
発売日: 1974年4月26日
ジャンル: グラム・ロック、ハードロック、グラム・メタル
概要
『Sweet Fanny Adams』は、イギリスのロックバンド Sweet が1974年に発表したセカンド・アルバムであり、彼らの音楽的な“変身”を決定づけた一作である。
デビュー作『Funny How Sweet Co-Co Can Be』(1971年)のバブルガム・ポップ路線を脱し、よりハードで重厚なグラム・ロックへと舵を切ったことで、Sweet はアイドル的ポップグループから本格派ロックバンドへと評価を一変させるに至った。
アルバムタイトルの“Fanny Adams”は、英国俗語で“何もない”を意味する皮肉的な表現であり、また1860年代に実際に起きた猟奇殺人事件の被害者の名にも由来している。
そのセンセーショナルなタイトルからして、本作が従来の甘ったるいイメージとは決別した“暴力的な再出発”であることを強く印象づけている。
楽曲のほとんどがメンバー自身による作曲であり、プロデュースは引き続きチャップマン=チンが務めているが、その役割はより裏方に回り、バンドの自立が鮮明に表れている。
鋭利なギターリフ、攻撃的なヴォーカル、重厚なリズム、そして劇的な展開――そのすべてが、Sweet の“ロックバンドとしての本気”を示している。
全曲レビュー
1. Set Me Free
アルバム冒頭から炸裂する、ヘヴィ・メタルの先駆けともいえるアグレッシブな一曲。
アンディ・スコットによるスラッシュ気味のリフ、ミック・タッカーの強烈なドラミング、そしてブライアン・コノリーのシャウト――すべてが一体となり、“自由になりたい”というテーマに直結する爆発力を持つ。
2. Heartbreak Today
ミディアム・テンポで展開される哀愁系ハードロック。
失恋をテーマにしながらも、サウンドには男らしいタフさがあり、メロディとリフのバランスも良好。
Sweet の叙情と荒々しさが共存する好例。
3. No You Don’t
チャップマン=チン作のダークで劇的な楽曲。
“ノーと言えない”関係性における葛藤と支配を描き、ギターとストリングス風シンセの重ねが緊迫感を生む。
後にパット・ベネターがカバーしたことでも知られる。
4. Rebel Rouser
スピード感あふれるロックンロール・チューン。
タイトル通り、“騒ぎを起こす反逆者”のスピリットが全面に出ており、グラム・パンク的な荒削りさが魅力。
ライヴで映えるエネルギッシュなナンバー。
5. Peppermint Twist
ジョーイ・ディー&ザ・スターライターズの1960年代ロックンロールのカバー。
原曲の跳ねたビートをそのままに、グラム風味でアップデートされたダンス・ナンバー。
Sweet のルーツと遊び心が感じられる異色のトラック。
6. AC-DC
チャップマン=チンによる挑発的な一曲で、セクシュアリティに関する暗示を含む歌詞が話題を呼んだ。
女性的視点から“バイセクシャルな男性”を描くというテーマは当時としては非常に革新的で、後のAC/DC(バンド名)の由来ともされる。
ミッドテンポながらヘヴィで妖しい魅力を放つ。
7. Sweet F.A.
9分に及ぶアルバム中最長の楽曲で、バンドの音楽的野心が炸裂するプログレッシヴ・グラム・ロック。
タイトルは“Sweet Fanny Adams”の略であり、無意味、空虚、怒りといったテーマを盛り込みつつ、複雑な展開と即興的な演奏を通じて爆発的なカタルシスを迎える。
8. Restless
不穏で緊張感のあるイントロから始まるミッドテンポのロックナンバー。
内面的な焦燥感をテーマにした歌詞と、重く沈んだリズムが強く結びついている。
ブライアン・コノリーの表現力が光る一曲。
9. Into the Night
スローで叙情的な雰囲気を持つ楽曲で、夜を舞台にした孤独とロマンを描く。
メランコリックなギターソロと切ないボーカルが融合し、アルバムに深みを加えている。
10. Solid Gold Brass
アルバムの締めくくりとしてふさわしい、重厚でグラマラスなロック・ナンバー。
金と欲望をメタファーにしながらも、どこか自虐的なユーモアがあり、Sweet のアイロニー精神が表れた楽曲。
ギターのキレとコーラスの厚みが印象的である。
総評
『Sweet Fanny Adams』は、Sweetというバンドの“第二のデビュー”とも言うべき強烈な再出発のアルバムであり、ポップ・グループからロック・バンドへの決別宣言そのものである。
それまでのキラキラとしたバブルガム的イメージを打ち壊すかのように、本作ではヘヴィなギター、攻撃的なヴォーカル、怒りや性を内包した歌詞が全面に押し出されており、グラム・ロックの中でも屈指の硬質な作品となっている。
演奏面においても、アンディ・スコットのギター、ミック・タッカーの手数の多いドラミング、そしてブライアン・コノリーのカリスマ的ヴォーカルが、ついに本領を発揮。
チャップマン=チンとの関係を残しつつも、バンド自身の表現が主導権を握ったことによって、“演奏するバンド”としての自立が明確になった。
後の『Desolation Boulevard』へと続くヘヴィでダークなSweet像の原点であり、グラム・メタルの先駆としても高く評価されるべき一枚。
アイドルからアーティストへ――その変貌の瞬間が、ここに記録されている。
おすすめアルバム(5枚)
- Slade – Slayed? (1972)
グラム・ロックのハード路線における代表格。Sweetの進化と共鳴する泥臭さと熱量。 - T. Rex – The Slider (1972)
セクシーかつ幻想的なグラム美学が、Sweetの装飾性と通じる。 - New York Dolls – New York Dolls (1973)
ラフで攻撃的なグラム・ロック。Sweetの荒々しさと美意識の間を行く感覚に近い。 - Queen – Queen II (1974)
同時期に録音され、ハードかつシアトリカルな構成が、Sweetの野心と並ぶ音楽的冒険。 - Kiss – Hotter Than Hell (1974)
アメリカ流グラム・ハードロックの雄。エンタメ性と攻撃性のバランスが共通。
コメント