発売日: 1974年12月
ジャンル: ロック、ハードロック、ソフトロック、カントリーロック
“それがどうした”という微笑と涙——Joe Walshが最もパーソナルに綴った喪失と癒しのロック詩
『So What』は、Joe Walshが1974年に発表したソロ3作目のスタジオ・アルバムである。
前作『The Smoker You Drink, the Player You Get』の成功を経て、
本作ではより内省的かつパーソナルなテーマが色濃く反映された、彼の“最も人間らしい”作品となった。
このアルバムが生まれた背景には、当時ウォルシュの愛娘エマの悲劇的な死があった。
その喪失感と再生への願いが、随所に静かに、しかし深く刻まれている。
音楽的には、ハードなロック、叙情的なバラード、ビートルズ風のポップ感覚、そして彼特有のユーモアがバランスよく共存しており、
ウォルシュの“ギタリスト以上の存在”としての才能が成熟しきった印象を与える。
また、この時期すでにイーグルスとの関係性も深まりつつあり、ドン・ヘンリーやグレン・フライらがコーラスで参加していることも注目に値する。
全曲レビュー
1. Welcome to the Club
オープニングはロック色の強いナンバー。
「ようこそ“人生というクラブ”へ」という皮肉交じりの歓迎が、ウォルシュ流の人生観を滲ませる。
ギターリフの骨太さとコーラスのキャッチーさが絶妙に共存。
2. Falling Down
ウォルシュのソフトな一面が光るミディアムテンポのロック。
“崩れていく”というタイトルとは裏腹に、包み込むような優しさが漂う。
彼の声がどこまでも近い。
3. Pavanne
クラシックの要素をロックに取り込んだ異色のインストゥルメンタル。
ヨーロピアンで優雅な旋律と、ウォルシュの叙情的なギターが美しく融合する。
4. Time Out
アコースティックギターが響く、孤独と休息をテーマにした静かなバラード。
内向的な詞と音のミニマリズムが、じわじわと心にしみる。
5. All Night Laundry Mat Blues
一転して、ウォルシュらしいコミカルなブルース・ナンバー。
洗濯屋にまつわる冗談めいた歌詞と軽快なギターが、小休止的な役割を果たしている。
6. Turn to Stone(再録)
『Barnstorm』収録曲のセルフ・カバー。
プロダクションが格段に洗練され、ギターの厚みとリズムの重さが際立つ名ヴァージョン。
ウォルシュの“心の硬直”を描いたメッセージはここでさらに明確になる。
7. Help Me Through the Night
娘エマへの想いが投影されているとされる、アルバム中最も胸を打つバラード。
コーラスにはドン・ヘンリーとグレン・フライが参加。
“この夜を越える手助けを”という祈りのような歌詞と旋律が深く残る。
8. County Fair
どこかサイケデリックな雰囲気を持つ中編。
田舎のフェア(祭り)をテーマにしつつも、ノスタルジーと喪失が混在する幻想的な世界観。
中間部のギターソロとメロトロンが夢幻的。
9. Song for Emma
本作の魂そのものとも言える、娘エマに捧げられた弔歌。
ストリングスの導入と抑制されたギター、そして何よりもウォルシュの絞り出すような声。
“悲しみをどう表現すればいいかわからない”という感情そのものが音楽になっている。
総評
『So What』は、Joe Walshというアーティストが、
ギターの腕前やヒット曲以上の“人間的深み”を持った表現者であることを証明した作品である。
タイトルの“それがどうした”には、ユーモアと反骨、そして諦観と希望が同時に宿っている。
そして、深い悲しみと向き合いながらも、それをロックという形式で丁寧に言葉と音に変えていく姿には、
真摯で孤高な美しさがある。
このアルバムは、ただの“泣けるロック”でも、技巧的なギター作品でもない。
それは、喪失と再生をめぐる、ひとりの父親の記録であり、音楽による弔いの詩なのだ。
おすすめアルバム
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George Harrison – All Things Must Pass
喪失と再生をテーマにした叙情的ロックの金字塔。 -
Jackson Browne – The Pretender
悲しみと成熟を抱えたソングライターの代表作。 -
Neil Young – Tonight’s the Night
死者への鎮魂と生者の混乱を描いた、心を抉るアルバム。 -
The Eagles – One of These Nights
ウォルシュ加入前の音楽的接点。コーラスワークとの親和性が高い。 -
Joe Walsh – But Seriously, Folks…
本作以降のさらなる成熟と、イーグルス加入直前の明朗さを感じられる好盤。
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