発売日: 1993年9月21日
ジャンル: グランジ、オルタナティヴ・ロック
In Uteroは、ニルヴァーナのサードアルバムであり、バンドのキャリアの頂点にして、最後のスタジオアルバムとなった。プロデューサーにはスティーヴ・アルビニを起用し、荒々しくも生々しい音作りを追求。Nevermindでメインストリームの人気を得たニルヴァーナが、意図的に洗練さと距離を置き、コマーシャルな期待に抗う姿勢を打ち出している。カート・コバーンの不安や内面の葛藤が、鋭く、時に挑発的に表現され、彼の複雑な感情と自己破壊的な傾向が歌詞とサウンドの両面で色濃く反映されている。聴く者に彼の苦悩と痛みをありのまま伝えようとするかのように、In Uteroは強烈で圧倒的な存在感を放つ作品に仕上がっている。
各曲解説
Serve the Servants
アルバムの幕開けを飾るこの曲では、コバーンが自らの成功と家族関係について率直に語っている。冒頭の「Teenage angst has paid off well, now I’m bored and old」というラインが、皮肉と諦念に満ちたカートの心情を象徴する。荒削りなギターリフとダイナミックなサウンドが、初っ端からアルバム全体のテーマを提示する。
Scentless Apprentice
異色のナンバーで、パトリック・ズュースキントの小説『香水』から着想を得たこの曲は、逃れられない生まれつきの不快感について描写している。デイヴ・グロールのパワフルなドラムが印象的で、攻撃的なギターリフが狂気を増幅させる。ニルヴァーナのラフなエッジが最大限に発揮された一曲だ。
Heart-Shaped Box
シングルカットされたこの曲は、重苦しいギターリフと、コバーンの悲痛なボーカルが響き渡る。愛と憎しみが入り混じった複雑な感情が歌詞に込められており、「I’ve been locked inside your heart-shaped box for weeks」と歌うコバーンの切実な思いが、リスナーの心を掴む。独特のサウンドが、愛憎と孤独の深さを際立たせている。
Rape Me
アルバムの中でも特に挑発的なタイトルを持つこの曲は、自己否定と絶望をテーマにしており、リフレインが激しい感情を反映する。コバーンの叫ぶようなボーカルがリスナーを圧倒し、アルバム全体を通して繰り返される「被害者」としてのテーマが際立っている。
Frances Farmer Will Have Her Revenge on Seattle
ハリウッドで不遇な人生を送った女優フランシス・ファーマーへのオマージュとも言えるこの曲は、社会からの疎外感や誤解された存在への共感を描いている。コバーンの苦悩がそのまま音となり、重厚なリフが切ないメロディに乗って響き渡る。
Dumb
セルフディスカバリーと内省をテーマにしたこの曲は、In Uteroの中でも比較的メロウなサウンドを持つ。「I’m not like them, but I can pretend」という歌詞が、自己欺瞞と孤独を反映している。メロディアスなサウンドがどこか切なく響く。
Very Ape
短くシンプルな構成で、社会への皮肉と自己嫌悪を詰め込んだ一曲。力強いギターとボーカルが攻撃的に響き、ニルヴァーナらしいパンクスピリットが前面に出ている。
Milk It
不穏で不協和音を多用したサウンドが印象的なこの曲は、自己破壊的な感情が炸裂している。歌詞の暗示的な内容と、カートの叫ぶようなボーカルが、絶望的な雰囲気を際立たせる。
Pennyroyal Tea
痛々しい歌詞と静かなギターが特徴的で、自分の中の暗い部分を吐き出すような楽曲。ペニーロイヤルは中絶に使われたハーブであり、歌詞にはコバーンの深い悩みと痛みが込められている。メロウなメロディがリスナーの心に静かに響く。
Radio Friendly Unit Shifter
タイトル通り、皮肉たっぷりの一曲で、音楽業界やコマーシャリズムへの反発が込められている。激しいディストーションとノイズが印象的で、カートの不満と怒りが噴出しているように感じられる。
Tourette’s
激しいスピードと怒りに満ちた曲で、コバーンの叫びが極限まで高まる。アルバムの中でも特にパンキッシュで、解放的なエネルギーが詰まっている。
All Apologies
アルバムの最後を飾る名曲で、カートが感じていた内なる葛藤と自己反省を描写している。「In the sun, I feel as one」と歌うラストのリフレインが、彼の複雑な心情と平和への希求を感じさせる。柔らかなギターと哀愁漂うメロディが、アルバム全体を美しく締めくくっている。
アルバム総評
In Uteroは、ニルヴァーナの音楽的な成熟と共に、カート・コバーンの深い苦悩と反抗心を鮮烈に表現した作品だ。このアルバムには、商業的成功とそれに伴う苦悩、そして自身の内面に対する葛藤が詰まっており、コバーンの生々しい叫びがリスナーに痛烈に伝わる。荒々しい音作りや挑発的な歌詞の裏には、ニルヴァーナの揺るぎない信念が感じられ、In Uteroはその誠実さと芸術性で今もなお多くのリスナーに愛されている。コバーンの最後のメッセージとも言えるこの作品は、彼の魂の叫びそのものであり、グランジの歴史に燦然と輝く傑作である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Hole – Live Through This
カート・コバーンの妻コートニー・ラブが率いるバンド、ホールの代表作。激しいエモーションと繊細な歌詞が、In Uteroのファンにも刺さる。
Soundgarden – Superunknown
同じシアトル出身のサウンドガーデンが放つダークでメロディックな傑作。コーネルのボーカルと深い歌詞が、In Uteroの持つ重厚さと共鳴する。
Alice in Chains – Jar of Flies
アリス・イン・チェインズのアコースティックEPで、メランコリックなメロディが際立つ。カートの内省的な側面と通じる部分が多い。
Pixies – Bossanova
カート・コバーンに多大な影響を与えたピクシーズの作品で、独特のリズムとキャッチーさが光る。ニルヴァーナのファンにも楽しめる一枚。
The Smashing Pumpkins – Siamese Dream
ビリー・コーガン率いるスマッシング・パンプキンズの名盤。痛みと美しさが共存するサウンドが、In Uteroと共鳴する。
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