発売日: 1973年7月13日
ジャンル: プログレッシブ・ロック、コンセプト・アルバム
死者の魂が辿る“演劇”の迷宮——Jethro Tullが挑んだ、最も野心的で難解な旅路
『A Passion Play』は、Jethro Tullが『Thick as a Brick』に続いて発表した2作目の一曲構成コンセプト・アルバムである。
「人間の死後の魂が辿る道」を“架空の演劇”として描いた極めて難解で哲学的な作品であり、リスナーを選ぶアルバムとしても知られている。
複雑な楽曲構成、象徴に満ちた歌詞、そして中間部に挿入される寸劇「The Story of the Hare Who Lost His Spectacles(めがねをなくしたウサギの物語)」は、
本作が単なる音楽作品に留まらず、イアン・アンダーソンの文学的・演劇的・風刺的野心の結晶であることを示している。
その難解さゆえに評価は分かれたが、Tullの最も大胆で異端的な試みとして、後年では再評価が進んでいる。
楽曲構成:死と再生の“音の演劇”
アルバムは一曲約45分で構成され、アナログではA面・B面に分かれていた。
第1幕(A面)
幻想的なシンセサイザーのイントロに導かれ、死を迎えた主人公の魂が彼岸へと旅立つ。
楽曲はフォーク、ジャズ、クラシック、ロックが融合し、
めまぐるしく変化する展開と変拍子で、魂の混乱と浄化を描くような構成となっている。
中間劇:The Story of the Hare Who Lost His Spectacles
突如挿入されるナレーション中心のコミカルな寸劇。
不条理文学と子供向け絵本が融合したような不思議な物語で、アルバム全体の“寓話性”を補強する。
第2幕(B面)
死後の裁きと再生をテーマに、主人公は“生き直すこと”の可能性や、宗教的懐疑を乗り越えようとする。
フィナーレでは第1幕の旋律が再登場し、終わりと始まりが一体化する円環構造が完成する。
総評
『A Passion Play』は、Jethro Tullの音楽的・思想的探究の極北であり、
「ロック・アルバム」という枠組みを完全に超越した“音による演劇作品”である。
リスナーに明確な答えを与えるのではなく、むしろ“考えること”そのものを促す構造と内容。
その姿勢こそ、70年代初頭におけるプログレッシブ・ロックの精神だった。
このアルバムを愛する人には、思考と想像の喜びが待っている。
そして拒む人には、煉瓦の壁のような難解さが立ちはだかる。
それでもJethro Tullは言う——人生も死後も、すべては“ひとつの芝居”なのだと。
おすすめアルバム
- Van der Graaf Generator – Pawn Hearts
死と再生、狂気をめぐる哲学的プログレの金字塔。 - Genesis – The Lamb Lies Down on Broadway
同じく物語性と変奏に満ちたロック叙事詩。 - Frank Zappa – Uncle Meat
ナンセンスと前衛性が融合する“ロック劇場”の先駆。 - Pink Floyd – Animals
風刺と寓話による社会批判。Tullと並ぶ知的ロックの雄。 - Jethro Tull – Minstrel in the Gallery
本作に続く、より内省的で音楽的にも成熟したコンセプト作。
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