Monkey Wrench by Foo Fighters(1997)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Monkey Wrench」は、Foo Fightersが1997年にリリースした2枚目のアルバム『The Colour and the Shape』からの先行シングルであり、終わりを迎えた関係の中で“自分自身を取り戻す”ことをテーマにした、爆発的なエネルギーを持つロックアンセムである。

タイトルの「Monkey Wrench(モンキーレンチ)」とは、英語で「予期せぬ妨害」「計画を狂わせるもの」を意味する俗語であり、この楽曲では**崩壊寸前の関係における“自分の役割”や“限界”**を暗示している。

歌詞は、自分を押し殺してまで誰かに尽くし続けてきた語り手が、ついにそれに終止符を打ち、自己犠牲をやめて自分の人生を選び直す瞬間を高らかに描いている。
「I was always caged, but now I’m free(ずっと閉じ込められてたけど、いまは自由だ)」というフレーズが象徴するように、これは脱出と再生の物語なのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Monkey Wrench」は、Dave Grohlが離婚を経験した直後に書いた楽曲であり、歌詞全体にその個人的な感情の揺らぎが濃密に滲んでいる。
彼自身、この曲について「自分がどれだけ人に合わせすぎて、自分を失っていたかに気づいたときに書いた」と語っており、“他人の人生の脇役になっていた自分”からの解放という強烈なテーマを持っている。

また、本作が収録されたアルバム『The Colour and the Shape』は、バンドとしての新しい方向性と、よりパーソナルな表現への移行を意味しており、「Monkey Wrench」はその象徴的なトラックである。

音楽的にも、イントロからアウトロまで疾走感があり、ドラム、ギター、ボーカルが三位一体となって爆発する構成は、まさに怒りと決意の塊のような楽曲と言える。
最後のブリッジでGrohlが畳みかけるように叫ぶセクションは、ライブでも観客の熱狂を巻き起こすクライマックスとなっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Lyrics © BMG Rights Management

What have we done with innocence?
It disappeared with time, it never made much sense

― 無垢な気持ちはどこへ行った?
時の中で消えていって、最初から意味なんてなかったのかもな


Don’t want to be your monkey wrench
One more indecent accident

― もう“お前のモンキーレンチ”にはなりたくない
また一つの見苦しい事故の一部になるのはごめんだ


I’d rather leave than suffer this
I’ll never be your monkey wrench

― こんな苦しみを味わうくらいなら去ってやる
二度と“お前の道具”にはならない


I was always caged, but now I’m free
Don’t you ever tame your demons
But always keep ‘em on a leash

― ずっと檻の中にいたけど、いまは自由だ
悪魔を飼いならすな、でも手綱は握っておけ

4. 歌詞の考察

「Monkey Wrench」は、自己犠牲的な関係性からの脱却と、自由を手に入れるための決別の歌である。

冒頭から終始語られるのは、「君のためにすべてを捧げたのに、もう限界だ」という強烈な不満と、
それでもその関係から抜け出せなかった自分自身への悔しさである。

「Don’t want to be your monkey wrench」という表現は、自分が“他人の問題を引き起こす道具”になっている状況を拒否する言葉だ。
関係が壊れそうになるたび、矛盾を受け止め、修復を試みてきた自分――
それがもはや耐えられず、今こそ手放す時が来たのだと、語り手は気づく。

また、「I was always caged, but now I’m free(ずっと檻の中にいたけど、いまは自由だ)」というラインには、単なる怒りではなく、精神的な再生の感覚がある。
“怒り”や“叫び”を通して、ようやく自分を取り戻した者だけが発することのできる言葉であり、
だからこそこの曲は、怒りの歌であると同時に、回復の歌でもあるのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Breakout by Foo Fighters
     感情が爆発し、制御不能になった瞬間を描くハイエナジーな一曲。怒りと軽快さのバランスが秀逸。

  • Just a Girl by No Doubt
     抑圧からの解放と女性の自立をテーマにした1990年代のフェミニズム・ロック・アンセム。

  • Basket Case by Green Day
     自分自身の中の狂気と不安に対するユーモラスな自己分析。高速テンポと衝動性が共通。

  • Learn to Fly by Foo Fighters
     困難のなかで希望を見出す軽やかな一曲。「Monkey Wrench」との対照が魅力的。

6. 怒りから始まる再生、叫びがくれる自由

「Monkey Wrench」は、Foo Fightersにとって個人の感情とバンドのダイナミズムが完璧に融合した代表曲であり、
ただの怒りの爆発ではなく、“怒りを超えて自由に向かう”ためのプロセスを音楽化した、非常に感情的で誠実な作品である。

Dave Grohlの叫びは、他人に向けられたものではない。
それは、自分を押し殺してきた過去の自分自身への告別の声であり、
その声があるからこそ、この曲は“激しさ”のなかに癒しと救済を含んでいる。

「Monkey Wrench」は、誰かのために生きすぎたすべての人に贈る、“もう一度、自分に戻るための歌”なのだ。
音楽がくれる自由は、ときに怒りの中にある――それを思い出させてくれる、純粋なロックの力がここにある。

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