On My Own by Patti LaBelle with Michael McDonald(1986)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「On My Own」は、Patti LaBelleパティ・ラベル)とMichael McDonald(マイケル・マクドナルド)のデュエットによって1986年にリリースされたバラードであり、愛の終焉とそれぞれの自立を、静かに、しかし力強く描いたデュエット・クラシックである。

歌詞は、かつて愛し合っていた男女が別々の道を歩むことになったその瞬間を描いている。互いへの愛情はまだ残っているものの、関係はもはや修復不可能であり、それぞれが「これからはひとりで生きていく」という決意を口にする。

だがそこにあるのは、単なる悲しみではない。むしろこの曲の核心は、“失った愛を嘆く”ことではなく、“それでも自分らしく歩いていく”という希望と成熟の物語である。切なさ、誤解、未練、そして未来への小さな勇気。それらが繊細なデュエットのかたちで交差していく。

2. 歌詞のバックグラウンド

「On My Own」は、バート・バカラックとキャロル・ベイヤー・セイガーというポップ・ミュージック界の名ソングライター・コンビによって書かれた楽曲で、当初はソロ曲として構想されていたが、Patti LaBelleの提案によりデュエットとして完成された。

マイケル・マクドナルドとの共演によって、二人の声が“別れゆく男女”の物語をまさにリアルに再現する構成となり、1986年の全米ビルボードチャートで1位を獲得。LaBelleにとってはキャリア最大のヒット曲となった。

当時50歳近くになっていたPatti LaBelleにとって、この曲のヒットは長年のキャリアの集大成とも言えるものであり、成熟したソウル・ディーヴァとしての存在感を世に知らしめる瞬間でもあった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

So many times
Said it was forever
Said our love would always be true

何度も言ったよね
「永遠だ」って
「私たちの愛は絶対に変わらない」って

Something in my heart always knew
I’d be lying here beside you
On my own

でも心のどこかでは
きっとこうなるってわかってたのかもしれない
今こうして一人、あなたの隣じゃなく
ただ、自分自身のもとに帰ってきた

引用元:Genius 歌詞ページ

二人の歌声が交差するこの一節では、「ずっと一緒にいるはずだった」という過去の約束と、「でもそうはならなかった」という現在のリアリティが交差し、愛が残っているからこその切なさが浮き彫りになる。

4. 歌詞の考察

「On My Own」は、恋愛の“失敗”を描く曲であると同時に、人間関係の不完全さ、そしてその中でなお自分らしさを取り戻すプロセスを描いた作品でもある。

ここで描かれる二人は、いがみ合ったり責め合ったりするのではなく、すれ違いや選択の違いを受け入れ、それぞれの道を歩むことを選んでいる。この“穏やかな別れ”には、むしろ成熟した愛のかたちがあるようにも思える。

タイトルの「On My Own(ひとりで)」は、孤独を意味する言葉でもあるが、この曲ではそれが再生と自立、そして再出発のニュアンスを持つ。「もう一人で歩くことになったけど、それが終わりではない。むしろ新しい章の始まりなのだ」と、静かに、しかし力強く訴えかけてくる。

また、デュエットという形式そのものが、二人の語り手の間にある距離と未練をリアルに可視化する演出となっており、同時に声の重なりがもたらす“かつての親密さ”と“現在の断絶”が見事に表現されている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Separate Lives by Phil Collins & Marilyn Martin
    別れた後も互いを想う、成熟したデュエット・バラード。

  • You Don’t Bring Me Flowers by Barbra Streisand & Neil Diamond
    日常にすれ違いが積もっていく恋人たちの情景を描いた名曲。

  • A House Is Not a Home by Luther Vandross
    家という物理的な空間と“愛の不在”との対比を詩的に描くソウル・バラード。

  • Didn’t We Almost Have It All by Whitney Houston
    一度は近づいた永遠がすり抜けていく切なさを壮大に歌い上げる。

  • I Know You Were Waiting (For Me) by Aretha Franklin & George Michael
    別れではなく再会の歓びを描いた力強いデュエット。

6. 「別れ」と「自由」の交差点に立つ、大人のバラード

「On My Own」は、Patti LaBelleというソウル・レジェンドが、そのキャリアの集大成として放った“成熟の証”とも言える作品である。

悲しみの中に希望を見出し、別れの中に再出発を感じさせるこの曲は、
ただの失恋ソングではなく、人生のひとつの章が終わり、次のページをめくる勇気の歌である。

“ひとり”でいることは決して敗北ではない。
それは、もう一度、自分自身と向き合うチャンス。
LaBelleとMcDonaldの声は、そんな大人の勇気と優しさを、そっと教えてくれる。

静かに涙を拭いたそのあとに、
「私らしく生きていく」と、そう言える自分がいたなら――
きっとこの曲は、あなたのそばで、寄り添ってくれるだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました