アルバムレビュー:Last Splash by The Breeders

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1993年8月30日

ジャンル:オルタナティヴ・ロック、インディー・ロック、ノイズ・ポップ、グランジ、ポスト・パンク、パワー・ポップ

概要

ザ・ブリーダーズの『Last Splash』は、1993年に発表された通算2作目のスタジオ・アルバムである。ザ・ブリーダーズは、ピクシーズのベーシストとして知られるキム・ディールを中心に結成されたバンドであり、当初はピクシーズでの活動と並行するサイド・プロジェクトとして始まった。1990年のデビュー作『Pod』では、キム・ディール、タニヤ・ドネリー、ジョセフィン・ウィッグス、ブリット・ウォルフォードらによって、ざらついたギター、歪んだポップ感覚、奇妙な空白、女性的な視点が結びついた独特の音楽が提示された。

『Last Splash』は、そのザ・ブリーダーズがサイド・プロジェクトの枠を完全に超え、1990年代オルタナティヴ・ロックを代表する存在となった決定的なアルバムである。ピクシーズ解散後、キム・ディールは双子の姉妹であるケリー・ディールをギターに迎え、ジョセフィン・ウィッグス、ジム・マクファーソンとともに新たな編成で本作を制作した。結果として本作は、ピクシーズ由来の静と動、インディー・ロックの素朴な実験性、グランジ以降のギター・ロックの勢い、そしてキム・ディールならではの脱力したメロディ感覚が一体化した作品となった。

1993年という時代背景は非常に重要である。ニルヴァーナ『Nevermind』の成功以降、アメリカのオルタナティヴ・ロックはメインストリームへ急速に広がっていた。グランジ、インディー・ロック、ノイズ・ポップ、パンク以後のギター・ロックが、商業的にも文化的にも大きな注目を浴びていた時代である。しかし、ザ・ブリーダーズは典型的なグランジ・バンドではない。重い怒りや男性的な自己破壊性を前面に出すのではなく、軽さ、奇妙さ、遊び、断片性、乾いたユーモアを武器にしていた。その点で『Last Splash』は、1990年代オルタナティヴの中でも非常に独自の位置にある。

本作を象徴する楽曲は、何といっても「Cannonball」である。奇妙なベース・ライン、ずれたようなリズム、口笛のような音、突然爆発するギター、そしてキム・ディールの飄々としたヴォーカルによって、この曲は1990年代オルタナティヴ・ロックの代表的なシングルとなった。だが『Last Splash』の魅力は、「Cannonball」一曲に収まらない。「No Aloha」の乾いた哀愁、「Divine Hammer」の美しいポップ性、「Do You Love Me Now?」の傷ついたラヴ・ソング、「Roi」の不穏な反復、「Drivin’ on 9」のカントリー的な余韻など、アルバム全体には幅広い表情がある。

音楽的には、本作はラフでありながら非常に計算されたアルバムである。ギターは歪んでいるが、過剰に重くはない。リズムはシンプルだが、時に奇妙に跳ねる。メロディは親しみやすいが、歌詞や構成には不可解な部分が多い。ザ・ブリーダーズの音楽は、整ったポップ・ソングをあえて少し崩したような感覚を持つ。その崩れ方が、非常に魅力的である。完璧に磨き上げられたロックではなく、少し斜めに置かれた家具のような、違和感のあるポップ性がある。

キム・ディールの存在は、本作の核心である。ピクシーズではフランク・ブラックの強烈なソングライティングとヴォーカルの陰に隠れがちだったが、彼女の声とベース、そして独特のメロディ感覚は、ピクシーズの魅力を支える重要な要素だった。『Last Splash』では、その感覚が完全に中心へ出ている。彼女の声は大きく叫ぶよりも、少し投げやりで、親密で、涼しい。その声が、激しいギターの中でも重くなりすぎず、曲に奇妙な浮遊感を与えている。

歌詞面では、意味が明確に説明される曲ばかりではない。むしろ、断片的なイメージ、言葉遊び、恋愛の痛み、移動、身体感覚、南国的なイメージ、宗教的な言葉、日常的なフレーズが、ゆるくつながっている。これは1990年代インディー・ロックらしい曖昧さでもあるが、キム・ディールの場合、その曖昧さが非常に身体的で、直感的である。歌詞を分析的に読むだけでなく、声の響きや言葉の感触として受け取ることが重要な作品である。

