- 発売日: 1978年8月28日
- ジャンル: New Wave、パンク・ロック、アート・ロック
DevoのデビューアルバムQ: Are We Not Men? A: We Are Devo!は、1978年にリリースされ、瞬く間に音楽シーンを揺るがした。異質で風変わりなスタイルのDevoは、「脱進化」(de-evolution)という独自の哲学を掲げ、社会や人間の愚かさを皮肉たっぷりに表現するために、シンセサイザーや歪んだギターサウンドを駆使している。このアルバムは彼らのその思想を凝縮したものであり、プロデューサーにはBrian Enoを迎え、鋭いサウンドと実験的なエッジを組み合わせた。時に機械的で冷酷に響くこの作品は、同時代のパンクやロックとは一線を画す。サウンド面ではシンセポップとパンクロックが融合し、機械のようなリズム、歪んだギター、そしてボーカルのモノトーンな抑揚が、リスナーに異様な不快感と同時に強烈な中毒性を生む。
Devoはこのアルバムで、コンピュータが人間の感情を模倣するかのようなパフォーマンスを見せ、冷徹な皮肉や風刺をもって「人間性」を解体する。Q: Are We Not Men?は、社会批評、ユーモア、破壊的なエネルギーが混在し、聴く者に強烈なインパクトを与える一方で、しばしばリズムやメロディに耳を傾けると、奇妙にポップでキャッチーな瞬間もある。これが1970年代末期におけるニュー・ウェーブやアート・ロックの最前線であり、今日でもその鋭さと斬新さは色褪せていない。
トラック解説
1. Uncontrollable Urge
アルバムの幕開けにふさわしい、激しいエネルギーと混沌を感じさせる一曲。リズミカルなギターリフとシンセのメロディが重なり合い、”Yeah yeah yeah yeah yeah”の繰り返しが聴く者の心に残る。自由への欲望と抑圧への反抗心が表現され、直感的で解放的な高揚感をもたらす。
2. (I Can’t Get No) Satisfaction
ローリング・ストーンズの名曲のカバーだが、原曲のロックらしさはなく、むしろ機械的で異様なアプローチが取られている。リズムが崩れたような独特のアレンジとボーカルの無機質な歌い方が、欲望や満足の不可能性をさらに皮肉った形で表現している。
3. Praying Hands
手を合わせる動作を風刺的に描く一曲。祈りや信仰を「形」にしてしまった現代社会への疑問が込められ、リズムが跳ねるような構成が特徴。リズミカルでありながら、繰り返しの多い構造がその無意味さを強調しているようだ。
4. Space Junk
宇宙ゴミというテーマを扱い、人間の無責任さを暗示する曲。テンポの速いギターとリズムに乗せ、詩的な表現で社会問題を暗に示している。宇宙の冷たさと、どこか孤独感を漂わせるシンセが印象的。
5. Mongoloid
シンプルなベースラインとキャッチーなリフが特徴のこの曲は、規範から外れる人々への視点を冷たく表現している。単純でありながらリズムの中毒性があり、言葉のリズムも耳に残る。ミニマルな展開が社会的な「異質さ」への考え方を暗示している。
6. Jocko Homo
アルバムタイトルにも関わる「脱進化」のテーマが直接語られる。ドラムが機械的に進行する中、「Are we not men? We are Devo!」というコールアンドレスポンスが、まるで儀式のように繰り返される。人間の愚かさへの風刺が最も強く表現された曲だ。
7. Too Much Paranoias
不安と恐怖の感情が表現された一曲。シンセサイザーと不協和音が不穏な雰囲気を作り出し、ボーカルの抑揚がさらに混乱を煽る。異常な世界への警告とも取れる暗いメッセージが込められている。
8. Gut Feeling / (Slap Your Mammy)
イントロのギターリフがエモーショナルに心に響き、徐々にテンポが加速する構成が特徴的。感情的な爆発と冷静さが交錯し、エネルギッシュな解放感を生み出している。後半に突然切り替わるパートがユニーク。
9. Come Back Jonee
ノスタルジックな雰囲気の中に、かつてのロックンロールへの皮肉を込めた曲。シンセサイザーとギターが絡み合い、奇妙に懐かしさを感じさせながらも新しい感覚を呼び起こす。
10. Sloppy (I Saw My Baby Gettin’)
不条理でコミカルな内容だが、サウンドは硬質でどこか攻撃的。関係の壊れやすさや人間関係の脆さを冷たく観察する視点が見える。エレクトロニックなリズムが無機質さを際立たせている。
11. Shrivel-Up
エンディングを飾る陰鬱な一曲。タイトルの通り、縮こまっていくような音楽の構成で、人間の終わりや退化を象徴しているかのようだ。淡々としたボーカルが、不気味な終焉を感じさせる。
アルバム総評
Q: Are We Not Men? A: We Are Devo!は、冷徹な批評性と挑戦的な実験精神が見事に融合したアルバムだ。人間の進化ではなく「退化」を強調するDevoの視点は独創的で、当時のパンクやロックの中でも特異な存在感を放っている。シンセサイザーと無機質なボーカル、風刺に富んだ歌詞が組み合わさり、彼ら独自の世界観を作り上げている。本作は、ニュー・ウェーブの可能性を大いに広げ、音楽の新しい境地を切り開いた。
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Brian Enoプロデュースで制作され、デジタルな音とアヴァンギャルドなサウンドが融合したアルバム。Devo同様に社会的なテーマを冷徹に描く一枚。 - Entertainment! by Gang of Four
パンクとファンクを融合させたサウンドで、政治的メッセージを持つ。Devoの風刺性に共鳴するメッセージ性が強い。 - Metal Box by Public Image Ltd.
ジョン・ライドンによるポストパンクの金字塔で、冷たさと攻撃性が際立つ。機械的なリズムがDevoの影響を感じさせる。 - The Pleasure Principle by Gary Numan
シンセポップとロックの融合で、冷たく無機質な音が特徴的。人間性を排除したサウンドがDevoファンにも響くだろう。 - The Man-Machine by Kraftwerk
電子音楽の金字塔で、無機質な音楽と社会批判のテーマがDevoのアルバムと相通じる。機械的なリズムとシンセが際立つ作品。
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