発売日: 1979年11月
ジャンル: スワンプロック、カントリーロック、ファンクロック
概要
『Down on the Farm』は、Little Featが1979年に発表した通算8作目のスタジオ・アルバムであり、リーダーであるローウェル・ジョージの死後にリリースされた遺作的作品でもある。
制作途中でローウェルがソロ活動へと傾き、バンドは実質的に分裂状態となりながらも、録音済みの素材をもとに仕上げられたこのアルバムは、バンドとしての終止符、あるいは時代の終わりを象徴するような陰影を帯びている。
サウンド的には前作『Time Loves a Hero』のジャズ/フュージョン路線からやや距離を置き、カントリーやスワンプロックのルーツに回帰した曲が多く見られる。
だがそこには純粋な回帰ではなく、別れや哀愁、過ぎ去るものへの眼差しが滲んでおり、ラスト・レコーディングならではの空気感がアルバム全体を包んでいる。
タイトルの“農場の下で”という表現も、ノスタルジーと朽ちゆくアメリカのイメージを想起させ、Little Featというバンドの旅の終点にふさわしい語り口なのだ。
全曲レビュー
1. Down on the Farm
アルバムを象徴する陽気で田舎風なナンバー。
タイトル通り、農場を舞台にしたユーモラスな語り口ながら、どこか退廃と開き直りが混じった雰囲気が漂う。
カントリー調のピアノとブラスが、農村ファンクとも言うべき独特のグルーヴを生み出している。
2. Six Feet of Snow
ローウェル・ジョージとキーボード奏者キース・ゴッドチャウ(元Grateful Dead)の共作による、異色のミドルテンポ曲。
雪の降る中での疎外感や閉塞感を描いた歌詞は、当時のローウェルの内面を反映しているかのようだ。
メロディは美しく、ビターな余韻を残す佳曲。
3. Perfect Imperfection
ポール・バレール作の軽快なナンバーで、“不完全な美”というテーマを陽気に表現。
自嘲と肯定が混ざり合った歌詞は、バンドの終末期におけるメタ視点のようにも聞こえる。
ホーンアレンジと遊び心あるリズムが印象的。
4. Kokomo
ローウェルの手による、カントリー・バラード風の哀愁漂うナンバー。
同名異曲(Beach Boysのヒット曲)とは異なり、こちらはもっと素朴で切ない曲調を持つ。
南部の田舎町の情景が浮かび、ローウェルの物語作家としての側面がにじむ。
5. Be One Now
ビル・ペイン主導によるサイケデリック・カントリー風のトラック。
“今ここに在れ”という禅的メッセージと、浮遊感あるサウンドが奇妙に交錯する。
1970年代末のスピリチュアル・ムーヴメントを反映したような独特のムードを持つ。
6. Straight from the Heart
軽快なギターとピアノが絡む、ポップかつメロディアスな一曲。
感情に素直であれというストレートなメッセージが、肩の力を抜いたアレンジと共鳴する。
ローウェルのいない曲ながら、どこか彼の感性が残響しているように感じられる。
7. Front Page News
バンド全体によるファンク・ロック・ナンバーで、メディア批判や情報過多への風刺が込められている。
ホーンの使い方がスリリングで、Tower of Powerとの連携を思わせる構築美がある。
スタジオの枠を超えたようなダイナミズムが印象的。
8. Wake Up Dreaming
アルバム中最も幻想的なトラック。
夢と現実の境界を揺蕩うようなメロディとリリックが、終末的な空気をさらに強調する。
スライドギターのエフェクト処理が幻想性を高め、幽玄な余韻を残す。
9. Feel the Groove
ラストを飾るのは、皮肉交じりのファンク・ナンバー。
“何も感じないなら踊ってみろ”という逆説的なタイトルと、ローウェルのぶっきらぼうな歌唱が妙にリアル。
終わりゆくバンドの気配を感じさせながら、なおグルーヴに身を任せる姿勢が胸を打つ。
総評
『Down on the Farm』は、Little Featというバンドの終焉を刻んだ、ある種の“別れのアルバム”である。
そこにはローウェル・ジョージという中心人物の喪失を前にしたメンバーたちの混乱、葛藤、諦念、そして微かな希望までもが封じ込められている。
サウンドは一見軽快でカントリー/ファンク調の楽曲が多いが、その裏には明らかに影が差しており、陽気さの奥から静かなメランコリーがにじむ。
特にローウェルの書いた楽曲は、いずれも短く、どこか未完の感触を残しており、それがかえって彼の“生”の脆さやリアルさを際立たせているのだ。
このアルバムをもってLittle Featは解散(のち1980年代後半に再結成)し、ローウェル・ジョージは同年に夭折。
その事実を踏まえて聴くと、このアルバムに刻まれた一音一音が、最後の挨拶のようにも響いてくる。
おすすめアルバム(5枚)
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Lowell George – Thanks I’ll Eat It Here (1979)
ローウェルの唯一のソロアルバム。『Down on the Farm』と地続きの音楽性が感じられる。 -
The Band – Northern Lights – Southern Cross (1975)
終末感とルーツ回帰が交錯する作品。リトル・フィートと精神的に共鳴する。 -
Neil Young – Comes a Time (1978)
素朴なカントリーロックに漂う諦観と温もりが、『Down on the Farm』の空気感と重なる。 -
Grateful Dead – Terrapin Station (1977)
カントリーとサイケ、スピリチュアリティが融合するサウンドが、『Be One Now』に通じる。 -
Little Feat – Let It Roll (1988)
再結成後の第一作。ローウェル不在ながら、彼の影を追い続けるようなサウンドが宿る。
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