アルバムレビュー:Nexus by Argent

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発売日: 1974年3月
ジャンル: プログレッシブロック、シンフォニックロック、ジャズロック


交差する意志、融合する精神——Argent、鍵盤主導の知的冒険へ

『Nexus』は、1974年にリリースされたArgentの5作目のスタジオ・アルバムであり、ロッド・アージェントとクリス・ホワイト(元The Zombies)による鍵盤重視の音楽的探求が極まった作品である。
タイトルの“Nexus(接点、連結、交差点)”が示すように、ロックとクラシック、ジャズ、宗教音楽、さらには哲学的視点までが複雑に交錯した、“知性派ロック”の真髄ともいえる一枚となっている。

本作ではラス・バラードがバンド内での役割を縮小し、後に脱退することとなる。
そのため、ギター主導のエネルギッシュなロック路線から、キーボード主体の構築的かつ精神的なアプローチへと一気にシフト。
これにより、アルバム全体はより内省的でスピリチュアルな色合いを帯びており、Argentの中でも特異な輝きを放っている。


全曲レビュー

1. The Coming of Kohoutek

実在の彗星“コホウテク彗星”をモチーフにしたインストゥルメンタル。
幻想的なシンセと荘厳なオルガンが織りなす、宇宙的な広がりに満ちたオープニングで、Argentのシンフォニック路線を象徴する楽曲。

2. Once Around the Sun

季節と人生の巡回を重ね合わせた哲学的なバラード。
穏やかなメロディと瞑想的なリリック、クラシカルな和声進行が印象的で、まるで叙情詩のような佇まい。

3. Infinite Wanderer

タイトル通り、終わりなき旅路をテーマにした浮遊感ある楽曲。
ロッドの柔らかく包み込むようなヴォーカルと、緻密なシンセパートが美しく融合する。

4. Love

本作の中でもっともシンプルで情感豊かなラブバラード。
スローなテンポとミニマルなアレンジの中に、誠実で心のこもった歌声が響く。バラードとしての完成度が非常に高い。

5. Music from the Spheres

本作のハイライトともいえる組曲的インストゥルメンタル。
天体の音楽(ミュージカ・ムンダーナ)を彷彿とさせる荘厳な構成と、プログレ的展開の妙が見事に融合。クラシカルでスピリチュアルな傑作。

6. Thunder and Lightning

珍しくアグレッシブなロックナンバーで、アルバムの中で最もダイナミズムに満ちた一曲。
タイトル通りの爆発的なギターと鍵盤の掛け合いが、嵐のようなサウンドを作り出している。

7. Keeper of the Flame

理想と信念を守る者=“炎の番人”をテーマにした荘厳な楽曲。
オルガンを中心としたアレンジが神秘的な印象を与え、精神的な強さを讃えるアンセムのようでもある。

8. Man for All Reasons

時代に流されず自己を保つ“普遍の人”を描いた、静と動のバランスが巧みな楽曲。
アルバム後半の流れの中で、物語の結節点として機能している。

9. Gonna Meet My Maker

締めくくりは、死と救済をテーマにした魂の讃歌。
ゴスペル調のハーモニーと重厚なコード進行が印象的で、まるで終章としての祈りのように響く。


総評

『Nexus』は、Argentというバンドが音楽的技巧と精神的主題の両立を本格的に追求した、最も“アートロック”としての色が濃い作品である。
このアルバムでは、従来のロック的な即効性よりも、構造・思想・感情の持続性が重視されており、まさに“長く浸る”ための音楽となっている。

派手さは抑えられ、表現は内に向かい、スピリチュアルな静けさが全体を支配する。
ゆえに、一般的なロックアルバムとは一線を画し、“ロックという形式を用いた現代音楽”とすら呼びうる作品なのだ。

10cc的ユーモアも、Yes的スペクタクルもないが、そこにあるのは真摯な音楽への信頼と、人間の内面を描こうとする美しい意志。
プログレッシブ・ロックの精神性を愛するすべてのリスナーに、深い満足をもたらすだろう。


おすすめアルバム

  • Rick Wakeman『The Six Wives of Henry VIII』
     クラシカルな鍵盤構成と歴史的視点が共鳴。
  • GenesisA Trick of the Tail
     構築的でありながら抒情的、Nexusとの親和性が高い。
  • Alan Parsons Project『Tales of Mystery and Imagination』
     哲学的/文学的モチーフと音の物語性が交差する名盤。
  • Anthony Phillips『The Geese & the Ghost』
     静謐さと構築美が溶け合う、“音の内省”と呼ぶべきアルバム。
  • Camel『The Snow Goose
     インスト主体のシンフォニックロックによる物語的展開がNexusと響き合う。

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