
発売日:2022年11月18日
ジャンル:インディー・ロック/インディー・ポップ/オルタナティヴ・ロック/シンセ・ロック/ポスト・ブリットポップ
概要
The WombatsのIs This What It Feels Like to Feel Like This?は、2022年に発表されたEPであり、同年のアルバムFix Yourself, Not the World後のバンドのモードをコンパクトに示す作品である。The Wombatsは、2000年代後半の英国インディー・ロック・シーンを代表するバンドの一つであり、リヴァプール出身の3人組として、鋭いギター、シンセの明るい音色、疾走感のあるリズム、そして神経症的で皮肉な歌詞を組み合わせてきた。
彼らの初期作品、特に2007年のデビュー作A Guide to Love, Loss & Desperationでは、若者の恋愛、酔い、クラブ、自己嫌悪、都市生活の混乱が、性急なギター・ポップとして描かれていた。その後の作品では、サウンドはよりシンセポップ的に洗練され、歌詞はより内省的になっていく。GlitterbugやBeautiful People Will Ruin Your Lifeでは、ロマンティックな幻想と自己破壊、ポップな輝きと精神的な不安が同時に鳴らされていた。
Is This What It Feels Like to Feel Like This?は、その延長線上にある作品である。タイトルからして、The Wombatsらしい自己観察のねじれが表れている。「こう感じるとは、こういう感じなのか?」という問いは、感情をそのまま受け止めることができず、自分の感情をさらに外側から観察してしまう現代的な不安を示している。幸福、恋愛、不安、衝動、後悔、自己破壊を経験しているはずなのに、それを本当に「感じている」と言えるのか分からない。感情そのものが、常にメタ的に処理されてしまう。この感覚は、The Wombatsの歌詞世界に非常に合っている。
音楽的には、EP全体においてギター・ロックの推進力とシンセポップ的な明快さがバランスよく配置されている。初期のような荒々しいインディー・ディスコの勢いは残しつつも、プロダクションはよりタイトで、各楽曲はフックを明確に持つ。メロディは非常にキャッチーでありながら、歌詞はしばしば不穏で、自己嫌悪や混乱を含む。この「明るい音に暗い言葉を乗せる」方法は、The Wombatsの核にある魅力である。
本作はフル・アルバムではなくEPであるため、大きなコンセプトを長時間かけて展開する作品ではない。しかし、短い収録時間の中で、バンドの現在地がはっきり示されている。各曲は独立したポップ・ソングとして機能しながら、全体としては、感情をうまく処理できない人物が、恋愛、衝動、自己認識、過去の失敗の中をぐるぐる回り続けるような感覚を共有している。
日本のリスナーにとって本作は、The Wombatsの持つ「踊れるインディー・ロック」と「皮肉な内省」の両面を手軽に確認できるEPである。キャッチーなUKインディー・ロック、The 1975以降のポップ化したギター・バンド、あるいはTwo Door Cinema Club、Foals、Phoenix周辺の明快なインディー・ポップに親しんでいるリスナーには入りやすい。一方で、歌詞に注目すると、単なる陽気なギター・ポップではなく、感情の処理不全や自己批評が強く響く作品であることが分かる。
全曲レビュー
1. I Think My Mind Has Made Its Mind Up
「I Think My Mind Has Made Its Mind Up」は、EPの冒頭曲として、The Wombatsらしい神経症的な自己観察を端的に示す楽曲である。タイトルは「自分の心がもう決めたような気がする」という意味だが、ここには強い優柔不断さと自己分裂がある。自分の意思を自分自身が直接決めるのではなく、「心が決めたらしい」と一歩引いて見ている。この距離感こそ、The Wombatsの歌詞世界の特徴である。
