
発売日: 2015年6月29日
ジャンル: プロテスト・ロック、ルーツ・ロック、ガレージ・ロック
誰の土地で、誰の食べ物か——Neil Young、企業支配への怒りを鳴らした現代の民衆音楽
『The Monsanto Years』は、Neil Youngが2015年に発表した33作目のスタジオ・アルバムであり、遺伝子組み換え作物(GMO)や巨大農業企業モンサント社を名指しで批判した、極めて政治色の強いプロテスト・アルバムである。
共演はウィリー・ネルソンの息子たちによるバンド、Promise of the Real(プロミス・オブ・ザ・リアル)。
若々しいグルーヴとストレートなギター・ロックが、ヤングの怒りと風刺を支えるエネルギー源となっており、音楽的にはシンプルながら力強い“街頭のロック”といえる。
このアルバムにおいて、ヤングは農業、環境、メディア、企業倫理といった現代社会の根幹にある問題に鋭く切り込みながらも、決して難解にはならず、あくまで“歌”という形式でリスナーの感情に訴えかけている。
全曲レビュー
1. A New Day for Love
希望に満ちたオープニング。「愛のための新しい時代を」というスローガンが、時代の変革を予感させる。 ギターがじわじわと熱を帯びる構成。
2. Wolf Moon
本作中でもっとも詩的で穏やかな曲。自然賛美と人類の破壊的行動との対比を、満月の静けさに託して描く。
3. People Want to Hear About Love
「人々は愛の歌を聴きたがるが、現実はどうだ?」という問いかけ。メディア批判とポップミュージックの機能への皮肉を同時に描く。
4. Big Box
ウォルマートやコストコなどの“巨大小売業者”を象徴するタイトル。安価の裏にある労働搾取と倫理崩壊を、ゆったりとしたリズムに乗せて歌う。
5. A Rock Star Bucks a Coffee Shop
スターバックスを名指しし、GMO表示反対運動に対する姿勢を風刺する痛快なナンバー。 タイトルにダブルミーニングあり(”bucks” = 抵抗する/ドル)。
6. Workin’ Man
農業と労働者の視点から語る、“リアル”な日常の歌。 ルーツ・ロック調で、若いバンドとの息の合った演奏が光る。
7. Rules of Change
変化のルールとは何か。革命のような変化ではなく、意識の連鎖を促すような、内なる政治性を歌うバラード。
8. Monsanto Years
タイトル曲にしてアルバムの中核。企業の支配とそれに抗する人々の声が交錯する、現代版のプロテスト・アンセム。
9. If I Don’t Know
「もし僕が知らないなら、誰が知っているのか?」という繰り返しが印象的な締めくくり。問いかけのかたちで終わる、余韻を残すフィナーレ。
総評
『The Monsanto Years』は、Neil Youngが“社会に対する怒り”を直接的な言葉とサウンドで表現した、21世紀のプロテスト・ロックの到達点である。
そのメッセージは一貫しており、「自然を守ること」「人々の選択の自由」「巨大資本に対する個人の抵抗」といった価値が、音楽という形式を通して強く伝わってくる。
Promise of the Realとのコラボレーションによって、ヤングのメッセージは若々しい熱と即興性を獲得し、観念ではなく“今ここで鳴る音”として響いている。
このアルバムはただの抗議ではない。それは“変わりたい”という願いを、音で表明した祈りでもあるのだ。
おすすめアルバム
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Living with War / Neil Young
より政治的・戦争批判色の強いプロテスト・ロック作品。 -
American Idiot / Green Day
2000年代の若者の怒りを代弁した、メジャーな反体制アルバム。 -
The Rising / Bruce Springsteen
社会的事件に向き合いながら、希望を語る力強いメッセージソング集。 -
Harvest / Neil Young
自然と個人への眼差しというテーマの原点に立ち返れる名盤。 -
The Times They Are A-Changin’ / Bob Dylan
プロテスト・フォークの礎を築いた歴史的名作。現代への橋渡しとしても必聴。
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