
発売日:2000年4月10日
ジャンル:ガレージ・ロック/パンク・ロック/ガレージ・パンク/ロックンロール
概要
The Hivesのセカンド・アルバム『Veni Vidi Vicious』は、2000年代初頭に世界的な広がりを見せたガレージ・ロック・リバイバルを代表する作品のひとつであり、スウェーデンの地方都市から登場した5人組を国際的なロック・シーンへ押し上げた決定作である。
The Hivesはスウェーデンのファーゲシュタで結成され、Howlin’ Pelle Almqvist、Nicholaus Arson、Vigilante Carlstroem、Dr. Matt Destruction、Chris Dangerousという強烈に作り込まれたステージ・ネームと、黒白を基調とした統一衣装、誇張されたロックンロール的自信によって独自のキャラクターを形成した。
音楽的な構造は非常に簡潔である。
短い曲。
鋭く歪んだギター。
高速の8ビート。
反復するリフ。
叫ぶようなヴォーカル。
しかし、その簡潔さの裏には非常に精密なアレンジがある。
The Hivesは「粗野に聞こえる音楽」を、実際にはかなり計算して作っているバンドである。
その点が、単なるパンクの模倣や60年代ガレージ・ロックの復刻と異なる。
『Veni Vidi Vicious』というタイトルは、ユリウス・カエサルの有名な言葉「Veni, vidi, vici=来た、見た、勝った」をもじったものだ。
最後の「vici」を「vicious=凶暴な、悪意のある」に置き換えることで、バンドの傲慢でコミカルな自己演出を端的に表している。
つまりタイトル自体が、「自分たちは現れた瞬間に勝利するロックンロール・バンドだ」という誇張された宣言になっている。
これはThe Hivesの重要な特徴である。
彼らは自信に満ちているが、その自信には常にユーモアがある。
本気で偉そうに振る舞う一方、その過剰さ自体が演劇になっている。
この美学は、Howlin’ Pelle Almqvistのステージ・パフォーマンスにもつながる。
彼は観客に向かって、自分たちこそ世界最高のロックンロール・バンドであるかのように語る。
しかしその誇張された態度が、楽曲の短さや単純さと組み合わさることで、ロックのマッチョな伝統を半ばパロディ化している。
音楽的な影響源としては、The Sonics、The Stooges、MC5、New York Dolls、Ramones、Dead Boys、The Cramps、さらにスウェーデンや北欧のガレージ・パンク・シーンが重要である。
特にThe Sonicsの粗いギターと絶叫、The Stoogesの反復、Ramonesの簡潔さは、本作の基礎にある。
しかし『Veni Vidi Vicious』は、過去のロックをそのまま再現する作品ではない。
録音は非常に硬質で、リズムの輪郭が明快だ。
ギターはヴィンテージ感を持ちながらも、全体のミックスは2000年前後のパンク/オルタナティヴ・ロックらしく引き締まっている。
そのため、60年代のガレージ・ロックから40年近く経っているにもかかわらず、単なる懐古には聞こえない。
本作が国際的に広く知られるきっかけとなったのが「Hate to Say I Told You So」である。
この曲の巨大なリフと反復的な構造は、2000年代ガレージ・ロック・リバイバルの象徴のひとつとなった。
The Strokes、The White Stripes、The Vines、The Libertinesなどと並べて語られることが多いThe Hivesだが、彼らの特徴はニューヨーク的なクールさでも、ブルース的な原始性でもない。
もっと速く、もっと派手で、もっとコミカルで、意図的に「ロックンロール」を演じている。
その完成形が『Veni Vidi Vicious』である。
全曲レビュー
1. The Hives – Declare Guerre Nucleaire
アルバム冒頭の「The Hives – Declare Guerre Nucleaire」は、作品全体の姿勢をそのまま宣言するオープニングである。
タイトルはフランス語を含み、「The Hives、核戦争を宣言する」といった誇張された意味を持つ。
もちろん実際の政治的な核戦争を論じる曲ではない。
ここでの戦争は、The Hivesがロック・シーンへ殴り込むことの比喩である。
曲は短く、ギターとドラムが一気に突入する。
イントロから余計な説明はない。
「アルバムが始まる」のではなく、「攻撃が始まる」という構造だ。
この大げさな軍事的イメージは、The Hivesの自己神話化とも結びついている。
自分たちは単なるバンドではない。
ひとつの侵略部隊である。
しかし、その誇張があまりにも極端なため、同時に笑える。
この「本気と冗談の境界」が、The Hivesの美学の核心である。
2. Die, All Right!
「Die, All Right!」は、タイトルからして攻撃的なパンク・ナンバーである。
短く鋭いギター・リフと高速のリズムによって、The Hivesの基本フォーマットを一気に提示する。
歌詞には、自暴自棄、反抗、破壊衝動といったパンク的な感覚がある。
しかし、The Hivesは深刻な自己破壊を告白するタイプのバンドではない。
むしろ「死ね」という極端な言葉を、コミック的なロックンロールのポーズとして使用する。
Howlin’ Pelle Almqvistのヴォーカルも、苦悩を内面化するのではなく、観客へ向かって外側に投げつける。
そのため曲は暗くならない。
むしろ陽性のエネルギーを持つ。
The Hivesのパンクは、絶望の音楽というより、過剰な生命力の音楽であることを示す一曲だ。
3. A Get Together to Tear It Apart
「A Get Together to Tear It Apart」は、タイトル自体が矛盾を含む。
「集まって、それを引き裂く」。
共同体を作ることと、破壊することが同時に存在する。
これはパンク・ライブの感覚にも近い。
観客はひとつの場所へ集まる。
しかし、その場では秩序が崩れ、身体がぶつかり合い、日常的なルールから一時的に解放される。
音楽は非常にタイトだ。
二本のギターが短いフレーズを交換し、ベースとドラムがほとんど機械的に曲を前へ押し進める。
The Hivesの演奏は一見単純だが、こうした楽曲では各パートの「止める場所」が非常に重要である。
鳴らし続けるのではなく、急に切る。
その瞬間に生まれる空白が、次のリフをさらに強くする。
パンクの速度とファンク的なリズム感覚がわずかに交差する一曲である。
4. Main Offender
「Main Offender」は、本作の代表曲のひとつであり、The Hivesの「自分こそ問題の中心人物だ」というキャラクターを明確にする。
タイトルは「主犯」「最大の違反者」といった意味を持つ。
ここでも、バンドは自らを社会の秩序を乱す存在として演出する。
しかし、歌詞の反抗は政治的な宣言ではない。
もっとロックンロール的だ。
うるさい。
目立つ。
言うことを聞かない。
そして、それを恥じない。
音楽的には反復するリフが非常に強い。
ギターはコードを大量に鳴らすのではなく、短い音型をリズムの中へ押し込む。
Howlin’ Pelleのヴォーカルもメロディを大きく歌うより、語句を鋭く切る。
その結果、曲全体がひとつの巨大なリズムとして機能する。
The Hivesがガレージ・ロックとダンス的な身体性を自然に結びつけていたことが分かる。
5. Outsmarted
「Outsmarted」は、「出し抜かれた」という意味を持つ。
本作の多くの曲でThe Hivesは絶対的な自信を見せる。
しかしこの曲では、語り手が誰かに知恵で負ける。
そこに少し違った人間味がある。
相手を支配しているつもりだった。
しかし、実際には自分のほうが読まれていた。
この状況は恋愛にも、競争にも解釈できる。
音楽は引き続き短く、直接的だ。
The Hivesは複雑な心理を長い歌詞で説明しない。
「負けた」という状況を認識したら、その感情をリフと勢いへ変換する。
そのため、内容は敗北でも音楽は敗北感を持たない。
むしろ「やられた」と笑いながら次へ進むような軽快さがある。
6. Hate to Say I Told You So
「Hate to Say I Told You So」はThe Hives最大の代表曲であり、2000年代ガレージ・ロック・リバイバルを象徴する一曲である。
最大の特徴は、冒頭から繰り返される非常に単純で強力なギター・リフだ。
コード進行は複雑ではない。
しかし、音の切り方、ドラムとの噛み合わせ、ベースの重さによって、リフそのものが楽曲の人格になる。
タイトルは「言った通りだと言うのは気が引けるけど」という慣用的な表現である。
実際には「ほら、言った通りだっただろう」という優越感を持つ。
The Hivesのキャラクターにこれほど似合う言葉は少ない。
