発売日: 1970年12月
ジャンル: ブルースロック、フォークロック、ソウルロック
喪失の静けさと再生の希望——“ハイウェイ”に託された旅の途中の記録
『Highway』は、英国ブルースロック・バンドFreeが1970年の暮れにリリースした4作目のアルバムであり、世界的ヒットとなった『Fire and Water』に続く期待作であった。
しかし、本作はその前作のような爆発的な成功には至らず、リリース当時は地味すぎる、内省的すぎるといった評価を受け、商業的には不発に終わってしまった。
だが、今改めて聴く『Highway』は、Freeというバンドのより繊細で成熟した側面を浮かび上がらせる作品である。
ソウルやフォークの要素が強まり、Paul Rodgersの深く沈み込むようなヴォーカルと、Paul Kossoffの哀愁あるギターが、失われたものを抱えながらも前へ進もうとする感情を滲ませている。
本作は、まさに“ハイウェイ”——行き先も曖昧なまま、何かを探してさまよう旅のような音楽なのだ。
全曲レビュー
1. The Highway Song
アルバムの幕開けを飾る、穏やかでスローなロック・バラード。
ツアーでの孤独や旅の儚さを綴ったようなリリックが、メロウな演奏と共に染み込む。
2. The Stealer
唯一のシングル曲で、ファンキーなギターリフとタイトなリズムが特徴のミドルテンポ・ロック。
“盗む者”=恋のかけひきを巡るテーマで、どこか軽やかで皮肉めいた風合いも感じられる。
3. On My Way
軽快なテンポとカントリー風のニュアンスを持つ楽曲。
“もうすぐ会える”という希望がにじむ、フォークロック調の佳作。
4. Be My Friend
アルバムの中でもっともエモーショナルなバラード。
ロジャースのソウルフルな歌唱とコゾフの泣きのギターが共鳴し、Freeの真骨頂たる“静かな熱”が最大限に発揮された名曲。
5. Sunny Day
晴れた日の午後を思わせる、アコースティックな小品。
気取らず、さりげなく、どこか風のように通り過ぎていく一曲。
6. Ride on a Pony
ミディアムテンポのロックンロール。
軽妙なギターリフとヴォーカルの掛け合いが小気味よく、アルバム中では明るめのアクセントになっている。
7. Love You So
どこかアメリカン・ルーツ・ロックを思わせる淡いバラード。
ベースの動きとギターのリードが絶妙に絡み合い、やさしい余韻を残す。
8. Bodie
カリフォルニア州に実在したゴーストタウン“Bodie”をタイトルに持つ、フォーキーなアコースティック・ナンバー。
退廃と回想を思わせる旋律と、哀愁の中にどこか安らぎを感じさせる歌詞が魅力。
9. Soon I Will Be Gone
アルバムのラストにふさわしい、別れと旅立ちをテーマにした楽曲。
ロジャースの静かで深い声が、まるで遠ざかる車のエンジン音のように、聴く者の心に消えていく。
総評
『Highway』は、Freeが最も繊細で、最も人間的な表情を見せたアルバムである。
『Fire and Water』のような力強さは影を潜め、代わりに内向きの誠実さと、ほのかな希望の灯が淡く揺れている。
その佇まいは、むしろ“静けさの中にある本物のブルース”を感じさせ、喪失と再生のあいだに揺れる魂の声がここにはある。
このアルバムが評価されるには時間がかかった。
だが今、時代を超えて聴き返したとき、それがFreeというバンドの“心の真ん中”を最も正直に映した一枚であったことがわかるだろう。
“ハイウェイ”の名にふさわしく、旅の途中にそっと寄り添ってくれるような音楽。
それが『Highway』なのだ。
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Traffic – John Barleycorn Must Die
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朴訥で詩的、そしてどこか寂しげな感性が『Highway』と深く響き合う。
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