発売日: 1980年6月
ジャンル: ハードロック、アリーナ・ロック、ヘヴィメタル(初期)
概要
『Scream Dream』は、テッド・ニュージェントが1980年にリリースした6作目のスタジオ・アルバムであり、70年代末から80年代初頭にかけて加速する“ヘヴィ化するロック”への適応と、彼自身の爆発的ギター美学の継続を見事に融合させた作品である。
本作では、より攻撃的なギター・トーンと、明快でタイトなアレンジメントが導入されており、従来のアメリカン・ハードロックに加え、当時勃興しつつあったNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)に近いフィーリングも感じられる。
タイトル『Scream Dream(叫びの夢)』は、まさにニュージェントの音楽――本能、暴力、セクシュアリティ、そして自由――を象徴する言葉でもある。
「Wango Tango」のヒットによりアルバムは全米13位を記録し、1980年代の幕開けを飾る強烈な名刺代わりとなった。
チャーリー・ハネが引き続きヴォーカルを務め、バンドとしてのまとまりも強化。
スタジオ作品でありながらライヴ的な熱量が全編に渡って封じ込められており、“叫びの中に夢を見せる”Nugent流のロック・ファンタジーが展開されている。
全曲レビュー
1. Wango Tango
アルバムのリード・トラックにして代表曲。
性的かつ破壊的なリズムとギターリフ、狂騒的なヴォーカルが一体となり、まさに“野獣のディスコ”とも呼ぶべきグルーヴを生み出している。
Nugentのキャリアを代表する一曲であり、80年代的エンタメ精神の到来を告げる。
2. Scream Dream
タイトル曲にして、アルバム中でも最もエネルギーに満ちたナンバー。
ギターは唸り、ヴォーカルは吠え、リズムは疾走する。
「これは夢か、悪夢か?」というような感覚が、音として具現化されている。
3. Hard as Nails
“釘のように硬い”というフレーズ通り、重厚なギターと無慈悲なリズムが印象的。
ヘヴィメタル的な硬質さを帯びており、Nugentの音楽が時代とともに進化していることを実感させる。
4. I Gotta Move
タイトル通り、動かずにはいられないファンキーなビートが楽しいミッドテンポのナンバー。
グルーヴとノリの良さに重点を置いた、“踊れるハードロック”。
5. She’s Gone
ブルージーで哀愁を帯びたバラード調の一曲。
アルバムの中で唯一、内省的で感情の余白を感じさせる瞬間。
ニュージェントのギターが歌詞以上に語りかけるような楽曲。
6. Stormtroopin’ (Live)
1975年の1stアルバム収録曲のライヴ・バージョン。
ファンとの一体感、バンドの生々しい熱量を再確認できる収録で、スタジオ音源とは異なる狂気が宿る。
7. Violent Love
まさに“暴力的な愛”を体現したような高速ロック・ナンバー。
ギターの刻みとシャウトが絶妙に絡み、短いながらもインパクト絶大。
8. Flesh and Blood
肉体と血――ロックの本質そのものを象徴するタイトル。
Nugentのセクシャルで肉体的な音楽観を詰め込んだ、まさに“ギターで殴る”ような楽曲。
9. Spit It Out
痛快なロックンロール・ナンバーで、コーラスとギターの掛け合いが楽しい。
“言ってしまえよ!”というタイトル通り、抑圧からの解放を促すような歌詞が印象的。
10. Come and Get It
アルバムのラストを飾る、挑発的で威風堂々としたロック・アンセム。
“欲しけりゃ来い”というNugentの人生哲学そのものが音楽化されている。
総評
『Scream Dream』は、テッド・ニュージェントが1970年代的なハードロックの王道を保ちながら、80年代的なスピード感、攻撃性、そしてエンターテインメント性を取り入れた、過渡期にして到達点でもあるアルバムである。
リフの切れ味、ギターソロの爆発力、リズム隊のタイトさ、ヴォーカルの攻撃性――すべてが“叫び”のように生々しく、聴く者の感覚を揺さぶる。
それは決して理性的ではなく、抑制もされていない。しかし、だからこそロックであり、Nugentらしさなのだ。
『Scream Dream』は、ギター・ヒーローという存在が1980年代に生き残るための新しい形を模索しながら、なおも“欲望の音楽”であることをやめなかった証である。
これは叫びの記録であり、夢の断片であり、ロックが持ちうる最も肉体的な力の一つなのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Van Halen – Women and Children First (1980)
同時代のギター・ヒーローによるハードロックの進化形。Nugentとの共鳴点多し。 - AC/DC – Back in Black (1980)
ミニマルなリフ美学と暴力的グルーヴがNugentとシンクロ。 - Judas Priest – British Steel (1980)
メタル的硬度とポップ性の融合。『Scream Dream』と同じ年の革命作。 - Scorpions – Animal Magnetism (1980)
メロディと獰猛さを兼ね備えたヨーロピアン・ロック。Nugentのラフさと好対照。 - Cheap Trick – All Shook Up (1980)
アメリカ中西部発のハード・ポップ。Nugentと同郷感覚のリンクあり。
コメント