後世への影響も大きい。『Last Splash』は、女性が中心となるオルタナティヴ・ロック・バンドの代表作として、後のインディー・ロック、ノイズ・ポップ、ガレージ・ロック、ローファイ、オルタナティヴ・ポップに大きな影響を与えた。スリーター・キニー、ヴェルーカ・ソルト、エラスティカ、ザ・ドニーズ、さらに2000年代以降のインディー・バンドにも、本作の軽やかで歪んだポップ感覚は受け継がれている。日本のリスナーにとっても、90年代オルタナティヴの「重さ」だけではなく、「遊び」「隙間」「変なポップさ」を理解するうえで重要な一枚である。

全曲レビュー

1. New Year

アルバム冒頭の「New Year」は、静かな始まりから一気にギターが鳴り出す構成によって、『Last Splash』の世界を開く楽曲である。タイトルは「新年」を意味するが、曲全体には明るい祝賀感というより、何かが始まる前の少し不安定な空気がある。新しい年、新しいバンド、新しい段階。その期待とぎこちなさが同時に鳴っている。

音楽的には、ギターの歪みとメロディの親しみやすさが共存している。キム・ディールのヴォーカルは、ロックの冒頭曲にありがちな力強い宣言というより、どこか斜めから入ってくるような自然さを持つ。これがザ・ブリーダーズらしい。力んで始めるのではなく、少し曖昧なまま音が立ち上がる。

歌詞では、新しい時間の始まりや、変化の予感が断片的に示される。はっきりした物語ではないが、曲のタイトルと音の勢いによって、アルバム全体がこれからどこかへ走り出す感覚が生まれる。冒頭曲として、本作のラフな勢いとポップな魅力を端的に示している。

2. Cannonball

「Cannonball」は、『Last Splash』最大の代表曲であり、1990年代オルタナティヴ・ロックを象徴する一曲である。冒頭の奇妙な音、ずれたようなベース・ライン、突然入るギター、脱力したヴォーカルが組み合わさり、非常に個性的なグルーヴを生んでいる。一般的なロック・ヒットの構造とは少し違うが、その違和感こそが強いフックになっている。

タイトルの「Cannonball」は砲弾を意味する。勢いよく飛び出すもの、衝撃を与えるもの、あるいはプールに飛び込むときの大胆な動きも連想させる。曲は実際に、低い場所でうねるベースから突然跳ね上がるように展開する。静と動のコントラスト、音の抜き差し、突然の爆発は、キム・ディールがピクシーズで培った感覚ともつながっている。

歌詞は断片的で、明確なストーリーよりも言葉の響きや身体感覚が重視されている。水、衝撃、移動、欲望、遊びの感覚が混ざり合う。重要なのは、この曲が非常にキャッチーでありながら、どこか奇妙で不安定なことだ。メジャーなオルタナティヴ・ヒットになったにもかかわらず、曲の構造はかなり変則的である。

「Cannonball」は、90年代オルタナティヴが持っていた自由さを象徴している。きれいに整ったロックではなく、少し変で、少し壊れていて、それでも強烈に耳に残る。ザ・ブリーダーズの才能が最も広く伝わった楽曲である。

3. Invisible Man

「Invisible Man」は、タイトル通り「見えない男」を扱う楽曲である。透明人間というモチーフは、存在しているのに認識されないこと、社会や関係の中で不可視化されることを示す。ザ・ブリーダーズの音楽では、こうした孤独や違和感が、重苦しくではなく、淡々としたポップ・ソングとして表現される。

音楽的には、比較的ストレートなインディー・ロックである。ギターの音はざらついているが、曲の輪郭は明確で、メロディも親しみやすい。キム・ディールの声は、感情を大きく盛り上げるよりも、少し距離を置いて歌う。そのため、見えない存在というテーマが過度に悲劇化されず、むしろ日常の中にある違和感として響く。

歌詞では、他者から見えなくなる感覚や、自分の存在が曖昧になる感覚が感じられる。90年代オルタナティヴには疎外感を扱う曲が多いが、この曲はそれを大げさな絶望ではなく、乾いたユーモアとメロディの中に置いている。アルバム序盤で、「Cannonball」の派手な個性の後に、より内向きの表情を見せる曲である。

4. No Aloha

「No Aloha」は、タイトルから南国的な挨拶「アロハ」を否定する言葉が印象的な楽曲である。楽園的なイメージ、歓迎、別れ、愛情を含む「Aloha」に対して、「No」と付けることで、拒絶、喪失、あるいは期待された幸福の不在が示される。『Last Splash』という水や夏を連想させるタイトルとも関連しながら、ここでは南国的な明るさが反転している。

音楽的には、ゆったりしたテンポと乾いたギターが特徴である。大きく爆発する曲ではなく、どこか沈んだ雰囲気を持つ。キム・ディールの歌は低く、落ち着いており、曲全体に諦めに近いムードが漂う。

歌詞では、別れや感情の終わりが示されるように聞こえる。アロハという言葉には「こんにちは」と「さようなら」の両方の意味があるが、「No Aloha」はそのどちらも拒むような曖昧な態度を持つ。関係の始まりも終わりも、うまく言葉にできない。そんな感情が、淡いメロディの中に閉じ込められている。

この曲は、本作の中で重要な陰影を与えている。ザ・ブリーダーズは「Cannonball」のような奇妙で楽しい曲だけでなく、こうした乾いた哀愁を持つ曲でも優れている。

5. Roi

「Roi」は、アルバムの中でも特に不穏で、反復的な楽曲である。タイトルはフランス語で「王」を意味する言葉として読めるが、曲自体は華やかな王権のイメージよりも、暗く重い反復の中に沈んでいく。ザ・ブリーダーズの実験的な側面が強く出た曲である。

音楽的には、低くうねるギターとリズムが中心で、メロディの明快さよりも音の質感が重視されている。曲は大きなサビで開放されるというより、不穏な状態を持続させる。ピクシーズの影響を感じさせる部分もあるが、キム・ディールの感覚によって、より脱力した不気味さになっている。

歌詞は断片的で、意味を一つに固定しにくい。だが、曲全体には支配、重さ、閉塞のような感覚がある。「Roi」は、『Last Splash』が単なるオルタナティヴ・ポップ作品ではなく、ノイズや反復による実験性も含んでいることを示す重要曲である。

6. Do You Love Me Now?

「Do You Love Me Now?」は、本作の中でも特に感情的なラヴ・ソングである。タイトルは「今は私を愛しているのか」という直接的な問いであり、関係の不安、承認への欲求、過去の傷が感じられる。ザ・ブリーダーズの曲の中でも、比較的ストレートに感情が表れている。

音楽的には、ゆっくりとしたテンポと、痛みを含んだメロディが印象的である。ギターは大きく鳴るが、曲全体は派手に爆発するというより、じわじわと感情がにじむ。キム・ディールの声は、甘さと疲労を同時に持っており、問いかけの切実さを過剰に演出せずに伝える。

歌詞では、愛されているのかどうかを確認したい気持ちが中心にある。しかし、その問いは単純なロマンティックなものではない。「今は」という言葉には、過去には愛されていなかったのか、関係が変わったのか、あるいは自分自身が変わったのかという含みがある。愛を求める声の中に、すでに失われたものへの意識がある。

この曲は、『Last Splash』の中で最も胸に残る感情的な瞬間のひとつである。ノイズやユーモアに包まれたアルバムの中で、むき出しに近いラヴ・ソングとして機能している。

7. Flipside

「Flipside」は、短く勢いのある楽曲であり、タイトルはレコードのB面、裏側、別の側面を意味する。ザ・ブリーダーズの音楽そのものが、メインストリームの表側ではなく、裏側からポップを眺めるような性格を持っているため、このタイトルは非常にバンドらしい。

音楽的には、ギター・ロックとしての推進力があり、軽快でコンパクトである。アルバム中盤で、重く内省的だった「Do You Love Me Now?」から一度空気を切り替える役割を持つ。曲の短さもあり、勢いで通り過ぎるような印象を残す。

歌詞は詳しい物語を語るというより、感覚的なフレーズが中心である。B面や裏側というイメージは、90年代インディー・ロックの文化とも深く関係する。大ヒット曲や表舞台だけではなく、隠れた面、少し歪んだ面にこそ魅力がある。この曲はその姿勢を軽く示している。

8. I Just Wanna Get Along

「I Just Wanna Get Along」は、タイトル通り「ただうまくやっていきたい」という願いを歌う楽曲である。非常にシンプルな言葉だが、そこには人間関係の疲労、争いを避けたい気持ち、そしてそれすら難しい現実が含まれている。ザ・ブリーダーズらしい、軽さの中に苦味を含む曲である。

音楽的には、テンポがよく、ギターも明るく鳴る。曲調だけを聴くと、軽快なインディー・ロックに聞こえるが、タイトルの言葉にはどこか疲れがある。キム・ディールのヴォーカルは、感情を強く押し出さず、まるで日常の一言のように歌う。その自然さが曲の魅力になっている。

