular」など、失われた若さや孤独を描く名曲が収録されており、バンドの成熟を知るために重要である。
3. Zen Arcade by Hüsker Dü
同じミネアポリス周辺の重要バンドHüsker Düによる1984年の大作。ハードコア・パンクを出発点にしながら、メロディ、ノイズ、コンセプト性を大きく拡張した作品である。The Replacementsがだらしなさとロックンロールの雑多さでパンクを広げたのに対し、Hüsker Düは激情と構築力でパンクを拡張した。両者を聴くことで、1980年代中西部オルタナティヴの幅が見えてくる。
4. Murmur by R.E.M.
1983年に発表されたR.E.M.のデビュー・アルバムで、アメリカン・カレッジ・ロックの形成に大きな役割を果たした作品。The Replacementsとは対照的に、謎めいた歌詞、絡み合うギター、抑制された演奏が特徴である。同時代のアメリカ地下ロックが、パンク以後にどのような方向へ広がっていったかを理解するうえで、『Hootenanny』と並べて聴く価値が高い。
5. Radio City by Big Star
The Replacementsが強い影響を受けたパワー・ポップの重要作。Big Starの持つ甘いメロディ、壊れやすい感情、商業的には報われにくかったロック・バンドとしての神話は、The Replacementsの美学と深くつながっている。『Hootenanny』の中に時折現れる切ないメロディや、後のThe Replacementsのパワー・ポップ的側面を理解するために重要なアルバムである。

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