Monday by Wilco(1996)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Monday」は、Wilcoが1996年にリリースしたセカンド・アルバム『Being There』に収録された楽曲であり、アルバム前半を彩る最もエネルギッシュで奔放なナンバーである。ブルース、R&B、そして60年代のストーンズやザ・バンド的なアメリカーナの影響が色濃く出たこの曲は、Wilcoのカントリー・オルタナティブ期における“ロックンロール・ソウル”の体現とも言える。

歌詞の内容は、タイトルが指すような「月曜日=憂鬱な週の始まり」という常識的な解釈を裏切り、むしろ奇妙なストーリーとカラフルな登場人物が入り乱れる、スラップスティックな“物語”として展開されていく。語り手は銃を持っている女性や怒りっぽい警官など、風変わりな人物たちと遭遇しながら、何かしら混沌とした状況の渦中にあるようだ。

しかし、この物語は線的なものではなく、断片的なイメージと言葉遊びのように構成されているため、明確な筋を追うよりも、「イカれた月曜日」の雰囲気を全身で味わうようなスタイルになっている。明らかに現実からズレた世界を描きながら、どこかで聴き手の「日常の不条理」と共鳴してくる──それがこの曲のユーモアと魅力である。

2. 歌詞のバックグラウンド

Being There』は、Wilcoにとって新しいステージへの移行を告げる重要なアルバムだった。前作『A.M.』ではオルタナ・カントリー色が前面に出ていたが、この2枚組のアルバムでは、よりロックンロール、ソウル、ポップ、実験性といった多彩な要素を取り入れ、彼らのサウンドがより開かれたものへと進化した。

「Monday」はその中でも特にライブ感あふれる演奏が魅力的な曲で、サックスやホーン・セクションの導入によってソウルフルでグルーヴィーな味付けが施されている。これは、ザ・ローリング・ストーンズの『Exile on Main St.』的な荒さと華やかさを意識したものでもあり、バンドのルーツミュージックへの愛情が色濃く表れている。

ジェフ・トゥイーディはこの曲について多くを語っていないが、その分、聴き手が自由に解釈し、自由に乗れる曲として、ライブでも観客を盛り上げる定番曲のひとつになっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は印象的な一節(引用元:Genius Lyrics):

She said, “Hey, the snows came early this year”
彼女は言った、「今年は雪が早く降ったわね」

She said, “Hey, I need to get away from here”
彼女は言った、「ここから逃げ出したいのよ」

She said, “Hey, I need a new career”
彼女は言った、「新しい人生が欲しいの」

She said, “Hey, it’s all your fault”
彼女は言った、「全部あなたのせいよ」

このように、「She said…」と繰り返される台詞の連なりが、謎めいた女性の心情を断片的に伝えてくる。それは語り手の記憶か妄想か、あるいは比喩的な存在か──明確には分からないが、彼女の言葉の中には、人生の閉塞、怒り、逃避願望といった普遍的な感情が潜んでいる。

4. 歌詞の考察

「Monday」の歌詞は、ストーリーラインを追うというよりも、風変わりなイメージや断片的な台詞の連なりによって、ある種の“感情のカオス”を描いている。タイトルの「月曜日」が象徴しているのは、単なる週の始まりの憂鬱さではなく、日常の中に潜む突然の崩壊や混乱、逃れたいという衝動そのものである。

女性の語りは、「逃避」「再出発」「他者への怒り」というテーマを感じさせるが、それは同時に語り手自身の願望や罪悪感の投影とも受け取れる。まるで語り手の内面で複数の声が交差しているような構造で、聴き手にも“他人事ではない不条理”として迫ってくる。

また、「銃」や「警官」といった暴力のイメージが差し込まれている点からも、表面的なユーモアの裏にある緊張感や崩壊の予兆が読み取れる。この曲は「楽しいロックンロール」に見せかけながら、実は現代人の逃げ場のなさや破裂寸前の感情を示唆しているのかもしれない。

(歌詞引用元:Genius Lyrics)

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Bitch by The Rolling Stones
     ホーンセクションを効かせた、荒々しくもソウルフルなロックンロール。

  • Ophelia by The Band
     失われた女性像を描きながらも、陽気な演奏が印象的なルーツロック。

  • Pump It Up by Elvis Costello
     ひねくれた感情とグルーヴィーなビートが共存する、80年代ポストパンクの傑作。

  • Crosseyed and Painless by Talking Heads
     都市の混乱をファンク的なリズムで描いた、知的で身体的なダンス・ロック。

  • Hey Hey What Can I Do by Led Zeppelin
     逃げ場のない愛と憂鬱な女性像を歌った、ブルージーで哀愁のあるアメリカン・ロック。

6. ロックンロールの仮面を被った日常の狂気

「Monday」は、Wilcoが“アメリカーナ・バンド”の枠を超えて、カントリーとロックンロール、ユーモアと皮肉、日常と混乱を自在に往還できるバンドであることを証明した楽曲である。サウンドは陽気で、ライブでも盛り上がるが、その内実には何かがおかしい──不安定で、暴発寸前のエネルギーが渦巻いている。

その意味でこの曲は、「狂気の入り口としての月曜日」を描いているとも言えるだろう。社会のリズムに戻る最初の一歩、その“月曜日”に、すでに何かが壊れかけている。そしてそれは、誰もが経験するような日常の断片であり、だからこそこの曲は、ただの陽気なロックでは終わらない。

Wilcoの「Monday」は、軽快さの裏に、現代の混沌とした精神風景を映し出す鏡のような楽曲である。聴くたびに新しい“歪み”が見つかるような、不思議な残響を持つ一曲だ。

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