歌詞では、他者と衝突せずにやっていくことの難しさが感じられる。これは恋愛にも、バンドにも、友人関係にも当てはまる。90年代オルタナティヴの多くが怒りや疎外を強く表現したのに対し、ザ・ブリーダーズは「ただうまくやっていきたい」という小さな願いを、非常に効果的なポップ・ソングにしている。

9. Mad Lucas

「Mad Lucas」は、アルバムの中でも異色の曲であり、タイトルからして奇妙な人物像を想起させる。「狂ったルーカス」という名前は、童話的でもあり、ゴシック的でもあり、どこか不気味である。ザ・ブリーダーズの作品には、こうした短編的な人物イメージがしばしば現れる。

音楽的には、ゆったりとしていて、少し夢の中のような雰囲気がある。ギターやヴォーカルの響きには淡い不安があり、曲は明確なロックの勢いよりも、奇妙なムードを重視している。アルバムの中で、現実感が少し揺らぐような位置にある。

歌詞では、ルーカスという人物をめぐる断片的なイメージが示される。彼が誰なのかは明確に説明されないが、その曖昧さが重要である。ザ・ブリーダーズは、説明しすぎないことで、曲に余白と不気味さを残す。「Mad Lucas」は、本作の実験的で夢幻的な側面を担う楽曲である。

10. Divine Hammer

「Divine Hammer」は、『Last Splash』の中でも特に美しいポップ・ソングである。タイトルは「神聖なハンマー」と訳せる奇妙な言葉で、宗教的な響きと物理的な打撃のイメージが結びついている。だが、曲自体は非常にメロディアスで、明るく、甘い感触を持つ。

音楽的には、シンプルなコード進行と親しみやすいメロディが中心である。ギターはほどよく歪み、リズムは軽快で、キム・ディールの声が曲に柔らかさを与えている。本作の中でも最もパワー・ポップ的な魅力が強い曲であり、ザ・ブリーダーズが美しいメロディを書く力を持っていたことを示している。

歌詞では、何かを求める気持ち、信じるもの、あるいは自分を打ち砕きながら救う力のようなものが暗示される。「神聖なハンマー」という言葉は、救済と破壊を同時に含む。明るい曲調の中に、少し奇妙な宗教的・身体的イメージが混ざっている点が、ザ・ブリーダーズらしい。

この曲は、アルバム全体の中で非常に重要なポップな山場である。変則的な曲や不穏な曲が多い中で、まっすぐなメロディの強さが際立つ。

11. S.O.S.

「S.O.S.」は、短いインストゥルメンタル的な楽曲であり、アルバムの流れをつなぐ役割を持つ。タイトルは救難信号を意味し、危機、呼びかけ、孤立を連想させる。短いながらも、アルバム全体に漂う不安定さを補強する曲である。

音楽的には、リズムとギターの反復が中心で、言葉よりも音の質感が前面に出ている。ザ・ブリーダーズは、通常のロック・アルバムの曲構成にとらわれず、こうした小品を配置することで作品に歪みや余白を作っている。

「S.O.S.」は、単体で大きく語られる曲ではないが、『Last Splash』のアルバムとしての面白さを支える重要な要素である。ポップな曲の間にこうした短い断片が入ることで、作品全体が整いすぎず、インディー・ロックらしい自由さを保っている。

12. Hag

「Hag」は、タイトルからして不気味な響きを持つ楽曲である。「Hag」は老女、魔女、醜い女といった意味を持ち、民話やゴシック的なイメージを呼び起こす。ザ・ブリーダーズは、女性をめぐる言葉やイメージをしばしば奇妙に反転させるが、この曲もその一例である。

音楽的には、ざらついたギターとやや重いムードがあり、アルバム後半に暗い色を加えている。キム・ディールの声は感情を大きく爆発させないが、その抑えた響きによって、曲の不穏さが増している。

歌詞では、魔女的なイメージや女性性への社会的な視線が暗示される。醜い、老いた、恐ろしいとされる女性像は、伝統的な文化の中でしばしば排除や恐怖の対象にされてきた。ザ・ブリーダーズはその言葉をポップ・ソングの中に置くことで、軽く、しかし鋭くそのイメージを揺さぶっている。

13. Saints

「Saints」は、アルバム後半の中でも特に開放的で、ライブ感のある楽曲である。タイトルは「聖人たち」を意味するが、曲調は宗教的な厳粛さよりも、夏のフェスティバルや遊園地のような空気を持っている。ザ・ブリーダーズらしい、聖なる言葉と俗っぽい楽しさの混在がある。

音楽的には、ギターの勢いと軽快なリズムが印象的である。サビは開けており、アルバム後半に明るいエネルギーを与える。キム・ディールの声は、少し投げやりでありながら、楽しげでもある。このバランスが非常に魅力的である。

歌詞では、夏、祭り、聖人、移動、日常の断片が混ざり合う。聖人という言葉は高尚だが、曲の中ではもっと身近で、少し騒がしいイメージとして扱われる。ザ・ブリーダーズの音楽には、こうした高低の混合が多い。神聖なものとくだらないもの、美しいものと雑なものが同じ場所に置かれる。

「Saints」は、本作の中でも特に90年代インディー・ロックらしい開放感を持つ曲であり、アルバム後半の重要なハイライトである。

14. Drivin’ on 9

「Drivin’ on 9」は、エドズ・リディームングのカヴァーであり、本作の中でもカントリー/フォーク的な味わいが強い楽曲である。ギター・ノイズやオルタナティヴ・ロックの感触が多いアルバムの中で、この曲は異なる風景を見せる。タイトル通り、道を走る感覚があり、アルバム終盤に静かなロード・ソング的な余韻を与える。

音楽的には、フィドルの響きや素朴なメロディが印象的で、アメリカーナ的な空気が漂う。ザ・ブリーダーズが単なるノイズ・ポップ・バンドではなく、ルーツ音楽的な要素も柔軟に取り込めることが分かる。演奏は過度に整っておらず、その少し粗い感触が曲の魅力になっている。

歌詞では、車で移動すること、別れ、過去から離れていく感覚が描かれる。90年代オルタナティヴの中で、ロード・ソングはしばしば逃避や自由の象徴だったが、この曲にはそれに加えて寂しさがある。明るい解放ではなく、静かに走り続けることの切なさが伝わる。

アルバム終盤にこの曲が置かれることで、『Last Splash』は水や夏のイメージから、アメリカの道へと風景を変える。非常に味わい深い配置である。

15. Roi (Reprise)

アルバム最後の「Roi (Reprise)」は、前半に登場した「Roi」を再び変形して提示する終曲である。リプライズという形式によって、アルバム全体に円環的な構造が生まれる。ただし、ここでのリプライズは大団円ではなく、むしろ不穏な余韻を残す。

音楽的には、荒く、歪んだ音が中心で、アルバムをきれいに閉じるのではなく、少し壊れた状態で終わらせる。ザ・ブリーダーズは、ポップな曲を多く持ちながらも、最後に整った結論を与えるタイプのバンドではない。音が崩れ、余白が残り、聴き手は少し宙吊りにされる。

この終わり方は、『Last Splash』というアルバムにふさわしい。水しぶきのように始まり、跳ね、歪み、笑い、傷つき、最後には完全には回収されないノイズが残る。ザ・ブリーダーズの美学を象徴する終曲である。

総評

『Last Splash』は、ザ・ブリーダーズの代表作であり、1990年代オルタナティヴ・ロックを語るうえで欠かせないアルバムである。ピクシーズのキム・ディールによるサイド・プロジェクトとして始まったバンドが、この作品によって独自の存在感を完全に確立した。特に「Cannonball」の成功は、ザ・ブリーダーズを一気に広いリスナーへ届けたが、アルバム全体はその一曲だけでは説明できない多様な魅力を持っている。

本作の最大の特徴は、ラフさとポップ性の絶妙なバランスである。ギターは歪み、演奏は時に粗く、曲構成も変則的である。しかし、その中には強いメロディと独特のフックがある。「Divine Hammer」や「Do You Love Me Now?」のような曲は、非常に美しいポップ・ソングとして成立している。一方で、「Roi」「Mad Lucas」「S.O.S.」「Roi (Reprise)」のような曲は、アルバムに実験性と不穏さを与えている。この両方があるからこそ、『Last Splash』は単なるヒット作ではなく、長く聴かれる作品になっている。

キム・ディールの声とソングライティングは、本作の核心である。彼女の声は、90年代ロックに多かった激情的な叫びとは異なる。少し眠たげで、親密で、投げやりで、しかし非常に印象に残る。その声が、アルバム全体に独特の温度を与えている。怒りや痛みを叫ぶのではなく、軽く投げる。その軽さが、かえって深い感情を生む。

