
発売日: 1983年3月
ジャンル: ファンクロック、AOR、ハードロック
“ファンクとは何か”への遅すぎた問い——迷走と挑戦の終章
『What’s Funk?』は、Grand Funk Railroadが1983年に発表した13作目のスタジオ・アルバムであり、
同時に彼らの80年代活動期を締めくくる最後の作品でもある。
再結成後2作目となる本作は、そのタイトル通り“ファンクとは何か?”という問いを掲げているが、
そこにあるのは純粋なファンクではなく、AOR化したロックにファンク要素を加えた折衷的スタイルである。
時代は完全にMTV時代に突入し、かつてのアリーナ・ロックは時代遅れとなりつつあった。
そんな中、グランド・ファンクはシンセサイザーやソウルフルなバックコーラスを取り入れ、
1980年代らしい都会的で洗練された音像を模索している。
だがその一方で、ファーナーとブリュワーを軸にした再編成体制の限界や、時代との乖離も明らかになり、
この作品を最後にバンドは再び沈黙へと向かっていく。
全曲レビュー
1. Rock & Roll American Style
アルバムの幕開けを飾る、明るく爽快なアメリカ賛歌。
80年代的なポップロックの軽さが前面に出ており、往年の重厚さは影を潜めている。
2. Nowhere to Run
ソウルの香りを漂わせるAOR的ロック・チューン。
“逃げ場のない現実”を歌うリリックは、バンド自身の状況を暗示しているかのようでもある。
3. Innocent
シンプルなロック・バラード。
無垢さを失った世代の悲哀を穏やかに描く、感傷的な一曲。
4. Still Waitin’
「まだ待っている」という繰り返しが印象的なミディアム・ナンバー。
愛への未練や人生の虚無感を感じさせる歌詞が、静かに心を締めつける。
5. Borderline
アルバム中もっともファンキーなリズムを持つナンバー。
とはいえ“本格ファンク”ではなく、シンセとパーカッションの装飾が施されたライトなファンクロックといった趣。
6. El Salvador
政治的なテーマに踏み込んだ異色曲。
中南米情勢への関心を示しつつ、音楽的にはブルースとワールドミュージックの要素が混ざる意欲作。
7. It’s a Man’s World
ジェームス・ブラウンの名曲とは無関係ながら、同じように“男社会”を批判的に描く楽曲。
フェミニズム的視点をほのかに内包した、意外性のあるテーマが新鮮。
8. I’m So True
穏やかなバラードで、誠実な愛を歌う。
シンセの優しい音色とヴォーカルの柔らかな語りが、夜のドライブによく似合う一曲。
9. Don’t Lie to Me
軽快なギターリフに乗せて、不信と失望を歌うナンバー。
ポップだが、歌詞はシニカルで、どこか空虚さが残る。
総評
『What’s Funk?』は、タイトルに反して“本格的なファンク”を追求したアルバムではない。
それはむしろ、「ファンクという言葉に込められたグルーヴ、誠実さ、肉体性」と、
「80年代的なサウンドの洗練・整然さ」との間で揺れ動く、アイデンティティの迷いの記録なのだ。
シンセサイザーの多用、都会的なアレンジ、恋愛と社会性を織り交ぜた歌詞。
それらは確かに1983年の空気を反映しているが、かつてのグランド・ファンクらしい土臭い力強さは後退している。
とはいえ、「El Salvador」や「It’s a Man’s World」などの社会的な視点や、
「Still Waitin’」「Innocent」に込められた感情の深みは、
“歌いたいことはまだある”というバンドの矜持を証明している。
だが、時代の波には逆らえなかった。
この作品を最後に、グランド・ファンクは再び表舞台から姿を消す。
『What’s Funk?』は、その静かな幕引きを象徴する、語りかけるようなエピローグなのである。
おすすめアルバム
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『Voices』 by Hall & Oates
AORとソウルを見事に融合した80年代的ポップロックの代表作。 -
『Frontiers』 by Journey
同時期の洗練されたアメリカン・ロック。時代のトーンが近い。 -
『The Nightfly』 by Donald Fagen
シンセとファンクの融合、アーバンな音像。知的なアプローチに共鳴。 -
『Let’s Dance』 by David Bowie
80年代ポップとファンクの融合。ロックレジェンドの変化という意味での共通点。 -
『Flash in the Night』 by Secret Service
エレクトロニックでメロウな80年代サウンド。夜の哀愁とポップ感が似ている。
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