Steve Harley & Cockney Rebel(スティーヴ・ハーレイ&コックニー・レベル)は、1970年代の英国で独自のグラムロック/アートロックを作り上げたグループである。中心人物はロンドン出身のシンガーソングライター、Steve Harleyだった。
代表曲「Make Me Smile (Come Up and See Me)」の軽快な印象で知られるが、実際の音楽はそれほど単純ではない。初期には一般的なロックバンドのようなエレクトリックギターを置かず、ヴァイオリンやピアノを目立たせた。そこへHarleyの芝居がかった歌声と、ひねりのある歌詞を組み合わせている。
David BowieやRoxy Musicなどが活躍したグラムロック期に登場しながら、そのどれとも違う音を持っていた。ポップなメロディの裏側に退廃的な雰囲気や皮肉を忍ばせることが、Steve Harley & Cockney Rebelの大きな魅力である。
Steve Harley & Cockney Rebelの背景と歴史
Steve Harleyは1951年にロンドンで生まれた。幼少期にはポリオを患い、長期間の入院生活を経験している。若い頃にはジャーナリストとして働いた後、音楽活動を本格化させた。
Cockney Rebelは1972年に結成された。初期の重要なメンバーにはHarleyのほか、ヴァイオリンのJean-Paul Crocker、キーボードのMilton Reame-James、ベースのPaul Jeffreys、ドラムのStuart Elliottがいた。
この編成には通常のロックバンドで中心となるエレクトリックギターの専任奏者がいなかった。ヴァイオリンと鍵盤をギターの代わりになるほど前へ出したことで、同時代のグラムロックとは違う音が生まれた。
1973年にデビューアルバム The Human Menagerie を発表する。「Judy Teen」が翌1974年に英国でヒットし、Cockney Rebelは広く知られるようになった。
1974年には2作目 The Psychomodo を発表。「Mr. Soft」などがヒットしたが、この時期に最初のバンド編成は崩れる。Harleyと他のメンバーとの関係が悪化し、Stuart Elliottを除く主要メンバーが離れた。
HarleyはここでCockney Rebelを終わらせず、新しいメンバーを集めた。以降はバンドというより、Steve Harleyを明確な中心人物とする形が強くなっていく。名義もSteve Harley & Cockney Rebelとなった。
この新体制から生まれたのが1975年の The Best Years of Our Lives である。そこから「Make Me Smile (Come Up and See Me)」が英国で1位となり、Harley最大のヒット曲になった。
その後も Timeless Flight、Love’s a Prima Donna と作品を発表する。音楽は初期のグラムロックから離れ、プログレッシブ・ロック、フォーク、ポップなどを取り込んだ方向へ進んだ。
1970年代後半からHarleyはソロ名義での活動も行うようになる。その後はCockney Rebelの名称を使ったライブ活動も再開し、自身の過去の作品をさまざまな編成で演奏した。
Steve Harleyは2024年3月に73歳で死去した。長い活動のなかでも「Make Me Smile」は特に広く知られ続けたが、彼の音楽の本質は一曲だけでは分からない。初期Cockney Rebelの奇妙な編成や演劇的な歌、作品ごとに変化したアレンジにこそ、その独自性が表れている。
Steve Harley & Cockney Rebelの音楽スタイルと特徴
Cockney Rebelの初期を特徴づけるのは、まずギターの扱いである。
1970年代のロックでは、エレクトリックギターが曲の中心になることが多かった。しかし初期Cockney Rebelでは、ヴァイオリンとピアノがその役割を担う。Jean-Paul Crockerのヴァイオリンは美しい伴奏だけではなく、ときには鋭く不穏な音を鳴らした。
そのため、ロックでありながら少し古い劇場音楽やキャバレーのようにも聞こえる。ピアノが軽快なリズムを刻んでいても、その上でヴァイオリンが落ち着かないフレーズを弾くため、明るさと不気味さが同時に存在する。
Steve Harleyの歌い方も非常に特徴的だ。音程をきれいにそろえることより、言葉の表情を重視する。声を伸ばしたり、急に力を抜いたり、話すような調子になったりする。
歌詞も分かりやすい物語ばかりではない。文学的な言葉、皮肉、性的なイメージ、社会への違和感などが入り混じる。Harleyは自分自身をそのまま語るというより、登場人物を演じるように歌うことが多かった。
一方、「Make Me Smile」のような曲では非常に強いポップセンスを見せる。複雑なアイデアを持ちながら、覚えやすいサビも書ける。この二つの面がSteve Harley & Cockney Rebelの重要な特徴である。
Steve Harley & Cockney Rebelの代表曲
「Judy Teen」
Cockney Rebelの初期を代表するヒット曲である。
軽快なピアノとヴァイオリンを使い、どこか古風なポップソングのように進んでいく。しかしHarleyの歌い方には癖があり、単純に明るい曲には聞こえない。
ロックンロールの勢いと、ミュージカルやキャバレーにも近い演劇的な感覚が混ざっている。ギター中心ではない初期Cockney Rebelの特徴を短い曲で理解しやすい。
「Sebastian」
デビューアルバム The Human Menagerie の中心となる長編曲である。
ピアノとHarleyの声を軸に始まり、ストリングスを加えながら壮大な方向へ進む。一般的なグラムロックの軽快さより、ヨーロッパ的で暗い雰囲気が強い。
Harleyの歌も非常に演劇的で、普通のロックボーカルというより、一人の人物を舞台上で演じているように聞こえる。Cockney Rebelのアートロック的な面がよく分かる曲である。
「Mr. Soft」
1974年の The Psychomodo を代表する曲である。
跳ねるようなリズムとコーラスが耳に残り、一見すると楽しいポップソングに聞こえる。しかしHarleyの声と歌詞には奇妙な感覚があり、少し不気味な空気も漂う。
明るいメロディと風変わりな人物像を組み合わせる方法は、初期Cockney Rebelらしい。グラムロックの華やかさを持ちながら、簡単には陽気にならない曲だ。
「Make Me Smile (Come Up and See Me)」
Steve Harley & Cockney Rebel最大の代表曲で、1975年に英国シングルチャート1位を記録した。
アコースティックギターを中心にした軽やかな曲で、大きなコーラスと覚えやすいサビを持つ。途中で演奏に余白を作り、歌のフレーズを強く印象づけるアレンジも特徴的だ。
明るいタイトルやメロディとは違い、歌詞の背景には初期Cockney Rebelの分裂に対するHarleyの感情があるとされる。親しみやすいポップと皮肉な言葉が同居している点が、この曲を単純な陽気なヒット曲とは違うものにしている。
「Mr. Raffles (Man, It Was Mean)」
The Best Years of Our Lives に収録された代表曲の一つである。
ピアノを中心にした比較的落ち着いた曲だが、進むにつれてコーラスや演奏が広がっていく。Harleyの語りかけるようなボーカルも強く出ている。
「Make Me Smile」のポップな面とは違い、Steve Harley & Cockney Rebelが持っていた物語性や演劇性を理解するのに適した曲である。
アルバムごとに見るSteve Harley & Cockney Rebelの進化
The Human Menagerie(1973年)
Cockney Rebelのデビューアルバムであり、最も独特な作品の一つである。
ヴァイオリンとピアノを中心にした編成によって、一般的なグラムロックとはかなり違う音になっている。「Sebastian」のような長く壮大な曲もあり、ポップというよりアートロックやプログレッシブ・ロックに近づく場面もある。
Harleyの歌詞と歌唱もすでに個性的だ。ロックバンドのボーカリストというより、舞台の登場人物のように言葉を扱う。
後のヒット曲より少し聴きにくい部分もあるが、Cockney Rebelがなぜ特殊なバンドだったのかが最もよく分かる作品である。
The Psychomodo(1974年)
前作の基本的なスタイルを残しながら、よりコンパクトでポップな曲が増えた。
「Mr. Soft」では軽快なリズムとコーラスを使い、風変わりな音を親しみやすいポップへ変えている。一方、タイトル曲などでは暗く演劇的な雰囲気も残る。
華やかなグラムロックと、Harley独自のひねくれた世界観のバランスがよく取れた作品である。
しかし制作後、初期編成は崩壊する。結果として、オリジナルのCockney Rebelによる最後のスタジオアルバムとなった。
The Best Years of Our Lives(1975年)
新しい編成によるSteve Harley & Cockney Rebelの最初のアルバムである。
初期に重要だったヴァイオリン中心の音から離れ、ギターを含む、より一般的なロックバンドの編成へ変化した。その一方で、Harleyの演劇的な歌とひねりのある曲作りは残っている。
最大のヒット「Make Me Smile (Come Up and See Me)」を収録しており、Harleyのポップソングライターとしての才能が最も広く知られた作品でもある。