音楽的には、軽快なリズムと明快なギター、シンセの整理された響きが印象的である。曲はテンポよく進み、サビにはすぐに耳に残るフックがある。だが、その明るさの裏で歌われているのは、決断できない自分、感情に振り回される自分、思考が勝手に先へ進んでしまう感覚である。ポップな曲調と不安定な内面がずれている点が、この曲の面白さである。
歌詞のテーマは、自己決定の不確かさである。現代のポップ・ソングでは「自分らしくあれ」「決断しろ」といった肯定的なメッセージが多いが、The Wombatsはむしろ、自分の心すら信用できない状態を描く。自分は本当にそう思っているのか、それとも不安や習慣や過去の失敗に動かされているだけなのか。この問いが、軽快なインディー・ロックの形で提示される。
冒頭曲として、この楽曲はEP全体のテーマをよく示している。本作では、感情は単純に爆発するものではなく、常に分析され、疑われ、言葉の中でねじれていく。「I Think My Mind Has Made Its Mind Up」は、その複雑な自己認識を、踊れるポップ・ロックに変換した優れたオープニングである。
2. Dressed to Kill
「Dressed to Kill」は、タイトルからファッション、自己演出、誘惑、攻撃性を連想させる楽曲である。「殺すために着飾る」という表現は、英語圏では非常に魅力的に着飾っていることを意味する慣用句でもあるが、The Wombatsの場合、その魅力の背後には自己防衛や不安が見える。着飾ることは、他者に見られるためであると同時に、自分の弱さを隠すための鎧でもある。
サウンドは、EPの中でも非常にキャッチーで、クラブ感覚を持ったインディー・ポップとして機能している。ギターとシンセが軽快に絡み、リズムは前向きに進む。メロディはポップであり、聴き手をすぐに引き込む。しかし、歌詞の中にある自己演出の不安定さを考えると、この明るさは完全な自信ではなく、少し過剰な虚勢として響く。
歌詞のテーマは、魅力と不安の関係である。誰かを惹きつけるために自分を演出することは、同時に自分がそのままでは不十分だと感じていることの裏返しでもある。The Wombatsの曲では、恋愛やナイトライフはしばしば解放の場であると同時に、自己嫌悪が増幅される場でもある。「Dressed to Kill」もその系譜にある。
この曲の重要性は、The Wombatsのポップ・バンドとしての強みが明確に表れている点にある。歌詞の内容はやや屈折しているが、曲は非常に開かれている。踊れる、歌える、すぐに覚えられる。しかし、聴き込むと、そこには表面的な自信の裏側にある不安や緊張が見えてくる。The Wombatsらしい二重構造を持った楽曲である。
3. Demon
「Demon」は、本作の中でも比較的暗いテーマを直接的に扱う楽曲である。タイトルの「悪魔」は、外部にいる怪物というより、自分の内側にいる破壊的な衝動、依存、自己嫌悪、不安の象徴として機能している。The Wombatsの歌詞では、精神的な問題がしばしばユーモアや皮肉を通じて描かれるが、この曲ではその影がより濃い。
音楽的には、ダークな空気を持ちながらも、完全に沈み込むわけではない。リズムはしっかりと前進し、メロディにはポップな輪郭がある。つまり、曲は暗いテーマを扱いながらも、重苦しいバラードではなく、The Wombatsらしいテンションを保っている。この点が重要である。内面の悪魔は、静かな部屋の中だけでなく、明るいビートの中にも現れる。
歌詞のテーマは、自己との闘いである。悪魔は外からやってくるものではなく、自分自身の一部として存在する。逃げようとしても、無視しようとしても、それは戻ってくる。恋愛、酒、夜遊び、仕事、成功、自己分析など、どのような手段を使っても、自分の内側にある不安からは簡単に逃げられない。
この曲は、EP全体に深みを与えている。キャッチーなインディー・ロックとして聴ける一方で、内面の暗さがはっきりと見えるからである。The Wombatsの音楽は、表面上は明るく、フェスやクラブでも機能する。しかし、その中心にはしばしば孤独や自己破壊がある。「Demon」は、その核心を比較的ストレートに示す楽曲である。
