アルバムレビュー：Daddy’s Home by St. Vincent

アルバムレビュー

2024.11.12

発売日: 2021年5月14日
ジャンル: アートポップ、サイケデリックソウル、ファンク、ロック

Daddy’s Homeは、St. Vincent（アニー・クラーク）による7作目のスタジオアルバムで、1970年代のニューヨークに根差したソウルフルでファンキーなサウンドが展開されている。タイトルからもわかるように、St. Vincentの父親の刑務所からの出所をきっかけに制作された本作は、個人的な経験や過去をテーマに、彼女の内面を掘り下げたアルバムだ。1970年代特有の温かみのあるサウンドと、現代的なエッジを融合させたスタイルで、彼女の持つアートポップの才覚が新たな形で表現されている。

プロデューサーには再びJack Antonoffを迎え、サイケデリックなファンクとソウル、グラムロックの要素を取り入れたサウンドが特徴的だ。St. Vincentのボーカルはこれまでよりも柔らかく、ビンテージの空気感とともに温かみを感じさせる。アルバム全体はダークでありながらもユーモアが混ざり合い、彼女のパーソナルなストーリーテリングが楽曲ごとに異なる視点で展開されている。

トラックごとの解説

1. Pay Your Way in Pain
70年代風のファンクとソウルが混ざり合うアップテンポな楽曲で、キャッチーなサウンドに乗せて、痛みや葛藤について歌っている。歪んだシンセとSt. Vincentのエネルギッシュなボーカルが印象的。

2. Down and Out Downtown
ノスタルジックでメランコリックなトラックで、都会での孤独や失望感を表現。スローテンポでメロウなビートが、70年代のニューヨークの雰囲気を漂わせている。

3. Daddy’s Home
アルバムのタイトル曲で、父親との複雑な関係について語られたパーソナルな一曲。ソウルフルなコーラスと控えめなファンクビートが、切なくも温かみのある雰囲気を醸し出す。

4. Live in the Dream
サイケデリックなサウンドが広がるトラックで、ゆったりとしたリズムと幻想的なメロディが特徴。夢と現実の曖昧さを描き、St. Vincentの柔らかなボーカルが幻想的に響く。

5. The Melting of the Sun
フェミニズムや自己肯定感をテーマにした楽曲で、アイコニックな女性アーティストたちへのオマージュが込められている。リッチなサウンドとソウルフルなアレンジが魅力的。

6. The Laughing Man
メロウで内省的なトラックで、失われた希望や過去の傷について描写している。しっとりとしたギターとSt. Vincentの感情的なボーカルが心に響く。

7. Down
軽快なファンクのリズムが特徴で、復讐心や怒りがテーマ。エッジの効いたギターリフと、St. Vincentの力強い歌声がインパクトを与える一曲。

8. Somebody Like Me
切ない歌詞が特徴のバラードで、自己肯定や自己疑問についてのメッセージが込められている。シンプルなアレンジが彼女のボーカルを引き立てている。

9. My Baby Wants a Baby
アニー・レノックスの「Money Can’t Buy It」へのオマージュで、家庭や愛に対する葛藤をテーマにしたトラック。ポップでキャッチーなメロディが耳に残る。

10. …At the Holiday Party
穏やかなメロディが特徴で、パーティーにおける孤独と疎外感がテーマ。ピアノとコーラスが美しく絡み合い、哀愁が漂うトラックに仕上がっている。

11. Candy Darling
アルバムのエンディングを飾るバラードで、アンダーグラウンドカルチャーや自己表現についてのメッセージが込められている。儚げで美しいメロディとSt. Vincentの感情的な歌声が、リスナーに余韻を残す。

アルバム総評

Daddy’s Homeは、St. Vincentがこれまでのエレクトロポップからさらに進化し、1970年代風のレトロで温かみのあるサウンドを取り入れた個性的な作品である。ビンテージ感漂うソウルフルでファンキーなトラックが多く、彼女の音楽的な柔軟性と革新性が感じられる。また、個人的なテーマや家族のストーリーが歌詞に反映され、リスナーに彼女の新たな側面を垣間見せる。Daddy’s Homeは、St. Vincentの成熟したアーティストとしての進化を感じさせる一枚で、現代のポップミュージックの枠を超えた挑戦的な作品である。