
- 発売日: 2020年4月10日
- ジャンル: インディー・ロック、ニューウェイヴ、シンセ・ロック、オルタナティヴ・ロック、ポストパンク、アート・ロック
概要
The Strokesの6作目のスタジオ・アルバム『The New Abnormal』は、バンドのキャリア後半における大きな再評価のきっかけとなった作品であり、2000年代初頭のガレージ・ロック・リバイバルを象徴した彼らが、過去の自分たちの神話を無理に再現するのではなく、成熟した形で更新したアルバムである。2001年のデビュー作『Is This It』によって、The Strokesはニューヨークのロック・シーンを世界的な注目の中心へ押し上げた。続く『Room on Fire』ではその鋭いミニマリズムをさらに洗練させたが、その後の『First Impressions of Earth』『Angles』『Comedown Machine』では、重厚化、80年代ニューウェイヴへの接近、シンセ・ポップ的な実験などを試みながら、評価は大きく分かれてきた。
『The New Abnormal』は、そうした長い試行錯誤の後に現れた、非常に自然な統合作である。初期The Strokesの特徴である鋭いツイン・ギター、乾いたリズム、都市的な倦怠感は残っている。しかし本作では、それらが若さの衝動としてではなく、時間を経たバンドが自分たちの過去を引き受けたうえで鳴らす音として響く。80年代ニューウェイヴやシンセ・ポップの要素も強く、The Cars、New Order、A-ha、Talking Heads、Blondie、さらにはポストパンク以降の冷たいポップ感覚との接続も感じられる。だが、それらの参照は『Angles』や『Comedown Machine』の時よりも無理なく整理され、楽曲の感情に自然に溶け込んでいる。
本作のプロデューサーはリック・ルービンである。彼は過剰な装飾よりも、アーティストの核を引き出すプロデュースで知られる人物だが、『The New Abnormal』でもその手腕は大きい。アルバム全体の音は、初期作のようにローファイで閉じたものではなく、開放的で、各楽器の輪郭が明確である。ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、ヴォーカルが広い空間の中に配置され、The Strokesの持つクールさと哀愁がより大きなスケールで響く。
タイトルの『The New Abnormal』は、「新しい異常」と訳せる。通常なら「ニュー・ノーマル」という表現が使われるところを、「正常」ではなく「異常」とすることで、現代社会の不安定さ、価値観の変化、そしてバンド自身の状態が示されている。発表時期が2020年であったこともあり、このタイトルは世界的な不確実性と強く響き合った。しかし本作の内容は、単に社会状況への反応というより、長く続いた関係、壊れかけたコミュニケーション、過去への後悔、成熟した諦念、そしてそれでも続いていく感情を描くものになっている。
歌詞面では、ジュリアン・カサブランカスの作詞が本作の中心にある。初期The Strokesにおける彼の歌詞は、クールで断片的で、若者の都市的な無関心を感じさせるものだった。しかし『The New Abnormal』では、より直接的に後悔、別れ、自己嫌悪、距離、関係の修復不可能性が現れる。彼の声も大きく変化している。かつての拡声器越しのような気だるい低音だけでなく、ファルセット、叫びに近い高音、感情の揺れを含んだメロディが多用される。本作のジュリアンは、クールに振る舞うだけではなく、崩れかけた感情を隠しきれないシンガーとして存在している。
アルバム全体には、過去を振り返る感覚が強い。The Strokesはデビュー作の成功によって、あまりにも早くひとつの時代の象徴になったバンドである。その後、彼らは常に自分たちの過去と比較され続けてきた。『The New Abnormal』は、その重荷を回避するのではなく、受け入れたうえで、現在のThe Strokesとして鳴らしている。だからこそ本作は、単なる原点回帰ではない。むしろ、過去の自分たちを遠くから見つめ直し、そこに新しい哀愁を加えた作品である。
全曲レビュー
1. The Adults Are Talking
オープニング曲「The Adults Are Talking」は、本作を象徴する楽曲であり、The Strokesの後期を代表する名曲である。タイトルは「大人たちが話している」という意味を持ち、権力者や社会的な上位者の会話、あるいは自分たちが若者ではなくなったことへの皮肉を含んでいる。かつて若いロック・バンドとして登場したThe Strokesが、今や「大人」の側に立たざるを得なくなったという時間の経過も、このタイトルには感じられる。
