Getaway by Earth, Wind & Fire(1976)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Getaway」は、Earth, Wind & Fireが1976年にリリースしたアルバム『Spirit』に収録されているスリリングなファンク・ナンバーであり、タイトルの通り“逃避”をテーマにしている。この“逃避”とは単なる現実逃れやリゾートへの旅を意味するのではなく、精神的な束縛、社会的な重圧、自己を押さえ込むあらゆる力からの脱出を指している。

歌詞の中では、現代の生活の中で知らず知らずに囚われてしまう感情や制限から抜け出し、自分本来の姿を取り戻す旅へと誘われるような語りが展開される。「Let me get away」と何度も繰り返されるそのフレーズは、叫びでもあり、祈りでもある。そこには自由への渇望と、抑圧からの解放を求める強いエネルギーがこもっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Getaway」は、ベル&ジェームスとしても知られるベル・ツインズのひとり、ベニー・ディグスとキニー・フォルクスによって書かれた楽曲で、Earth, Wind & Fireによるアレンジと演奏によって完全に昇華された。アルバム『Spirit』は、バンドの精神的支柱であり創始者であるモーリス・ホワイトが掲げた“音楽によって人間の魂を高める”というコンセプトを色濃く反映した作品であり、「Getaway」はその中でも最もアグレッシブかつダイナミックなトラックとして、聴く者の心を揺さぶる。

また、本作はドラマーのフレッド・ホワイト(モーリスの弟)による超人的なプレイ、そしてホーン・セクションの緻密かつ炸裂するようなアレンジによって、圧倒的なドライヴ感を持っている。まさに“突き抜ける”音楽であり、バンドの演奏力とアンサンブルの密度が極限に達した瞬間の記録と言ってよいだろう。

リリース当時、この曲はBillboardのR&Bチャートで1位を記録し、Earth, Wind & Fireの勢いをさらに加速させるきっかけとなった。ライブでもたびたび演奏されるキラーチューンであり、その爆発力は今なお新鮮である。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Getaway」の印象的な一節を紹介し、日本語訳を添える。

Gotta get away
I want to fly away
I’m tired of all the confusion
I’m tired of all the pain

逃げ出したい
どこか遠くへ飛び立ちたい
この混乱に、もううんざりなんだ
この痛みに、もう耐えられない

Let me get away
Let me get away
Let me get away
Let me get away, yeah

逃げさせてくれ
自由にしてくれ
僕を解き放ってくれ
遠くへ行かせてくれ

(歌詞引用元:Genius – Earth, Wind & Fire “Getaway”)

4. 歌詞の考察

この楽曲が持つ最大の魅力は、歌詞と音楽が完璧に一致していることである。言葉としては「逃げたい」という単純な構造を持ちながら、そこには肉体的・精神的な限界を迎えた人間の“内なる叫び”が込められている。日常の重圧、社会的な役割、自己の理想と現実とのギャップ――そういったすべてのしがらみから抜け出し、真に自由な状態へと向かおうとする切実さが、歌詞のすべての行間に滲んでいる。

また「Let me get away」というフレーズには、受動的な“逃走”ではなく、自発的な“覚醒”のニュアンスも含まれているように思える。つまりこれはただの逃避ではなく、“本来あるべき自分に戻るための旅立ち”なのだ。

この楽曲の中では、「飛ぶ」「逃げる」「走る」といった動詞が多用されるが、それらはいずれも現状からの転換を示す象徴的な言葉として機能している。これは、Earth, Wind & Fireが常に音楽を通して変容と成長を促す存在であろうとしたことの現れでもある。

(歌詞引用元:Genius – Earth, Wind & Fire “Getaway”)

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Running Away by Roy Ayers Ubiquity
     内面的な苦悩からの“逃走”をテーマにしたソウル・ファンク。メロウさとアーバンな雰囲気が融合している。

  • Give Up the Funk (Tear the Roof off the Sucker) by Parliament
     アグレッシブなファンク・サウンドで、“解放”のカタルシスを味わえる。重厚なグルーヴが「Getaway」と通じる。

  • Move On Up by Curtis Mayfield
     逃げるのではなく“昇る”という選択を描いたソウルの名曲。社会的意識と個人の内なる希望が融合している。

  • Don’t Stop ‘Til You Get Enough by Michael Jackson
     強烈なリズムと内発的なエネルギーで、“逃げ出したい”気持ちをポジティブに変換してくれるダンス・クラシック。

6. 音楽で心を解き放つ“スピリチュアル・ラン”

「Getaway」は、Earth, Wind & Fireの音楽がどれほど“魂の運動”であったかを改めて思い出させてくれる楽曲である。この曲を聴くということは、たんなる娯楽に身を委ねることではなく、抑圧された精神を少しでも自由にするための“スピリチュアル・ラン”に参加することに近い。

速いテンポ、鋭いホーン、爆発するようなリズム――そのすべてが、聴く者の内側に眠る「解き放たれたい」という欲望を刺激する。Earth, Wind & Fireは、そんな個々の感情を決して否定せず、むしろ受け入れ、肯定し、音楽の力で昇華しようとする。

「Getaway」は、理性では抑えきれない情動が音に姿を変えた瞬間を捉えた、稀有な楽曲である。リスナーはこの曲とともに、自分の限界を超え、自由へと走り出す衝動を再発見することになるだろう。音楽とは、時に逃げ場であり、時に出発点でもある。Earth, Wind & Fireの「Getaway」は、その両方を併せ持った名曲なのである。

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