- 発売日: 1981年8月
- ジャンル: New Wave、シンセポップ、ポストパンク
Devoの4作目となるNew Traditionalistsは、彼らの「脱進化」哲学をよりシリアスなトーンで表現した作品であり、1980年代初頭のニュー・ウェーブシーンにおいて独自の進化を遂げた。このアルバムでは、彼らのアイロニーと風刺の鋭さが際立ち、無機質なシンセと冷徹なリズムが聴く者に不安と警戒感を抱かせる一方で、前作Freedom of Choiceのメロディックな要素を受け継ぎながらも、よりダークで硬質なサウンドに仕上がっている。Devoはこの作品で、アメリカ文化と社会のあり方を徹底的に皮肉り、テクノロジーに支配される人間の「進化」の行き詰まりを描く。
New Traditionalistsのリリース時、Devoは象徴的なエネルギードーム(円盤型の帽子)をかぶり、未来的で冷淡なパフォーマンスを行うことで、テクノロジーと人間の無情な関係を体現していた。このアルバムは、彼らのサウンドがさらに熟成され、80年代のポップシーンにおける一つの象徴とも言えるべき作品となっている。
トラック解説
1. Through Being Cool
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、Devoらしい風刺に満ちた一曲で、社会的なプレッシャーや「クール」であることへの批判が込められている。重厚なシンセと鋭いギターリフが絡み合い、”We’re through being cool”というフレーズが何度も繰り返されることで、現代社会への無関心や疎外感を表現している。
2. Jerkin’ Back ‘n’ Forth
シンセサウンドが特徴的なアップテンポの曲で、繰り返されるフレーズがキャッチーながらも、不条理でコミカルな雰囲気を醸し出している。恋愛や人間関係の表面的なやりとりを皮肉り、その軽薄さと矛盾を暗示している。
3. Pity You
モノトーンなメロディに乗せて「同情」の表面的な意味を掘り下げる。冷ややかなボーカルと控えめなリズムが、個人が抱える孤独感と共感の欠如を示しており、人間関係の機械的な側面を表現している。
4. Soft Things
静かに進行するシンセとリズムが繊細な印象を与えるが、歌詞では物事の「柔らかい面」に対する懐疑や不信感が表現されている。柔らかなもの、弱いものを受け入れない社会の冷酷さが垣間見える一曲である。
5. Going Under
スローで暗い雰囲気を持つこの曲は、自己崩壊や無力感について歌われており、Devoの中でも特に重厚なテーマが扱われている。シンセの冷たい音色が、社会からの疎外感や人間の無力さを強調し、徐々に「沈んでいく」感覚を生み出している。
6. Race of Doom
激しいビートとシンセの旋律が駆け抜けるようなスピード感を生み、社会における無意味な競争の過酷さを象徴している。現代社会の「勝ち組」になるための無駄な競争を冷たく見つめ、機械的に繰り返されるリズムがその無力感を表現する。
7. Love Without Anger
ポップなメロディとユーモアが混じり合った曲で、愛情の中に怒りがない状態を皮肉っている。表面上の愛情だけが存在する関係を描写し、真の感情が存在しない冷えた世界を表しているのがDevoらしい。
8. The Super Thing
低音のリフとリズムがエネルギッシュに展開され、まるで「スーパーヒーロー」のように世界を変える「何か」を待ち望む姿を描いている。しかしその待望はむなしく響き、空虚な期待が現代社会に浸透している様を風刺的に表現している。
9. Beautiful World
New Traditionalistsの中でも特に人気のある一曲で、軽快なシンセポップ調のメロディが、皮肉たっぷりに「美しい世界」について歌っている。映像や広告で繰り返される「美しい」未来像の裏にある虚無感を、Devoは冷ややかに暴露している。サウンドはポップだが、歌詞には暗いメッセージが込められており、聞けば聞くほどその二面性に気づかされる。
10. Enough Said
力強いリズムとボーカルが終末的な印象を与えるアルバムのラストトラック。語り尽くされた、または語る必要がないという意味合いのタイトルが示すように、全体のテーマがここで凝縮され、Devoのメッセージが集約されている。
アルバム総評
New Traditionalistsは、Devoがこれまでに築き上げてきた「脱進化」のテーマをさらに突き詰め、社会の表層的な価値観に鋭いメスを入れている。無機質でメカニカルなシンセサウンドに冷ややかなボーカルが乗り、時にユーモアを交えながらも、一貫して人間の選択や価値観に対する疑問を投げかけている。Freedom of Choiceのポップさは引き継がれつつも、シリアスさと暗さが増し、Devoの哲学がさらに成熟した作品といえる。現代社会に対するDevoの風刺が、1980年代を超えて今でも鋭く響き、リスナーに考えさせられる一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Architecture & Morality by Orchestral Manoeuvres in the Dark
シンセサウンドとポストパンク的な冷たさが融合したアルバム。人間の感情や社会の疎外感を描くアプローチが、New Traditionalistsに共通する。 - Scary Monsters (and Super Creeps) by David Bowie
ボウイのアート・ロック的なアプローチで、現代社会への批判が込められている。Devoと同じく風刺的なテーマと、鋭いビートが共鳴する。 - Songs of Faith and Devotion by Depeche Mode
人間の欲望や弱さをシンセサウンドで描いた一枚。Devoの無機質なアプローチと共通する暗さと、宗教的なテーマが特徴。 - Tin Drum by Japan
エレクトロニカとポストパンクを融合させたサウンドで、Devoと同じく冷ややかな社会観を感じさせる。デジタルなビートが無機質な世界を作り上げている。 - The Golden Age of Wireless by Thomas Dolby
テクノロジーや現代社会への皮肉が込められたニュー・ウェーブ作品。シンセサウンドが未来的で、Devoの冷静な視点と似通っている。
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