音楽的には、非常に洗練されたツイン・ギターの絡みが中心である。Albert Hammond Jr.とNick Valensiのギターは、初期の鋭さを残しながらも、より軽やかで精密に配置されている。Fab Morettiのドラムはタイトで、Nikolai Fraitureのベースは控えめながら曲の推進力を支える。全体としては、初期The Strokesの魅力を思い出させつつ、より余裕と空間を持ったサウンドになっている。
ジュリアン・カサブランカスのヴォーカルは、低く抑えた歌唱から次第に高音へ向かう。特に後半のファルセットは、かつてのThe Strokesにはあまり見られなかった感情の露出を感じさせる。歌詞では、社会の中で発言権を持つ者たちへの不信、会話が成立しない感覚、そして相手に理解されない苛立ちが描かれる。話しているのは大人たちだが、その言葉は本当に何かを解決しているのか。この曲には、政治的にも個人的にも読める冷めた視線がある。
オープニングとしてこの曲が置かれることで、『The New Abnormal』はThe Strokesの再起動を非常に鮮やかに印象づける。懐かしいが、単なる懐古ではない。軽快だが、歌詞には苦味がある。この二重性が本作の核である。
2. Selfless
「Selfless」は、本作の中でも特にロマンティックで、メランコリックな楽曲である。タイトルは「無私の」「利己的でない」という意味を持ち、愛における献身や自己犠牲を示している。しかしThe Strokesの世界では、愛は純粋な救済ではなく、常に不器用さや後悔を伴う。この曲も、優しいラブ・ソングでありながら、どこか取り返しのつかない距離を感じさせる。
音楽的には、ゆったりとしたテンポと柔らかなギターが中心で、初期The Strokesの鋭角的なロック感よりも、後期の成熟したメロディ感覚が前面に出ている。曲全体には80年代的な透明感もあり、リヴァーブを帯びたギターとシンセ的な響きが、夜の空気のような広がりを作る。
ジュリアンの歌声は非常に繊細で、特に高音域では切実さが強く出ている。歌詞では、相手に対して自分を捧げたいという感情と、その関係がすでに壊れかけているような感覚が同居する。無私であることは美しいが、同時に危険でもある。自分を失うほど誰かに尽くすことは、愛であると同時に依存にもなり得る。
「Selfless」は、本作の感情的な奥行きを示す曲である。かつてのThe Strokesが持っていた冷めたクールさの裏に、これほど明確な脆さがあったことを示す楽曲として重要である。
3. Brooklyn Bridge to Chorus
「Brooklyn Bridge to Chorus」は、本作の中でも最も明るく、ポップな楽曲のひとつである。タイトルは「ブルックリン・ブリッジからコーラスへ」という言葉遊びのように響き、地理的なニューヨークの象徴と、音楽的な構成要素であるコーラスを結びつけている。The Strokesが自分たちの出発点であるニューヨークと、ポップ・ソングの形式そのものを同時に意識しているようなタイトルである。
音楽的には、シンセサイザーの明るいフレーズが大きな役割を果たしている。80年代ニューウェイヴやシンセ・ポップの影響が強く、The CarsやA-haを思わせる軽快なポップ感覚がある。一方で、ギターとベースの動きにはThe Strokesらしいタイトさも残っている。非常にキャッチーでありながら、どこか自嘲的なムードが漂う。
歌詞では、友人関係、年齢、過去への距離、そして居場所のなさが描かれる。かつての仲間と同じようにはいられないこと、若い頃の勢いを取り戻せないこと、しかし完全に過去を捨てることもできないことが、軽快なメロディの中で歌われる。明るい曲調に対して、歌詞には中年期に近づいたロック・スターの寂しさがにじむ。
「Brooklyn Bridge to Chorus」は、The Strokesが自分たちの過去を笑いながら見つめているような曲である。明るく楽しいが、完全に無邪気ではない。ポップな表面の下に、時間の経過への寂しさがある。
4. Bad Decisions
「Bad Decisions」は、タイトル通り「悪い決断」をテーマにした楽曲である。本作の中でも特に分かりやすくロック的で、シングル向きのフックを持っている。楽曲にはBilly Idolの「Dancing with Myself」やGeneration X的なニューウェイヴ/パンク・ポップの影響が感じられ、The Strokesが80年代的なエネルギーを自分たちのサウンドに取り込んでいることが分かる。
