Let’s Go by The Cars(1979)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Let’s Go(レッツ・ゴー)」は、The Carsが1979年にリリースしたセカンド・アルバム『Candy-O』からのリード・シングルであり、彼らの代表曲のひとつとして長く愛され続けている楽曲である。

この曲で描かれるのは、奔放でミステリアスなティーンエイジャーの女の子と、そんな彼女に惹かれながらも少し戸惑っている語り手の視点である。
ポップで軽快なメロディとは裏腹に、歌詞には“時代の移り変わり”や“若さの持つ危うさ”が織り込まれており、単なるラブソングというよりは、若さそのものへの観察と憧憬がにじんでいる。

タイトルの「Let’s Go(さあ行こう)」は、自由と衝動の合図であり、それと同時に、“行くしかない”という若者の焦燥や、自分の居場所を探すような切なさも含んでいるように思える。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Let’s Go」は、The Carsの中でも最も大衆的な成功を収めた曲のひとつであり、全米Billboard Hot 100で14位を記録。彼らの音楽がアメリカのラジオと若者文化の中心に躍り出るきっかけとなった作品でもある。

ボーカルは通常のリードシンガーであるリック・オケイセックではなく、ベーシストのベンジャミン・オールが担当しており、その穏やかでどこか乾いた声が、楽曲の持つ“距離感”をさらに引き立てている。

印象的な「I like the nightlife, baby(ナイトライフが好きなの、ベイビー)」というラインは、リック・オケイセックが“都会に出ていこうとする若い女の子の自由への渇望”をテーマに書いたものであり、当時急速に変化していたティーンカルチャーやファッション、性意識の象徴的なフレーズとして機能している。

シンセサイザーとギターがユニゾンするフレーズ、キャッチーなコーラス、そして隠し味のような電子ドラムの音処理など、The Carsらしい“機械と人間の中間”のようなサウンドスケープが確立されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – The Cars “Let’s Go”

She’s driving away with the dim lights on / She’s making a play, and she can’t go wrong
彼女は薄暗いライトを点けて車を走らせる
まるでゲームでもするみたいに 何もかも上手くいくと思ってる

She likes the nightlife, baby
彼女はナイトライフが大好きなんだ

She says, “Let’s go”
彼女は言う、「さあ行こうよ」

She digs the painting of the wolves on her wall / She gets the thrill of chasing the thrill of it all
壁に飾った狼の絵が大好きで
すべてを追い求めるスリルに興奮している

4. 歌詞の考察

この曲の魅力は、あらかじめ理想化された“若さ”を追いかけるのではなく、むしろその不安定さや“理解できなさ”を含めたうえで、それでも惹かれてしまうという感覚が描かれている点にある。

語り手は、彼女の奔放さや夜に惹かれる性格を理解しようとしているが、実際にはどこか距離を置いて観察している。
それが、ベンジャミン・オールの“感情を乗せすぎない”ボーカルと絶妙にリンクしており、まるでガラス越しに見る青春のような、クールな切なさを漂わせている。

「She likes the nightlife, baby / She says, ‘Let’s go’」というラインは、そのままティーンの反抗や自由への欲望を表しているが、それを肯定的にも批判的にもとらえず、“そういうもの”として淡々と提示する語りの姿勢に、The Carsらしい都市的なアイロニーが滲んでいる。

また、“狼の絵”“スリル”といったキーワードには、少女のファンタジーと現実の交錯が暗示されており、その幻想性と脆さの共存が、曲に深みを与えている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • My Best Friend’s Girl by The Cars
    同じく観察者的な視点で語られる恋愛のかたち。冷静さのなかに漂う皮肉と欲望が共鳴する。

  • Girls Just Want to Have Fun by Cyndi Lauper
    “夜”や“自由”をキーワードにしたポップ・アンセム。Let’s Goの彼女がそのまま歌っていそうな内容。

  • Modern Love by David Bowie
    ポップでキャッチーなサウンドに乗せて、時代の不安定さと自由への渇望を描く名曲。

  • Dancing with Myself by Billy Idol
    自己の孤独と自由をダンスという行為で昇華する。Let’s Goの“出ていく感覚”に近い空気がある。

6. 若さと都会の“距離”を音にした名曲

「Let’s Go」は、単に“行こうぜ!”と煽る曲ではない。
むしろ、その背後にある“なぜ行きたいのか?”という問いや、“どこに向かっているのか分からない”という不安までをも、含んだ作品である。

その“行こう”は、自由と欲望の象徴でありながら、同時に“過渡期の自己逃避”でもあり、だからこそこの曲はただの青春賛歌には終わらない。
そこには観察者の眼差しと、突き放したような優しさが同時に存在している。

1979年という、ディスコの終焉とニューウェイヴの夜明けが重なる瞬間に、「Let’s Go」は鳴らされた。
その中で、The Carsは都会的な冷たさと感情の余韻を両立させた、新しいロックのかたちを提示したのだ。

“彼女はナイトライフが好きで、行きたがっている”
そのたった一文が、どれほど多くの人の夜の衝動を代弁してきたことだろう。
今でもこの曲を聴けば、心のどこかが騒ぎ出す——「行こう」と。

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