発売日: 2022年12月21日
ジャンル: バロックポップ、チャンバー・ロック、アートロック、スローコア
概要
『SZNZ: Winter』は、Weezerが展開した四季連作プロジェクト『SZNZ(シーズンズ)』の最終章として2022年冬至の日にリリースされたアルバムである。
この作品は“冬”という季節の象徴である静けさ、終焉、内省、そして再生への予感を、厳かな音像と詩的な構成によって描いた、シリーズ中もっとも深遠な雰囲気をたたえた一作である。
本作では、アコースティック・ギターやハープ、ストリングスといった繊細な編成を軸に、教会音楽や聖歌のようなコーラスが織り交ぜられ、いわば“宗教的バロックポップ”とも言えるサウンドスケープが展開される。
その中で、Rivers Cuomoは孤独や赦し、存在の儚さをテーマに、かすかな希望の灯を見つめるような静謐なリリックを綴っている。
『SZNZ: Spring』から始まった一年の旅路が、ここで静かに幕を閉じる——その終着点として、本作は極めて瞑想的かつ美的な完結を与えている。
全曲レビュー
1. I Want a Dog
アルバムの幕開けは、静かなピアノと優しいストリングスが支えるスローなバラード。
「僕には犬が必要だ」と繰り返す歌詞の裏には、人間関係からの逃避と、無償の愛への希求が滲んでいる。
2. Iambic Pentameter
タイトル通り“弱強五歩格”という詩のリズムをテーマにした知的なポップソング。
形式に囚われつつ感情を伝えようとするもどかしさが、寒い空気の中で言葉を探すような感覚と重なる。
3. Basketball
冬の季節に室内で行われるスポーツをメタファーに、閉ざされた世界での人間関係の駆け引きを描く。
弦楽器とピアノのタイトな絡みが、試合の緊張感と心の動きを表現する。
4. Sheraton Commander
実在のホテルを舞台に、過去の記憶や旅の孤独を描いた叙情的トラック。
ストリングスの重なりとRiversの繊細なボーカルが、まるで雪のように降り積もる情景を生む。
5. Dark Enough to See the Stars
C.S.ルイスの言葉を参照したタイトルで、「星が見えるほど暗くなる」=「絶望の中の希望」をテーマに据えた楽曲。
終末と希望が交差するメロディが、アルバムの中核を成す。
6. The One That Got Away
失われた愛を悔いるバラードで、涙が凍るような感傷が漂う。
アコースティックと室内楽の編成が、情緒の輪郭を美しく際立たせている。
7. The Deep and Dreamless Sleep
アルバムのクライマックスに置かれた、幻想的で幽玄な一曲。
夢もない深い眠りの中で語られるのは、生と死、記憶と忘却の狭間にある微かな意識だ。
重層的なコーラスと残響が、まるで雪の中に沈んでいくような感覚を生む。
総評
『SZNZ: Winter』は、四季というテーマを巡る旅の終着点にふさわしい、静謐で崇高なポップ・アルバムである。
ロックバンドとしての躍動からは距離を置き、代わりに採用されたのは、宗教音楽的な荘厳さと、個人的な沈黙の美学。
そこには、“騒がしさの先にある音楽”を追求するWeezerの成熟と、表現の幅の広がりが顕著に現れている。
特筆すべきは、本作に流れる“終わりの中にある再生”という感覚。
それは季節の循環という構造の中に埋め込まれた自然の摂理であり、また、人生そのものに対する優しい肯定でもある。
音数は少なく、テンポも遅く、派手な展開はない。
だが、その静けさの中にこそ、深い温度と普遍的な情感が宿っており、耳を澄ませば澄ますほど、心に降り積もっていく。
まるで雪原に立ち尽くすような感覚で味わうべき、Weezerの“最も静かな傑作”である。
おすすめアルバム(5枚)
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Carrie & Lowell / Sufjan Stevens
静寂と喪失、そして赦しの感覚が共鳴する。アコースティックと室内楽の繊細な美学も共通。 -
For Emma, Forever Ago / Bon Iver
冬に録音された伝説のローファイ・フォーク。『Winter』の孤独感と詩情に響く作品。 -
Seven Swans / Sufjan Stevens
宗教的テーマと静謐な音像が強くリンクするスピリチュアル・フォークの金字塔。 -
A Moon Shaped Pool / Radiohead
終末と内省をテーマに、ストリングス主体で構築された現代のバロックポップ。『Winter』の知的深度と重なる。 -
Ghosteen / Nick Cave & The Bad Seeds
喪失と再生、沈黙と希望の交錯を描いた作品。聖なる静けさの中に強い感情が宿るという点で極めて近い。
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