音楽的には、シンプルなギター・リフと明快なビートが曲を支える。初期The Strokesのような緊密なロック感もあるが、音像はより開けており、サビは非常に大きく響く。曲は難解ではなく、むしろアルバムの中でも即効性が高い。
歌詞では、間違った選択を繰り返す人間の弱さが描かれる。誰もが自分の選択を正当化しようとするが、後から振り返れば、それが悪い決断だったと分かることがある。The Strokesのキャリアにも、変化、停滞、メンバー間の距離、評価の揺れがあったことを考えると、この曲はバンド自身の歩みへの皮肉としても聴ける。
「Bad Decisions」は、明るく聴きやすい曲でありながら、本作の中心テーマである後悔と自己認識を分かりやすく表現している。過去を悔やむだけでなく、その失敗すらポップ・ソングに変えてしまう点に、The Strokesの成熟した余裕がある。
5. Eternal Summer
「Eternal Summer」は、アルバムの中でも特に異色で、広がりのある楽曲である。タイトルは「永遠の夏」を意味し、一見すると明るく楽園的なイメージを持つ。しかしこの曲における夏は、単なる解放や幸福ではなく、終わらない暑さ、気候の異常、快楽の停滞、そして現実逃避の不気味さを含んでいる。
音楽的には、レゲエ的な揺れ、サイケデリックな広がり、ニューウェイヴ的な冷たさが混ざり合っている。曲の前半は比較的ゆったりしているが、サビではジュリアンの声が大きく張り上げられ、ドラマティックな展開を見せる。特に高音での歌唱は、本作の中でも強い印象を残す。
歌詞では、終わらない夏の感覚が、快楽と不安の両方を伴って描かれる。夏は楽しい季節であると同時に、何かが腐敗し、過熱し、逃げ場を失う季節でもある。現代的に聴けば、気候変動や社会的な麻痺への不安も感じられる。永遠に夏が続くことは、楽園ではなく異常である。
「Eternal Summer」は、本作のタイトル『The New Abnormal』と特に強く響き合う曲である。新しい異常とは、いつの間にか異常が日常になってしまうことでもある。終わらない夏の中で、人はそれを異常だと感じる力さえ失っていく。この曲は、アルバムの中で最も不気味な明るさを持つ楽曲である。
6. At the Door
「At the Door」は、『The New Abnormal』の中でも最も感情的に重く、The Strokesのキャリア全体でも重要なバラードである。これまでのThe Strokesは、クールで乾いたバンドという印象が強かったが、この曲ではその仮面が大きく外れ、ジュリアン・カサブランカスの孤独と後悔がむき出しになる。
音楽的には、ギター主体のバンド・サウンドではなく、シンセサイザーとヴォーカルを中心にした非常にミニマルな構成である。リズムは抑えられ、空間が広く取られている。その中でジュリアンの声が大きく揺れ、感情の中心として響く。曲は派手なビートやギター・リフに頼らず、声そのものの力で進む。
歌詞では、扉の前に立つこと、拒絶、孤独、帰る場所のなさが描かれる。「扉」は非常に象徴的なイメージである。そこは内側と外側の境界であり、入ることも、締め出されることも意味する。この曲の語り手は、どこかへ戻りたいのに戻れない、誰かに受け入れられたいのに受け入れられない存在として響く。
「At the Door」は、本作の感情的な核心である。The Strokesが単なるスタイリッシュなロック・バンドではなく、長い時間の中で傷つき、変化し、孤独を抱えたバンドであることを示す曲である。初期のクールさを期待するリスナーには意外に聞こえるかもしれないが、後期The Strokesの深みを理解するうえで欠かせない楽曲である。
7. Why Are Sundays So Depressing
「Why Are Sundays So Depressing」は、タイトルからして非常に日常的でありながら、深い感情を含む楽曲である。「なぜ日曜日はこんなに憂鬱なのか」という問いは、多くの人が感じる週末の終わり、孤独、生活の停滞、次の週への不安を表している。The Strokesはこの曲で、都市的な倦怠感を成熟した形で描いている。
音楽的には、穏やかなテンポと柔らかなギターが印象的である。曲は大きく爆発せず、淡々と進むが、メロディには強い哀愁がある。ギターの絡みは非常に美しく、初期The Strokesの緊密さを思わせながらも、全体のムードはより落ち着いている。
歌詞では、日曜日の憂鬱が、単なる曜日の問題ではなく、人生の空虚さや関係の距離と結びつく。休日であるはずの日曜日に、むしろ孤独や不安が強まることがある。何もすることがない時間は、隠していた感情を浮かび上がらせる。この曲は、その静かな落ち込みを非常に自然に表現している。
「Why Are Sundays So Depressing」は、本作の中でも特にThe Strokesらしい倦怠感と、後期の成熟したメロディが結びついた曲である。派手ではないが、聴き返すほどに深みが増す楽曲である。
8. Not the Same Anymore
「Not the Same Anymore」は、本作の終盤に置かれた、後悔と変化をめぐる重要曲である。タイトルは「もう同じではない」という意味を持ち、関係、自己、バンド、時代のすべてに当てはまる言葉である。The Strokesがこの曲を歌うことには、大きな重みがある。彼らはもはや2001年の若いバンドではなく、リスナーもまた当時のままではない。
音楽的には、ゆったりとしたテンポで、ギターとヴォーカルが感情を丁寧に積み上げていく。サウンドには少し荒さも残るが、全体は落ち着いており、メロディは深い哀愁を帯びている。ジュリアンの歌唱には、諦めと自己反省が強くにじむ。
歌詞では、過去に戻れないこと、自分が変わってしまったこと、相手との関係がもう以前のようにはならないことが描かれる。これは恋愛の歌としても読めるが、バンド自身の歴史への言及としても聴ける。かつてのThe Strokesを求める声に対して、彼ら自身が「もう同じではない」と歌っているようにも感じられる。
この曲の重要性は、変化を悲しみながらも、それを否定しない点にある。人もバンドも、時間の中で変わる。問題は、変わった後にどう生きるかである。「Not the Same Anymore」は、その認識を静かに受け止める楽曲である。
9. Ode to the Mets
ラスト曲「Ode to the Mets」は、『The New Abnormal』を締めくくるにふさわしい、壮大で深い余韻を持つ楽曲である。タイトルは「メッツへの頌歌」を意味し、ニューヨーク・メッツという野球チームへの言及が含まれるが、曲そのものは単なるスポーツ賛歌ではない。むしろ、ニューヨーク、敗北、時間、過去、失われたものへの複雑な感情が凝縮されている。
音楽的には、シンプルなフレーズの反復から始まり、徐々に音が広がっていく。ギター、シンセ、リズム、ヴォーカルがゆっくりと重なり、アルバムの終曲らしい大きなスケールへ到達する。しかし、派手な勝利のフィナーレではなく、むしろ敗北を受け入れるような静かな荘厳さがある。
ジュリアンの歌声は、ここで特に感情的である。歌詞には、過去の失敗、孤独、時間の経過、取り戻せないものへの思いが漂う。メッツという存在は、ニューヨーク的な栄光というより、敗北や不完全さを抱えた愛着の対象として機能している。完璧ではないもの、勝ち続けるわけではないもの、それでも愛してしまうもの。これはThe Strokes自身にも重なる。
「Ode to the Mets」は、本作のラストとして非常に重要である。『The New Abnormal』は、過去の栄光を再現するアルバムではなく、失敗や変化を受け入れたうえで、なお美しいメロディを鳴らすアルバムである。この終曲は、その姿勢を最も感動的に示している。
総評
『The New Abnormal』は、The Strokesにとって単なる復活作ではなく、長い時間を経たバンドが自分たちの過去と現在を統合した成熟作である。デビュー作『Is This It』のような即時的な衝撃はない。しかし本作には、初期にはなかった深み、後悔、哀愁、そして受容がある。若さの鋭さではなく、時間を経た者だけが鳴らせる美しさがある。
本作の大きな成功は、The Strokesらしさを失わずに、新しい音像へ進んでいる点にある。『Angles』や『Comedown Machine』では、80年代的なシンセ・ポップやニューウェイヴへの接近が時にぎこちなく聞こえる部分もあった。しかし『The New Abnormal』では、それらの要素が楽曲に自然に馴染んでいる。シンセサイザーは単なる装飾ではなく、曲の感情を支える重要な要素になっている。
ギター・サウンドも非常に洗練されている。初期のThe Strokesは、ギターの絡みだけで曲の骨格を作るバンドだった。本作でもその強みは残っているが、音はより広く、柔らかく、空間的である。「The Adults Are Talking」や「Why Are Sundays So Depressing」では、ツイン・ギターが軽やかに絡みながら、曲に深い陰影を与えている。かつての鋭い線が、ここでは少し淡く、成熟した色合いになっている。