4. Is This What It Feels Like to Feel Like This?
表題曲「Is This What It Feels Like to Feel Like This?」は、EP全体の主題を最も明確に表す楽曲である。タイトルの反復的でねじれた表現は、感情を直接経験することができず、その感情をさらに観察し、確認し、疑ってしまう状態を示している。これは非常に現代的な感覚である。何かを感じているはずなのに、それが本物なのか分からない。喜び、不安、愛、喪失、興奮、疲労が、すべて自分の中で一度距離を置かれてしまう。
音楽的には、The Wombatsらしいキャッチーなギター・ポップであり、サビには強い高揚感がある。タイトルの問いは哲学的にも見えるが、曲自体は難解ではない。むしろ、軽快で、すぐに口ずさめる。この分かりやすいポップさと、歌詞の中の感情の混乱が同居することで、曲に独特の切実さが生まれている。
歌詞のテーマは、感情の自己認識である。人は何かを感じたとき、それをそのまま受け止めるのではなく、「これは恋なのか」「これは不安なのか」「これは幸福なのか」「これはただの習慣なのか」と考えてしまう。特にSNSやメンタルヘルスの言語が広く共有される現代では、自分の感情を分類し、名前をつけ、説明することが求められがちである。しかし、その説明が感情そのものを遠ざけてしまうこともある。
この曲は、The Wombatsの成熟した自己分析の表れでもある。初期の彼らは、若さゆえの衝動や混乱を高速のギター・ロックとして吐き出していた。本曲では、混乱はより洗練されたポップ・ソングの中に収められている。しかし、整理された分だけ、自己観察の不気味さが増している。感情を感じることすら、もはや自然ではない。この感覚をタイトルそのものにした点が、本曲の大きな強みである。
5. Same Old Damage
「Same Old Damage」は、過去から繰り返される傷や失敗をテーマにした楽曲である。タイトルは「いつもの古いダメージ」と訳せる。新しい恋愛、新しい生活、新しい決意をしても、結局は同じ傷に戻ってしまう。The Wombatsの歌詞世界では、自己破壊や不安は一度きりの出来事ではなく、パターンとして繰り返される。本曲はその循環を描いている。
音楽的には、やや落ち着いたトーンを持ちながらも、しっかりとしたリズムとメロディがある。派手な爆発よりも、じわじわと残る痛みを表現するような曲である。ギターとシンセは過度に攻撃的ではなく、むしろ少し冷えた空気を作る。そこにRivers CuomoではなくMatthew Murphy的なThe Wombatsのヴォーカル感覚、すなわち皮肉と感傷が入り混じった歌い方が乗る。
歌詞のテーマは、回復の難しさである。人は過去のダメージを乗り越えたつもりでも、似た状況になると同じ反応を繰り返す。恋愛で同じ相手を選んでしまう、同じ不安に陥る、同じ言葉で相手を傷つける、同じ逃げ方をする。そうした反復が「same old damage」という言葉に込められている。
この曲は、EPの中で最も後悔の色が濃い楽曲の一つである。表題曲が「感情を感じること」へのメタ的な問いだとすれば、「Same Old Damage」は、その感情が過去の傷と結びついて何度も戻ってくることを描く。The Wombatsのポップさの奥にある、抜け出せないパターンへの自覚がよく表れている。
6. Good Idea at the Time
「Good Idea at the Time」は、EPの締めくくりとして非常にThe Wombatsらしいタイトルを持つ楽曲である。「その時は良い考えに思えた」という言葉は、後悔と自己弁護が混ざった表現である。衝動的な行動、恋愛の失敗、飲みすぎ、言いすぎた言葉、間違った決断。それらは後から見れば明らかに失敗だったとしても、その瞬間には正しいように感じられた。本曲は、その人間的な愚かさを軽やかに描いている。
サウンドは、EPの終盤にふさわしく、キャッチーでありながら少し乾いた余韻を残す。曲調は決して重すぎず、むしろ明るさすらある。しかし、その明るさは完全な肯定ではない。むしろ、失敗を笑うしかないという諦めに近い。The Wombatsは、自己破壊を深刻に描く一方で、それをユーモアに変える力も持っている。この曲はそのバランスがよく表れている。
歌詞のテーマは、衝動と後悔である。人はその場の空気、欲望、孤独、見栄、酔い、期待によって行動する。そして後になって、その行動の結果と向き合う。The Wombatsの主人公たちは、完全に反省して成長するわけではない。むしろ、反省しながらもまた同じようなことを繰り返す。その不完全さが、人間味として描かれている。
EPの最後にこの曲が置かれることで、本作は暗い内省だけでは終わらない。感情を疑い、悪魔と向き合い、古い傷を見つめた後に、最後には「その時は良い考えだった」と笑う。この軽さは逃避でもあるが、同時に生き延びるための態度でもある。The Wombatsらしい苦味のある締めくくりである。
