Get It On by T. Rex(1971)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Get It On(ゲット・イット・オン)」は、T. Rexが1971年に発表した代表作であり、グラム・ロックの象徴とも呼ばれる存在である。アメリカでは「Bang a Gong (Get It On)」というタイトルでリリースされ、そちらの名でも広く知られている。セクシュアリティと幻想、自己神話化とポップな力学が渾然一体となったこの楽曲は、音楽が肉体と精神を解き放つ祭礼のようなものになり得るという、T. Rexの本質を最も鮮やかに体現している。

歌詞そのものは抽象的かつ官能的で、明確な物語構造は存在しない。登場するのは、美しい女性と自信に満ちた語り手、そして車やドラムといったシンボル的モチーフたち。だがその背後では、ロックンロールという様式美が全身を震わせるような感覚で歌われており、比喩とリズムで構成された詩的世界が広がっている。

「Get It On」という反復されるフレーズには、セックス、音楽、エネルギーの爆発という意味が重なっており、それを覆うようにしてグルーヴィーなギターリフとグラム的きらめきが走る。身体と魂が一体化する瞬間の祝祭、それこそがこの曲のテーマである

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲を書いたのは、T. Rexのフロントマンであるマーク・ボラン(Marc Bolan)。彼は1970年代初頭のロンドンで、グラム・ロックというジャンルを実質的に創り出した先駆者であり、きらびやかさと妖艶さ、そしてロックンロールの原始的衝動を組み合わせたスタイルで、一世を風靡した。

「Get It On」は、チャック・ベリーやエルヴィス・プレスリーといった初期ロックの影響を受けつつ、それをよりファッショナブルでセクシュアルな形で再構成した作品でもある。ボランは自身のサウンドにヴィンテージなR&B感覚と現代的な妖しさを融合させることに長けており、この楽曲ではそれが極致に達している。

興味深いのは、ボランがこの曲をもともと“チャック・ベリー風”に書いたと公言していたことで、古典的なロックの精神を再解釈し、自分自身を神話的なロックスターとして演出する素材に変えたという点に、当時のポップカルチャーの動的な本質が現れている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Well you’re dirty and sweet
君はワイルドで、でも甘い

Clad in black, don’t look back and I love you
黒い服に身を包み、振り返らない君が好きだ

You’re dirty and sweet, oh yeah
君はワイルドで甘くて、ああ、たまらない

Well you’re slim and you’re weak
君は細くて、かよわい

You’ve got the teeth of the Hydra upon you
君の笑顔にはヒュドラ(ギリシャ神話の怪物)の牙が宿ってる

You’re dirty sweet and you’re my girl
君はワイルドで甘くて、僕の女の子

Get it on, bang a gong, get it on
始めようぜ、ゴングを鳴らして、さあ始めよう

(参照元:Lyrics.com – Get It On)

比喩とファンタジーに満ちた歌詞だが、すべての言葉が一つの肉体的エネルギーに収束していく感覚がある。文学的でありながら、きわめて本能的でもあるのがボランの特徴である。

4. 歌詞の考察

「Get It On」は、明確な意味を追うのではなく、イメージと言葉の響き、音のグルーヴで“感じる”曲である。ボランの詩はいつもどこか夢うつつであり、現実と幻想のあいだを浮遊する。その中に登場する女性像は、神話的でセクシーで、どこか手の届かない存在だ。彼女は破滅の象徴でもあり、愛の女神でもある。

一方で、繰り返される「Bang a gong, get it on」は、ライブやセッション、あるいはセックスといった“始まりの儀式”を連想させる。これはただのラブソングではなく、ロックンロールそのものを愛し、それを信仰する者の讃歌であり、自己陶酔と観客との共鳴が同時に起きる空間を描いている。

また、「ヒュドラの牙」という異様な比喩に象徴されるように、ボランの女性像は一面的ではない。彼女は官能の対象でありながら、畏怖すべき存在でもある。そのアンビバレントな魅力を抱え込むことで、T. Rexの音楽は単なるポップスを超えた神秘性を帯びていくのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Rebel Rebel by David Bowie
     性的アイデンティティと反抗心が絡み合う、グラム・ロックの代表曲。

  • 20th Century Boy by T. Rex
     マーク・ボランの自己神話化がさらに加速した、攻撃的でエネルギッシュな一曲。
  • All the Young Dudes by Mott the Hoople
     グラム・ロックの精神と若者の物語性が交差する、アンセム的楽曲。

  • Lust for Life by Iggy Pop
     快楽と破壊衝動を高速リズムで突き抜けた、ロックのもう一つの衝動系統。

6. グラム・ロックの聖歌としての“Get It On”

「Get It On」は、グラム・ロックというジャンルが持つすべての要素――妖艶さ、力強さ、遊び心、自己演出、そして儀式性――を一曲の中に閉じ込めたような存在である。マーク・ボランの歌声は、誘うようであり、命じるようであり、そしてそのどれでもない中間の甘美な響きを持っている。

この曲は“時代の産物”であると同時に、“時代を越える音”でもある。ロックがまだ身体と精神の両方を震わせる芸術だった時代の記録であり、同時に今でもクラブやフェスで鳴り響けばフロアがざわつくような、永遠の魔法を宿している。

“ゴングを鳴らせ”というこの曲の呼びかけは、ライブの開幕であり、夜の始まりであり、ロックンロールの魂が目覚める瞬間だ。そして私たちもまた、聴くたびにその魔法にかかり、何度でも“Get It On”してしまうのだ。

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