発売日: 1977年5月
ジャンル: ハードロック、ヘヴィメタル、プログレッシブロック
概要
『Lights Out』は、UFOが1977年にリリースした7作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの音楽的完成度と商業的成功が頂点に達した、まさに“黄金期”を象徴する決定的傑作である。
マイケル・シェンカーのテクニカルかつ叙情的なギタープレイと、フィル・モグの深みあるヴォーカルが完全に調和し、ハードロックというジャンルにおいて“攻撃性と詩情の理想的融合”を実現した作品である。
プロデューサーにはロン・ネヴィソン(Led ZeppelinやThe Whoとの仕事で知られる)を迎え、音像はこれまで以上に洗練され、ストリングスを導入した壮麗なアレンジや、スケール感あふれる展開によって、UFOはハードロックを芸術的な領域へと押し上げた。
英国ではチャート入りし、アメリカではバンド初のビルボードTOP40ヒットとなるなど、評価・人気ともに高く、のちに“ブリティッシュ・ハードロックの金字塔”と称されるようになった。
アルバム全体はシリアスな社会批評から個人的抒情、黙示録的な幻想にまで及び、ただのハードロックではない知的でスリリングな体験を聴き手にもたらしている。
全曲レビュー
1. Too Hot to Handle
アルバムの幕開けを飾る、軽快でキャッチーなロック・ナンバー。
“手に負えないほど熱い”恋とロックの衝動がストレートに表現されており、シェンカーのリフが鋭く突き刺さる。
ライヴでも盛り上がる定番曲。
2. Just Another Suicide
ジム・キャパルディとの共作による、社会的テーマを含んだヘヴィなナンバー。
メロディは親しみやすいが、歌詞は鬱屈とした都市生活と精神的孤独を描いており、フィル・モグの抑制された歌唱が胸に迫る。
3. Try Me
美しくメロウなバラード。
ストリングスアレンジが導入され、UFOにとって初めて“オーケストラルなロック”が具現化された一曲。
“私を試してくれ”という脆くも切実なフレーズが、モグのヴォーカルに見事に宿っている。
4. Lights Out
本作のタイトル曲にして、バンド最大級の代表曲。
“ロンドンが停電したとき”という黙示録的世界観を、切迫感のあるリフとスリリングな展開で描く。
マイケル・シェンカーのソロは圧巻で、緻密かつ情熱的。
演奏、構成、歌詞、すべてが完璧に噛み合ったUFO史上の金字塔。
5. Gettin’ Ready
アコースティックギターと穏やかなメロディによるリラクシングなナンバー。
大作に挟まれた“呼吸の場”のような役割を果たしつつ、日常と希望のあわいを描く。
6. Alone Again Or
ラヴの名曲カバー。
原曲のラテン調を活かしつつ、よりハードなギターとダイナミックなドラムで再構築されている。
選曲のセンスとアレンジ力が光る、バンドの音楽的リテラシーを示す好例。
7. Electric Phase
中盤以降のハイライト。
ギターとキーボードのユニゾン、リズムの複雑な組み立てが際立つファンキーな一曲で、後のAOR的アプローチの萌芽も感じさせる。
ミッドテンポながら緊張感に満ちており、隠れた名曲。
8. Love to Love
アルバムを締めくくるにふさわしい、壮大で哀切なバラード。
イントロのストリングスとギターの絡みから始まり、サビではエモーショナルな爆発へと至る構成が見事。
ライブでは必ずラストを飾る曲として定着し、シェンカー=モグ体制の頂点を示す傑作中の傑作。
総評
『Lights Out』は、UFOがハードロックというジャンルにおいて“音楽的成熟と感情的深度”の両立を成し遂げたアルバムである。
ここではもはや単なるエネルギーの発散ではなく、構築美とメロディ、思想と感情が綿密に組み込まれており、“聴かせるハードロック”の美学が確立されている。
マイケル・シェンカーのギターは神がかり的で、単なる速弾きではない“語りかけるような表現力”が全編にわたって貫かれている。
一方、フィル・モグの歌唱はその冷静さの中に熱を内包し、都市の夜、孤独、不安、愛といったテーマを抒情的に浮かび上がらせる。
このアルバムは、ハードロックにおける“様式美と詩情”の最良の結実であり、70年代後期の英国ロックの輝きを象徴する、まさに“Lights Out”の瞬間を永遠に刻んだ作品である。
おすすめアルバム(5枚)
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Thin Lizzy – Black Rose: A Rock Legend (1979)
叙情とハードネスの理想的バランス。『Love to Love』との共振。 -
Rainbow – Rising (1976)
ギター主導の壮大な構成美と幻想性。『Lights Out』の構築感に通じる。 -
MSG – The Michael Schenker Group (1980)
シェンカーの表現力がさらに深まったソロプロジェクト。様式の進化系。 -
Scorpions – Taken by Force (1977)
シェンカーの影響が色濃く残る叙情系メタル。『Try Me』的世界観も感じられる。 -
Boston – Boston (1976)
ハードロックとメロディック感覚の融合。『Electric Phase』のアレンジ感と重なる。
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