また、本作は女性中心のオルタナティヴ・ロック作品としても重要である。1990年代には、PJハーヴェイ、リズ・フェア、ビキニ・キル、ホール、ベリー、エラスティカなど、女性アーティストがロックの言語を大きく変えていた。ザ・ブリーダーズはその中でも、怒りや告白性を前面に押し出すというより、奇妙なポップ感覚、脱力、断片性、音の遊びによって独自の場所を作った。女性がロックの中で「強く叫ぶ」だけではなく、「変で、軽く、歪んで、自由である」ことも可能だと示した点で、本作は重要である。

音楽的には、ピクシーズから受け継いだ静と動の構造が随所に見られるが、『Last Splash』はピクシーズの延長にとどまらない。ピクシーズが緊張感と暴力的な爆発を強く持っていたのに対し、ザ・ブリーダーズはよりゆるく、隙間があり、遊びがある。音の間に空気があり、曲はきっちりと閉じすぎない。その余白が、アルバム全体に独自の魅力を与えている。

歌詞の曖昧さも、本作の魅力である。多くの曲は、明確な物語やメッセージを提示しない。断片的な言葉、意味のずれ、音としてのフレーズが中心になる。しかし、それによって曲が空虚になるわけではない。むしろ、聴き手は言葉の意味を追うより、声の質感やメロディ、音の動きの中に感情を見つけることになる。『Last Splash』は、説明より感触を重視するアルバムである。

本作が1993年に発表されたことも重要である。オルタナティヴ・ロックがメインストリーム化する中で、多くのバンドがより大きな音、より強いメッセージ、より劇的な感情表現へ向かっていた。ザ・ブリーダーズは、その流れの中で、むしろ少し斜めに立っていた。巨大なロック・スター性ではなく、インディー的な変さを保ったまま広く届いた。この点で『Last Splash』は、90年代オルタナティヴの理想的な瞬間を捉えている。

日本のリスナーにとって本作は、90年代USオルタナティヴの重要な入口となる一枚である。ニルヴァーナやスマッシング・パンプキンズのような重さとは異なり、ザ・ブリーダーズには軽さと奇妙さがある。しかし、その軽さは決して浅さではない。むしろ、深刻になりすぎずに歪みや痛みを表現する力がある。ポップで、ノイジーで、変で、かわいく、少し不気味である。その複雑な魅力が、本作を今なお新鮮にしている。

総じて『Last Splash』は、1990年代オルタナティヴ・ロックの名盤であり、ザ・ブリーダーズの個性が最も鮮やかに結実した作品である。大ヒット曲「Cannonball」を含みながら、アルバム全体はヒット狙いの作品ではなく、実験性とポップ性が自然に共存している。歪んだギター、脱力した声、奇妙な言葉、短い断片、美しいメロディが、水しぶきのように飛び散る。『Last Splash』は、90年代の自由で不完全なロックの魅力を凝縮した一枚である。

おすすめアルバム

1. The Breeders『Pod』(1990年)

ザ・ブリーダーズのデビュー作であり、スティーヴ・アルビニの録音による生々しく不穏な音像が特徴である。『Last Splash』よりも暗く、ざらついており、ノイズと空白の感覚が強い。キム・ディールのソングライティングが、より実験的な形で表れた重要作である。

2. Pixies『Doolittle』(1989年)

キム・ディールが参加したピクシーズの代表作であり、静と動、歪んだポップ性、シュールな歌詞が高い水準で結びついている。『Last Splash』の背景にあるオルタナティヴ・ロックの語法を理解するうえで欠かせない。キムの声とベースの存在感も重要である。

3. Belly『Star』(1993年)

元ブリーダーズのタニヤ・ドネリーによるバンド、ベリーのデビュー作である。夢幻的なメロディ、ギター・ポップ、90年代オルタナティヴの空気が強く表れている。『Last Splash』と同時代の女性中心オルタナティヴ・ロック作品として関連性が高い。

4. Veruca Salt『American Thighs』(1994年)

女性ツイン・ヴォーカルと歪んだギターを中心にした90年代オルタナティヴ・ロック作品である。ザ・ブリーダーズの持つポップさとノイズの融合を、よりグランジ/パワー・ポップ寄りに展開したアルバムとして聴ける。

5. Liz Phair『Exile in Guyville』(1993年)

1993年のインディー・ロックを代表する重要作であり、ローファイなギター・サウンド、女性視点の歌詞、鋭い自己表現が特徴である。ザ・ブリーダーズとは作風は異なるが、同時代の女性アーティストがオルタナティヴ・ロックの言語を変えていった流れを理解するうえで重要である。

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