総評
Is This What It Feels Like to Feel Like This?は、The Wombatsの魅力を短いEP形式に凝縮した作品である。大きな革新作ではないが、彼らが長年磨いてきたインディー・ロック/インディー・ポップの手法、すなわちキャッチーなメロディ、踊れるリズム、シンセとギターの明るい響き、そして神経症的な歌詞の組み合わせが安定して機能している。
本作の中心にあるのは、感情への不信である。自分が何を感じているのか分からない。決めたつもりでも、それが本当に自分の意思なのか分からない。着飾っても不安は消えない。内側の悪魔は消えない。古い傷は戻ってくる。失敗はその瞬間には良い考えに見える。このような感情の処理不全が、EP全体を貫いている。
音楽的には、The Wombatsらしい明快なポップ・センスが際立つ。各曲は短く、フックが強く、ライブでも機能しやすい構造を持っている。だが、単なる軽いインディー・ポップではない。歌詞に注目すると、そこには自己観察の疲労、現代的な不安、恋愛や自己演出への疑いがある。音楽が明るいからこそ、歌詞の暗さがより鋭く響く。
このEPは、初期The Wombatsのような衝動的な若さではなく、経験を重ねたバンドの手つきによって作られている。若い頃の混乱は、ここではより整理されたポップ・ソングになっている。しかし、整理されたからといって、感情が穏やかになったわけではない。むしろ、自分の感情を分析しすぎてしまう大人の不安が強く出ている。その意味で、本作はThe Wombatsの成熟した神経症ポップと呼べる。
日本のリスナーにとっては、The Wombatsのフル・アルバムを聴く前の入口としても有効である。収録時間は短く、曲ごとの個性も分かりやすい。UKインディー・ロックの軽快さを楽しむこともできるし、歌詞を読み込めば、現代的な感情の不安定さを描いた作品としても聴ける。特に、The 1975、Two Door Cinema Club、Circa Waves、Foalsのポップな側面に親しんでいるリスナーには、自然に入っていけるサウンドである。
Is This What It Feels Like to Feel Like This?は、The Wombatsが持つ「踊れるのに不安」「明るいのに自己嫌悪」「軽いのに後悔が残る」という魅力を端的に示したEPである。感情を感じているはずなのに、その感情を信じきれない。そんな現代的な心のねじれを、バンドはキャッチーなインディー・ポップとして鳴らしている。短い作品ながら、The Wombatsの本質がよく表れた一枚である。
おすすめアルバム
1. The Wombats『A Guide to Love, Loss & Desperation』
2007年発表のデビュー作。高速のギター・ロック、皮肉な歌詞、若者の恋愛と自己嫌悪が詰め込まれた作品であり、The Wombatsの原点を知るうえで重要である。Is This What It Feels Like to Feel Like This?の洗練されたポップ感覚と比べることで、バンドの成長が見える。
2. The Wombats『Glitterbug』
2015年発表のアルバム。シンセポップ的な質感とインディー・ロックのギターがバランスよく融合し、恋愛、都市生活、自己破壊的な欲望がキャッチーに描かれている。本EPの明るいサウンドと屈折した歌詞の組み合わせに近い魅力を持つ作品である。
3. The Wombats『Fix Yourself, Not the World』
2022年発表のアルバムで、本EPの直前にあたる作品。より大きなスケールのポップ・ロックとして整理されており、自己改善、現代的な不安、孤独といったテーマが扱われている。Is This What It Feels Like to Feel Like This?の背景を理解するうえで重要な一枚である。
4. Two Door Cinema Club『Tourist History』
2010年発表のインディー・ポップ/ギター・ロックの代表的作品。軽快なリズム、鋭いギター、キャッチーなメロディが特徴で、The Wombatsのダンサブルな側面と親和性が高い。2000年代後半から2010年代初頭のUK/アイルランド系インディー・ポップの空気を理解できる作品である。
5. The 1975『The 1975』
2013年発表のデビュー作。ギター・ロック、シンセポップ、R&B的な質感、若者の恋愛と自己意識を結びつけた作品である。The Wombatsよりも都会的でスタイリッシュだが、明るいポップ・サウンドの中に不安や自己批評を含む点で、本EPと比較しやすい作品である。

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