Halleluwah by Can(1971)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

『Halleluwah』は、1971年にリリースされたCanのアルバム『Tago Mago』の収録曲であり、18分を超える長尺のトラックである。そのボリュームと即興性から、楽曲というよりも一種のセッション記録、あるいはサウンド・トランスの儀式ともいえるような作品だ。

歌詞はミニマルかつ断片的であり、物語的な構造は存在しない。しかし、そこには奇妙なユーモアと皮肉、そして奔放な言語遊びが詰め込まれており、Canならではの自由奔放な精神が響いてくる。「Halleluwah(ハレルヤ)」という語の宗教的意味合いとは裏腹に、ここでの言葉は神聖というよりも、音の感触と反復の快楽を追求するための“素材”のように扱われている。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Tago Mago』は、Canのキャリアにおいて最も重要かつ実験的なアルバムとされている。本作では、ヴォーカルにDamo Suzukiを迎えてから初のフル・アルバムであり、グループは即興演奏とテープ編集を駆使し、徹底的に構造と常識を破壊した。

『Halleluwah』におけるドラムは、Jaki Liebezeitによる圧倒的にミニマルなリズムで貫かれており、18分間ほぼ変わらないグルーヴが維持される。これが催眠的なループ感を生み出し、そこにDamoの意味の曖昧な語りや叫び、笑い声や言葉の断片が漂うことで、聴き手は意識の境界を揺さぶられるような感覚に陥る。

タイトルの「Halleluwah」は、英語で「Praise the Lord(主を讃えよ)」を意味する「Hallelujah」とは綴りが異なり、発音も曖昧である。これは意図的に意味の中心をずらすことで、言葉そのものを解体し、音の純粋な力に還元するような試みであるようにも思える。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元: Genius

Halleluwah, halleluwah, halleluwah, halleluwah
ハレルワ、ハレルワ、ハレルワ、ハレルワ

I was in love with a girl that I met, who was in love with another guy
僕はある女の子と恋に落ちたけど、彼女は別の男を愛していた

She told me that, and I said, “Halleluwah”
彼女はそれを僕に告げ、僕は言った「ハレルワ」

I told her I loved her, she said: “Halleluwah”
僕は彼女に愛を告げたが、彼女は言った「ハレルワ」

このように、「Halleluwah」は単なる歓喜や賛美の言葉ではなく、日常の奇妙なズレや滑稽な対話を表す言葉として繰り返される。そのたびに、言葉が意味を失い、音の響きとしての存在感を強めていく。

4. 歌詞の考察

『Halleluwah』の歌詞は、意味のある詩として読むよりも、音と語感の実験として捉えるべきである。Damo Suzukiのヴォーカルは即興であり、そこには感情の流れと身体的なリズムが先行し、論理的な文脈は二の次となっている。まるで言葉が思考よりも先に存在しているかのような、生々しいエネルギーがそこにはある。

繰り返される「halleluwah」という言葉は、音楽のループ構造と同調しながら、徐々に意味を失い、音の純粋性へと還元されていく。この過程は、リスナーの意識に対する挑戦でもある。意味を求めようとする理性と、それを無化する快楽のグルーヴとの間で、聴く者は奇妙な恍惚に包まれるのだ。

また、「恋に落ちたけれど、相手は他の誰かを愛していた」という短いエピソードが挿入されることで、この混沌の中に一瞬の人間的なドラマが差し込まれる。だが、それもまた「Halleluwah」という言葉で軽やかに受け流される。悲劇も愛も痛みも、この音楽の中ではすべてが等価に“音”として処理されていくのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Sister Ray by The Velvet Underground
    17分におよぶ轟音と混沌のジャム。Canの即興性に通じる破壊的なエネルギーを持つ。
  • Mother Sky by Can
    『Soundtracks』収録、Canの中でもとりわけトランス性の高い一曲。『Halleluwah』と並んで代表的な長尺ナンバー。
  • Hallogallo by Neu!
    反復されるミニマルなドラムとギターによる浮遊感。Canと同じクラウトロックの文脈で語られる作品。
  • Echoes by Pink Floyd
    宇宙的広がりと内省が交錯する23分超の大曲で、『Halleluwah』に通じる構造的実験性を持つ。

6. “反復”という名のトランス

『Halleluwah』の最大の魅力は、何よりもそのリズムの「反復」にある。Jaki Liebezeitのドラムは、まるでドラムマシンのように正確かつミニマルに刻まれ続け、曲全体を貫く脊髄のような役割を果たす。その上で、Damo Suzukiの声が踊り、ギターやキーボードが自由に滑り込んでいく。

このリズムの反復は、リスナーの知覚を変容させる。時間の感覚が曖昧になり、音の渦の中で聴く者の意識はふわりと浮き上がっていく。これはダンスミュージック以前の、もっと原始的で身体的なグルーヴ体験だ。

『Halleluwah』は、Canというバンドがいかに“即興”と“秩序”の間でバランスをとっていたかを如実に示す一曲である。そして、音楽がいかにして意味を持たずとも深く響くかを体感させてくれる。まさに「聴く」というより「没入する」音楽であり、クラウトロック史においても、実験音楽史においても極めて特異な光を放ち続ける作品なのだ。

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