初期Cockney Rebelの奇妙さをそのまま繰り返すのではなく、より大きな聴衆に届くロックへ作り替えたことが重要だった。
Timeless Flight(1976年)
「Make Me Smile」の成功後に制作されたが、同じタイプのヒット曲を並べる方向には進まなかった。
音は以前より静かで複雑になり、プログレッシブ・ロックやフォークに近い部分が増えている。すぐに覚えられるサビよりも、アルバム全体の雰囲気や曲の展開を重視した。
大ヒット後に商業的な公式を繰り返さず、再び違う方向へ進んだところにHarleyの性格が表れている。
Love’s a Prima Donna(1976年)
同じ1976年に発表された作品で、Steve Harley & Cockney Rebel名義による1970年代の重要作の一つである。
前作より再び華やかなロックへ戻りながら、ストリングスや複雑なアレンジも使っている。タイトルが示すように、愛や人間関係をどこか演劇的なものとして見るHarleyらしい視点も強い。
この時期になると、初期Cockney Rebelの「変わった編成のグラムロック」という特徴からはかなり離れている。Steve Harleyというソングライターの世界を、その都度異なる演奏者が形にするプロジェクトへ変化していた。
Steve Harley & Cockney Rebelが影響を受けた音楽
Steve Harleyの音楽を考えるうえでは、Bob Dylanの存在が重要である。Harleyはメロディだけでなく、言葉そのものを楽曲の中心に置いた。きれいに歌うより、言葉の意味や響きに合わせて声を変化させる点にも共通する部分がある。
一方、初期Cockney Rebelの音にはDavid BowieやRoxy Musicが活躍したグラムロック時代とのつながりがある。衣装や演劇性を含め、ロックを単なるバンド演奏ではなく一つの表現世界として扱う感覚が共通していた。
ただしCockney Rebelは、ギターを前面に出す代わりにヴァイオリンやピアノを使った。そのため同じグラムロックでも、BowieやT. Rexとはかなり違って聞こえる。
Harleyには古いポップ、フォーク、キャバレー的な音楽への関心も見られる。これらが混ざったことで、英国グラムロックの中でも分類しにくい独特のスタイルが生まれた。
Steve Harley & Cockney Rebelが後の音楽に残したもの
Steve Harley & Cockney Rebelは、David BowieやQueenのように世界規模で巨大な影響を与えたバンドではない。しかし、1970年代英国ロックの可能性を広げた存在として重要である。
特に初期Cockney Rebelは、ロックバンドに必ずしもエレクトリックギターが必要ではないことを示した。ヴァイオリンと鍵盤を中心にしても、ロックの緊張感や勢いを作ることができた。
またHarleyは、ポップな曲と文学的で皮肉な言葉を両立させた。「Make Me Smile」は誰でも覚えやすい大きなサビを持っているが、その背景にある感情は明るいだけではない。
こうした「耳に入りやすい曲の中に、少し居心地の悪い感情を入れる」という方法は、後の英国のアートロックや個性的なシンガーソングライターにもつながる考え方である。
何よりCockney Rebelは、グラムロックが単に派手な衣装と太いギターだけの音楽ではなかったことを示している。演劇、文学、フォーク、ポップを混ぜながら、それでもヒット曲を作れる。その柔軟さが彼らの残した重要な特徴である。
まとめ
Steve Harley & Cockney Rebelの最大の特徴は、1970年代のグラムロックを自分たちなりの方法で大きく変形させたことにある。初期にはエレクトリックギターを中心に置かず、ヴァイオリンとピアノ、Harleyの芝居がかった歌声によって奇妙で華やかなロックを作った。
The Human Menagerie と The Psychomodo ではその独特な編成を追求し、The Best Years of Our Lives ではより開かれたポップロックへ変化した。「Make Me Smile (Come Up and See Me)」は、そのポップセンスが最も親しみやすい形で表れた曲である。
Steve Harleyは一つの成功したスタイルに長く留まるタイプではなかった。ポップ、グラム、フォーク、プログレッシブな構成を行き来しながら、皮肉と美しいメロディが同居する音楽を作った。その一筋縄ではいかない個性こそが、Cockney Rebelを1970年代英国ロックの中でも独特な存在にしている。

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