自分の正しさを証明し、相手へそれを突きつける。
しかし「Hate to say」と一応前置きすることで、傲慢さを冗談に変える。
曲構成も非常に優れている。
ヴァース、サビ、間奏がほとんどリフの力だけで成立している。
過度な装飾がないため、ライブではさらに強くなる。
The StoogesやAC/DCにも通じる「優れたリフは複雑な展開を必要としない」という原則を、2000年のパンク/ガレージ・ロックへ更新した楽曲である。
7. The Hives Introduce the Metric System in Time
「The Hives Introduce the Metric System in Time」は、タイトルだけでThe Hivesのユーモアを象徴する楽曲である。
「The Hivesが時間にメートル法を導入する」という、意味が通るようで通らない言葉だ。
メートル法は長さや重量の体系であり、時間には通常使わない。
その不合理さこそがタイトルの狙いである。
The Hivesは、自分たちが世界のルールを勝手に変更するような万能の存在として振る舞う。
音楽も短く、勢いに満ちている。
ここでは歌詞の論理より語感とリズムが重要だ。
パンク・ロックには、知的な説明より「言葉の響きが格好いい」という感覚が強く存在する。
The Hivesはその幼児的ともいえる快楽を、非常に意識的に使用している。
8. Find Another Girl
「Find Another Girl」は、本作の中で明確に異なる色を持つ楽曲である。
原曲はJerry Butlerによって歌われたソウル・ナンバーで、The Hivesはそれを自分たちなりのガレージ・パンク/ロックンロールへ変換している。
ここで重要なのは、The Hivesのルーツがパンクだけではないことだ。
1960年代のガレージ・ロック自体が、R&B、ソウル、ブルース、ロックンロールの影響を強く受けていた。
そのためソウル曲のカヴァーは、彼らの音楽史的な背景を示すものでもある。
歌詞は失恋と別の相手を探すことを扱う。
本作の他の曲に比べれば、感情はずっと伝統的だ。
しかしHowlin’ Pelleの声で歌われることで、原曲のソウルフルな滑らかさは、もっと尖ったロックンロールへ変化する。
アルバム中盤にテンポと感情の変化を与える重要な一曲である。
9. Statecontrol
「Statecontrol」は、タイトル通り国家や制度による統制を連想させる。
The Hivesは政治的パンク・バンドとして知られているわけではないが、権威、規則、管理への反発は彼らの基本的なロックンロール精神と自然に結びつく。
タイトルを一語に圧縮したような表記にも、硬質で機械的な印象がある。
音楽も短く、攻撃的である。
ドラムが一定のビートを強く刻み、ギターがその上へ鋭いリフを置く。
ここでは反復が「管理」の感覚とも重なる。
規則的なビート。
同じパターン。
その中でHowlin’ Pelleの声だけが暴れる。
秩序と反抗の対立を、音楽の構造自体で表現したような曲である。
10. Inspection Wise 1999
「Inspection Wise 1999」は、タイトルからして官僚的で奇妙な響きを持つ。
「Inspection=検査」という語を使うことで、何かを評価し、分類し、規則に合わせる世界を連想させる。
The Hivesはそうした管理的な言葉をロックンロールへ持ち込むことで、逆にその堅苦しさを笑いの対象へ変える。
曲はタイトで、リズムの正確さが際立つ。
The Hivesの音楽は「無秩序」を演じているが、実際の演奏はかなり秩序立っている。
この曲名が「Inspection」という言葉を持つことは、その矛盾とも面白く重なる。
ステージ上では暴れている。
しかしバンドとしてのアンサンブルは非常に統制されている。
その二重性がThe Hivesの強さである。
11. Knock Knock
「Knock Knock」は、タイトル通りドアを叩く音を連想させる。
誰かが来る。
何かが始まる。
あるいは、The Hives自身が聴き手の世界へ強引に入ってくる。
アルバム終盤まで来ても、彼らのエネルギーはほとんど落ちない。
音楽は極めて直接的で、リフとビートを中心に進む。
「Knock Knock」という短い言葉自体がパーカッシヴであり、Howlin’ Pelleの発音によってリズムになる。
この「言葉を意味だけでなく打楽器として使う」感覚は、本作全体にある。
The Hivesのヴォーカルはメロディを美しく歌うためだけに存在するのではない。
ギターやスネアと同じように、楽曲の衝撃を作る楽器である。
12. Supply and Demand
アルバムを締めくくる「Supply and Demand」は、「需要と供給」という経済学の基本概念をタイトルにした楽曲である。
The Hivesがこうした堅い用語をロックンロールへ持ち込むのは、単なる知的な遊びではない。
本作には「Statecontrol」「Inspection Wise 1999」「Metric System」など、制度、計測、管理を連想させる言葉が頻繁に登場する。
それに対してThe Hives自身は、制御不能なロックンロールとして振る舞う。
「Supply and Demand」もその構造の一部である。
音楽や文化まで市場の需要と供給で説明される世界。
その中でバンドは、自分たちの商品価値を誇張しながら、同時にその考え方を茶化している。
曲は最後まで勢いを落とさない。
壮大なバラードでアルバムを閉じるのではなく、ロックンロールの短い爆発で終える。
The Hivesにとって重要なのは余韻ではなく、最後の瞬間まで観客を刺激し続けることなのである。
総評
『Veni Vidi Vicious』は、ロックンロールの歴史において「新しさとは何か」を考えるうえで興味深い作品である。
The Hivesが使用している音楽語法自体は、決して新しくない。
1960年代のガレージ・ロック。
1970年代のパンク。
The Stooges。
MC5。
The Sonics。
Ramones。
New York Dolls。
これらの影響は非常に分かりやすい。
しかし、ロックにおける革新は必ずしも新しいコードや新しい楽器を発明することではない。
過去の音楽を、別の時代の身体感覚や文化へどう再配置するかも重要である。
The Hivesはその点で非常に成功した。
2000年前後、ロックは1990年代のオルタナティヴ・ロックを経て大きく細分化していた。
グランジ。
ポスト・グランジ。
ニューメタル。
ポップ・パンク。
エモ。
エレクトロニカ。
そうした流れの中でThe Hivesは、ロックを極端なほど基本形へ戻した。
二本のギター。
ベース。
ドラム。
ヴォーカル。
短い曲。
大きなリフ。
それだけでいい。
この単純さは、一種の反動でもあった。
The Strokesがニューヨークのアート・ロック/ポストパンク的なクールさを提示し、The White Stripesがブルースを最小編成へ還元したのに対し、The Hivesは「ロックンロールのショー」そのものを復活させた。
彼らはクールに立っているだけではない。
叫ぶ。
跳ぶ。
観客を煽る。
統一衣装を着る。
大げさに自分たちを褒める。
つまり、音楽だけでなくロック・バンドという存在自体を演じる。
この演劇性が非常に重要である。
ロックはもともと演技性の強い文化だ。
Little Richard。
Mick Jagger。
Iggy Pop。
David Bowie。
New York Dolls。
Sex Pistols。
彼らは音楽だけでなく、外見、態度、発言を含めて「人物」を作った。
The Hivesもその伝統にいる。
ただし、彼らの場合はそのキャラクターをあまりにも過剰にすることで、ロック・スター像を半分パロディにしている。
バンド・メンバーのステージ・ネームもその一部だ。
Howlin’ Pelle Almqvist。
Nicholaus Arson。
Vigilante Carlstroem。
Dr. Matt Destruction。
Chris Dangerous。
どれも普通の名前ではない。
コミック・ブックの登場人物のようだ。
この人工的な名前が、The Hivesを「日常生活から切り離されたロックンロール集団」に変える。
『Veni Vidi Vicious』は、そのキャラクター設定と音楽が最も強く一致した作品である。
サウンドの中心にはリフがある。
「Hate to Say I Told You So」は典型だ。
ギター・リフが一つ強ければ、曲全体を成立させられる。
これはThe Kinksの「You Really Got Me」、The Rolling Stonesの「(I Can’t Get No) Satisfaction」、The Stoogesの「I Wanna Be Your Dog」、AC/DCの数多くの楽曲など、ロック史に繰り返し現れる原則である。
The Hivesはその原則を理解している。
複雑さを増やさない。
リフを何度も鳴らす。
必要な場所で止める。
そして再び鳴らす。
この反復が身体を動かす。
また、Chris Dangerousのドラムも重要である。
ガレージ・ロックというと粗い演奏をイメージしやすいが、The Hivesのリズムはかなり正確だ。
スネアは鋭い。
キックはリフを強く支える。
テンポが速くても曲が崩れない。
この正確さがあるからこそ、ギターやヴォーカルが乱暴に振る舞える。
つまり、バンドの「危険な感じ」は実際には高い統制によって作られている。
ベースも同様だ。
Dr. Matt Destructionの演奏は、ギターと同じ音を追うだけではない。
必要な場所で低音を強調し、曲の推進力を維持する。
The Hivesは個々の演奏技巧を誇示するタイプではないが、アンサンブルとして非常に合理的に作られている。
歌詞についても、深刻な文学性を求める作品ではない。
むしろ、タイトルと短いフレーズの力を重視する。
「Main Offender」。
「Hate to Say I Told You So」。
「Outsmarted」。
「Statecontrol」。
「Supply and Demand」。
これらは一目で意味や態度が伝わる。
パンクにおけるスローガンのようでもある。
しかしThe Hivesは、それを政治的メッセージだけには使わない。
自己神話化、皮肉、ユーモアへ向ける。
この点で、彼らはRamonesにも近い。
Ramonesも非常に単純な言葉を使いながら、暴力、恋愛、漫画的ユーモアを混ぜていた。
The Hivesはその方法をより自己意識的に発展させた。
本作の中で異色の「Find Another Girl」も重要である。
このカヴァーによって、The Hivesのルーツがパンクだけではなく、ソウルやR&Bまで遡ることが分かる。
そもそも60年代ガレージ・ロックの多くは、黒人R&Bの粗い模倣から生まれた。
若い白人バンドがChuck Berry、Bo Diddley、Little Richard、Motown、ソウルなどを聞き、それを自分たちの技術で荒っぽく演奏した。
The Hivesはその歴史を間接的に継承している。
だからこそJerry Butlerの楽曲を取り上げても、アルバム全体から完全には浮かない。
また、『Veni Vidi Vicious』が後のガレージ・ロック・リバイバルに与えた影響も大きい。
2001〜2003年頃には、The Strokes、The White Stripes、The Vines、Jetなどが国際的に注目され、「ロックの復活」が音楽メディアで大きく扱われた。
The Hivesはその流れの中で、もっとも視覚的に完成されたバンドのひとつだった。
黒と白のスーツ。
短い曲。
派手なライブ。
識別しやすいロゴ。
明確なキャラクター。
つまり、音楽とデザインが完全に連動していた。
これは1960年代のビート・グループや1970年代のパンクにも通じる。
バンドを一目見ただけで、音楽まで想像できる。
そのブランド構築の強さは、2000年代のロック・バンドに大きな影響を与えた。
一方で、本作は意図的にレンジが狭い。
基本的に速い。
基本的に短い。
基本的にギター中心。
そのため、アルバム全体を通して聞けば同じテンションが続く。
しかし、それは欠点というより設計思想に近い。
The Hivesは多様性を見せることを目的としていない。
「自分たちにはこの音がある」と強く押し切る。
デビュー作からの発展は、ジャンルを増やすことではなく、その音をさらに純化する方向にある。
これはRamonesの初期作品にも近い。
同じような曲が続くこと自体が、美学になる。
『Veni Vidi Vicious』というタイトルが示す通り、The Hivesはこの作品で「来た、見た、そして凶暴に暴れた」。
その目的は、ロックンロールを高尚な芸術にすることではない。
短い曲で身体を動かす。
巨大なリフを鳴らす。
観客を煽る。
少し笑わせる。
そして曲が終わる前に次の曲へ行く。
その単純な快楽を、驚くほど高い精度で実現している。
だからこそ本作は、2000年代ガレージ・ロック・リバイバルの一時的な流行を超えて残った。
ロックンロールが複雑になりすぎたとき、その基本形を思い出させる作品として、現在でも機能するアルバムである。
おすすめアルバム
1. The Hives – Tyrannosaurus Hives(2004)
『Veni Vidi Vicious』の成功後に発表されたサード・アルバム。短く鋭いガレージ・パンクを維持しながら、リズム、ギターの配置、プロダクションをさらに精密化している。「Walk Idiot Walk」「Two-Timing Touch and Broken Bones」などを収録し、The Hivesの方法論がより機械的でタイトな方向へ発展した作品である。
2. The Sonics – Here Are The Sonics!!!(1965)
The Hivesを含む後世のガレージ・パンクに巨大な影響を与えた原点のひとつ。荒れたギター、絶叫、単純なコード、R&B由来のリズムによって、1960年代半ばとは思えないほど攻撃的なサウンドを作った。『Veni Vidi Vicious』の粗暴なエネルギーの歴史的背景を理解するうえで最重要の一枚である。
3. The Stooges – Fun House(1970)
反復するリフと身体的な演奏によって、パンク以前にロックンロールを極端な形へ押し進めた作品。The Hivesよりはるかに混沌としているが、「技巧ではなく反復と衝動で圧倒する」という考え方には明確な共通性がある。
4. The Strokes – Is This It(2001)
『Veni Vidi Vicious』と並び、2000年代初頭のガレージ・ロック・リバイバルを代表する作品。The Hivesが派手で演劇的なのに対し、The Strokesは冷たく都会的で抑制されている。同じ過去のロック語法を使いながら、まったく異なる現代性を作り出した点で比較する価値が高い。
5. The White Stripes – White Blood Cells(2001)
ブルース、ガレージ・ロック、パンクを最小限の編成へ還元した2000年代ロックの重要作。「Fell in Love with a Girl」などを収録。The Hivesとはサウンドの方法が異なるものの、複雑化した1990年代ロックに対して「ギター、ドラム、強い曲だけで十分」という原始的な回答を提示した点で共通している。

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