1. 歌詞の概要
「Walk」は、Foo Fightersが2011年にリリースした7枚目のスタジオアルバム『Wasting Light』のラストを飾る楽曲であり、絶望からの再出発、再生の意志、そして“歩き出すこと”そのものの力強さを描いた名曲である。
「I never wanna die, I’m on my knees, I never wanna die(死にたくなんかない、膝をついてもなお、生きたい)」という後半の叫びは、人間の脆さとそれでも生き抜こうとする渇望をまっすぐに描いており、
この曲が単なる希望の歌ではなく、“絶望の底から這い上がるプロセス”を描いたエモーショナルなロックアンセムであることを示している。
タイトルの「Walk」は、象徴的に「前に進むこと」「再び動き出すこと」「生き方を学び直すこと」など、多義的に響く。
まさにこの楽曲は、“人生のどん底”にいる誰かに向けて、「それでも歩け」と語りかける歌なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Walk」は、アルバム『Wasting Light』の最終曲として書かれたが、Dave Grohlにとっては非常にパーソナルで重要な意味を持つ楽曲だった。
このアルバムは、プロデューサーにNirvana時代の盟友ブッチ・ヴィグを迎え、アナログ機材を使用したホームスタジオ録音という原点回帰の手法で制作された。
「Walk」はその締めくくりとして、再生、成長、そして“Foo Fighters自身がもう一度立ち上がる”ことの象徴となった。
Grohlはこの曲について、「娘に歩き方を教えた時の体験がきっかけになった」と語っている。
子どもが一歩ずつ歩けるようになる姿を見ながら、「自分自身もまた“生きること”を学び直さなければならないのではないか」と感じたという。
その視点が、この曲のリリック全体を貫く**“シンプルな動作に宿る、深い哲学”**として昇華されている。
この曲はまた、2011年のグラミー賞「最優秀ロックソング賞」を受賞し、Foo Fightersの代表的な楽曲のひとつとして多くの人々に愛されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Lyrics © BMG Rights Management
Learning to walk again
I believe I’ve waited long enough
Where do I begin?
― また歩き方を学んでいる
もう十分すぎるほど待ってきたと思う
さあ、どこから始めればいい?
Do you remember the days
We built these paper mountains
Then sat and watched them burn?
― あの頃を覚えてるかい?
紙で山を築いて、それが燃えるのをただ見ていた日々
I never wanna die
I’m on my knees, I never wanna die
I’m dancing on my grave
I’m running through the fire
― 死にたくなんかない
膝をついてでも、生きたいんだ
自分の墓の上で踊って
炎の中を走っている
4. 歌詞の考察
「Walk」は、“始めること”への賛歌であると同時に、“やり直すこと”の肯定でもある。
そしてそのやり直しは、輝かしい新章の始まりではなく、過去の痛みや喪失を抱えたまま進む決意の表現である。
たとえば「Learning to walk again(また歩き方を学ぶ)」という一節は、比喩としても非常に深い。
それはただの再出発ではない。過去に一度歩けていたこと、しかし何かを失って歩けなくなったこと、
そして再び立ち上がるには“歩くという行為そのものを再構築しなければならない”という状況を意味している。
また、「I never wanna die(死にたくない)」という叫びには、Foo Fightersらしからぬほどのむき出しの弱さと祈りが込められている。
これはカッコいいロックバンドのセリフではない。死の誘惑と戦いながら、“生きたい”と叫ぶ人間の心の声であり、
Dave Grohlの友人でありNirvanaのフロントマンだったKurt Cobainの死を思い出さずにはいられない。
そしてこの曲の真骨頂は、希望が“感傷ではなく選択”として提示されている点にある。
「また歩く」ことは、簡単なことではない。
だが、それを“やるかどうか”は自分の手にあるのだと、この曲は教えてくれる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Times Like These by Foo Fighters
同じく再生と成長をテーマにした名曲。苦しい時代にこそ自分を取り戻す希望を描いている。 - Rise by Eddie Vedder
穏やかなメロディの中に、生きる決意と孤独の美しさが共鳴するアコースティック・バラード。 - Not Afraid by Eminem
過去の失敗とトラウマを乗り越え、新しい自分として歩き出す決意をラップで表現した魂の告白。 - Beautiful Day by U2
失ったものの先にある“今日という日”の美しさを歌う、ポジティブな再出発の歌。
6. 生き直すという“選択”のアンセム
「Walk」は、Foo Fightersがこれまでに紡いできた怒りや悲しみ、混乱や迷いのすべてを乗り越えた先に辿り着いた、**“生きることそのものを肯定するロックソング”**である。
それは派手でも劇的でもない。
むしろ、もっとも人間的で、もっとも普遍的な感情――「諦めたくない」「もう一度やってみたい」という思いが、
ギターの一音一音と、Grohlの声の震えとともに丁寧に編み込まれている。
この曲は、希望を叫ぶのではなく、希望を“選び取る”ことの尊さを語っている。
それはロックの本質であり、人生そのものでもある。
「Walk」は、どんなに倒れても、何度でも立ち上がれることを教えてくれる、“人生という坂道の伴奏”なのだ。
そしてその坂を、今日も一歩ずつ登っていくすべての人のための歌である。
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