ジュリアン・カサブランカスのヴォーカルは、本作の最大の魅力のひとつである。彼はもはや、ただ気だるく歌うだけのフロントマンではない。高音、ファルセット、感情的な揺れ、叫びに近い表現を使いながら、かつてよりもずっと脆い姿を見せている。「At the Door」や「Ode to the Mets」での歌唱は、The Strokesのキャリアの中でも特に感情的で、彼の表現力が大きく広がっていることを示している。
歌詞面では、関係の破綻、過去への後悔、年齢を重ねたことへの違和感が強く表れる。「Not the Same Anymore」というタイトルが示す通り、このアルバムのThe Strokesは、もう以前と同じではない。しかし、それは単なる喪失ではない。変わってしまったことを認めることで、初めて鳴らせる音楽がある。本作はその証明である。
『The New Abnormal』は、The Strokesの過去作を知らなくても楽しめるアルバムだが、彼らの歴史を知っているほど深く響く作品である。『Is This It』の若い倦怠、『Room on Fire』の鋭い完成度、『Angles』や『Comedown Machine』の試行錯誤。そのすべてを経たうえで、本作の穏やかな自信と哀愁は成立している。これは初期の再現ではなく、長い遠回りの後にたどり着いた現在形である。
日本のリスナーにとって本作は、The Strokes入門としても比較的聴きやすい。メロディは明快で、サウンドは洗練され、曲ごとの個性もはっきりしている。一方で、歌詞を読み解くと、単なるクールなロック・アルバムではなく、成熟、後悔、自己認識を扱った非常に深い作品であることが分かる。特に、2000年代初頭にThe Strokesを聴いていたリスナーにとっては、時間の経過そのものが本作の感情と重なる。
後の音楽シーンへの影響という点では、『The New Abnormal』は、かつてのロック・リバイバル世代のバンドがどのように年齢を重ね、過去のイメージを更新できるかを示した作品として重要である。若い衝動だけに頼らず、シンセ・ポップやニューウェイヴ、成熟したバラード性を取り入れながら、バンドとしての核心を保つ。その方法は、多くの長期活動バンドにとって示唆的である。
総じて『The New Abnormal』は、The Strokesの後期代表作であり、彼らが自分たちの神話をようやく自然に受け入れたアルバムである。クールで、哀しく、洗練され、時に驚くほど脆い。若さの象徴だったバンドが、若さを失った後に鳴らすロックとして、本作は非常に美しい。過去と現在、正常と異常、後悔と受容。その間で揺れるThe Strokesの姿が、ここには鮮やかに刻まれている。
おすすめアルバム
1. The Strokes – Is This It
2001年発表のデビュー・アルバム。ニューヨークのガレージ・ロック・リバイバルを象徴する名盤であり、The Strokesの原点である。『The New Abnormal』の成熟を理解するためには、この若く鋭い出発点を知ることが重要である。
2. The Strokes – Room on Fire
2003年発表のセカンド・アルバム。デビュー作の美学を維持しながら、ツイン・ギターの絡みとメロディの洗練をさらに進めた作品である。本作の「The Adults Are Talking」や「Why Are Sundays So Depressing」に通じるギター・アンサンブルの原型が聴ける。
3. The Strokes – Angles
2011年発表の4作目。80年代ニューウェイヴやシンセ・ポップへの接近が見られ、『The New Abnormal』で自然に統合される要素の前段階として重要である。評価は分かれるが、後期The Strokesの方向性を理解するうえで欠かせない作品である。
4. Julian Casablancas – Phrazes for the Young
2009年発表のジュリアン・カサブランカスのソロ・アルバム。シンセ・ポップ、ニューウェイヴ、未来的なポップ感覚が強く、『The New Abnormal』における高音域の歌唱や80年代的な音色の背景を理解しやすい作品である。
5. The Cars – Heartbeat City
1984年発表のニューウェイヴ/ポップ・ロック作品。シンセサイザー、ギター、冷たいヴォーカル、ポップなフックの融合は、『The New Abnormal』の音楽的背景と強くつながる。The Strokesが後期に取り込んだ80年代的な洗練を理解するうえで関連性が高い。

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