Elevation by U2(2000)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

Elevation」は、U2が2000年にリリースしたアルバム『All That You Can’t Leave Behind』に収録された楽曲であり、重力を振り切って“高く上昇していく”感覚——つまり、魂の高揚、恋の高まり、そして人生の再起を、ユーモアと爆発的エネルギーで包み込んだロック・アンセムである。

この楽曲における「エレヴェーション(高揚/上昇)」は、単にテンションが上がるという意味ではなく、人生の痛みや抑圧を超えて“次元を変えるように飛翔する感覚”を象徴している。
それは宗教的な超越とも、ラブソング的なエクスタシーとも、はたまたバンドの再生とリンクした再出発の賛歌とも取れる。
このように、「Elevation」はU2にとっての“復活”のエネルギーそのものを音像化した曲なのだ。

ボノはしばしばライブでこの曲を、「自分たちをもう一度ロックバンドとして地表から浮かび上がらせた」と表現しており、**90年代の実験期を経て原点回帰を遂げたU2の“跳躍”**を象徴する作品となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Elevation」は、アルバム『All That You Can’t Leave Behind』の制作において、U2が“時代に迎合せずに、時代の先を行く”ことを目指した中で生まれた
このアルバムでは、バンドは1980年代のソウルフルでストレートなロックの感覚を取り戻しつつも、現代的なプロダクション(ブライアン・イーノとダニエル・ラノワのプロデュース)によって洗練された音像を手に入れている。

「Elevation」はその中でも最も爆発力のある楽曲で、U2のライヴにおける定番中の定番
2001年の“Elevation Tour”ではこの曲がセットの中心を担い、観客のエネルギーを引き上げる役割を果たしていた。

また、この曲は2001年の映画『トゥームレイダー』の主題歌としても採用され、その疾走感と高揚感がアクション映画と絶妙にマッチしたことで、より多くのオーディエンスにU2の新たな姿を印象付けた

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は「Elevation」の印象的な一節。引用元は Genius Lyrics。

I’ve got no self-control
自分でも抑えられない

Been living like a mole now
まるでモグラみたいに、地中でもがいてきたけど

Going down, excavation
地面に潜っていた僕が、掘り起こされていく

I and I in the sky
僕と君が、空で重なっていく

You make me feel like I can fly
君は僕を、空も飛べそうな気持ちにさせてくれるんだ

この冒頭のフレーズでは、**“地中に埋まっていた存在が、恋や感情によって上昇していく”**というビジュアルが提示される。
特に「I and I in the sky」というフレーズには、自我と他者の融合、あるいは内なる神性との出会いといった深い意味合いすら感じさせる。

Elevation
上昇

この単語が、サビで何度も繰り返されることにより、言葉そのものがマントラのようにエネルギーを増幅させる
そのリズム、響き、シンプルさは、U2が“身体で感じる音楽”を意識的に作った証でもある。

4. 歌詞の考察

「Elevation」は、U2が90年代に追求してきたアイロニーやポストモダン性を脱ぎ捨て、再び“感情”と“瞬間”を信じるようになった姿勢を示す曲である。

「愛」「飛翔」「変容」というテーマはU2の作品で繰り返し登場するが、この曲においてそれらは、理屈や物語性を超えて、“感じること”だけで成り立っている
それがこの楽曲の最大の魅力であり、メッセージの根源的な強さでもある。

また、“mole(モグラ)”や“excavation(掘り起こす)”といった土中のイメージと、“fly(飛ぶ)”“sky(空)”という上昇のイメージが対比的に使われており、“暗い場所から光のある場所へと移動する”精神的な変容のプロセスが明確に表現されている。

それはまさに、“個人の復活”の物語であり、U2というバンド自体の再出発と完全に重なっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Vertigo by U2
    高揚と混乱が交錯する、U2の2000年代を代表するロック・アンセム。

  • Beautiful Day by U2
    苦しみを超えた後の新たな始まりをポジティブに祝福する名曲。
  • Are You Gonna Be My Girl by Jet
    エネルギー全開のロックンロール。身体が自然に動き出す衝動性が共通する。

  • Song 2 by Blur
    シンプルなリフと爆発的な展開がクセになる、90年代後半のグランジ的名曲。

  • No One Knows by Queens of the Stone Age
    重たいリフと浮遊感のあるヴォーカルのバランスが、“肉体と意識の上昇”を思わせる。

6. “地表から浮かび上がる、音と魂の再起動”

「Elevation」は、音楽という手段によって“感情を物理的に引き上げる”ことに成功した、数少ないロック・ソングである。

この曲に漂うのは、達観でも知性でもない。
あるのは、「生きてるって、こんなに気持ちいいんだ」という、原始的な快楽と純粋な喜びである。

苦悩の時代を経て、バンドがもう一度“音楽を信じる”ことを選んだ瞬間。
その選択が、世界中のリスナーをもまた“高み”へと連れて行った。

だから「Elevation」は、ただのヒット曲ではない。
人生の泥の中にいても、そこから飛び出すことができる——そう信じさせてくれる、ロックという名のリフトなのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました