Water by Tyla(2023)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

南アフリカ出身のシンガーTylaによる「Water」は、2023年にリリースされ、一躍世界中のチャートを席巻したバイラル・ヒット曲である。この楽曲は、彼女の国際的ブレイクを決定づけるとともに、アフロビーツとR&Bを融合させた独自のサウンドで世界中のリスナーを魅了した。特にTikTokなどのSNS上でのダンスチャレンジを通じて爆発的に拡散し、若い世代を中心にアイコニックな存在となった。

歌詞は、一見シンプルな恋愛を描いているようでありながら、強い官能性と女性の欲望・自己主張が前面に押し出されているのが特徴である。タイトルの「Water(水)」は、身体的快楽や感情の高まりを象徴的に表しており、比喩的なレイヤーを含みながら、直接的な肉体的欲求と快感を女性の視点から肯定的に描いている。

繊細かつ大胆なこのアプローチは、同時代の女性R&Bアーティストたちとも共鳴しつつも、Tyla特有の南アフリカ的リズム感とミニマルなサウンドによって差別化されている。恋愛の主導権を握る女性像が前面に出ており、その点で非常に現代的なラブソングである。

2. 歌詞のバックグラウンド

Tylaは南アフリカ・ヨハネスブルグ出身のアーティストで、TikTokなどのSNSプラットフォームを通じて急速に注目を集めた。彼女の音楽はアフロビーツ、ポップ、R&Bの要素を融合させたものであり、そのスタイルはしばしば「popiano(pop + amapiano)」とも呼ばれている。「Water」はその音楽的特徴が凝縮された一曲であり、2023年に世界的なヒットを記録した。

プロデューサーにはSamson、Klaer、そしてTravis Worldらが名を連ね、楽曲はアマピアノに由来する跳ねるようなビートとミニマルなトラックをベースに構成されている。リズムに重心を置いたそのプロダクションは、聴く者の身体性に直接訴えかけるような感覚を持ち、そこにTylaの息を吹きかけるようなソフトなボーカルが重なることで、官能的でドリーミーな世界観が形成されている。

Tyla自身も「Water」は女性の性と欲望を恥じることなく表現する楽曲だと語っており、「自分の身体を愛すること」「快感を求めること」は女性にとって自然なことだというメッセージを内包している。そうした意識の高さが、現代的なフェミニズム的視点と音楽的快楽を両立させた新しいタイプのポップソングを成立させている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、印象的な一節を抜粋し、日本語訳を併記する。

Make me sweat, make me hotter
私を汗ばんで、もっと熱くさせて
Make me lose my breath, make me water
息もできないくらいにして、私を“濡らして”

I don’t wanna waste no time
時間なんて無駄にしたくないの
I just want you all night
ただ、あなたを一晩中欲しいだけ

Can you make me sweat?
私を汗ばませてくれる?
Can you make me wetter?
もっと“濡らして”くれる?

出典:Genius – Tyla “Water”

4. 歌詞の考察

「Water」の最大の魅力は、恋愛や性を語るときにしばしば存在する“男性の視点”を徹底的に排除し、女性の欲望そのものにフォーカスしている点にある。Tylaは、女性が自分の快感を追求し、それを堂々と表現することは決して恥ずかしいことではないというメッセージを、繊細かつ挑発的な言葉で伝えている。

たとえば「Make me sweat, make me hotter」というフレーズは、明らかに身体的な親密さを求める言葉であるが、そこには「自分の欲望を自分でコントロールする」という能動性が含まれている。「濡らす」という表現も、性的な隠喩であることは明白だが、歌詞全体から漂うのは羞恥ではなく、誇りと自信である。

このような自己主張の強さは、近年のR&Bやポップミュージックの中でも特に重要な潮流のひとつであり、SZAやSummer Walker、Jhené Aikoといったアーティストとも呼応している。Tylaの場合、それに加えて南アフリカ的リズム=アマピアノのエッセンスが含まれていることにより、より身体的・ダンサブルな魅力が加わっている。

結果として「Water」は、単なるセクシーなポップソングではなく、「女性のセクシュアリティの自由な表現」という重要なテーマを持つ、極めて現代的なアンセムへと昇華されている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Calm Down by Rema & Selena Gomez
    アフロビーツをベースにしたグローバルヒット。心地よいリズムとロマンチックな世界観が魅力。

  • Essence by Wizkid ft. Tems
    官能性と洗練されたサウンドが共存するアフロR&Bの名曲。女性視点の欲望が美しく描かれている。
  • On It by Jazmine Sullivan
    セクシュアリティを大胆に語るR&Bソング。歌詞と歌声が強烈なリアルさを持って響く。

  • Body by Megan Thee Stallion
    女性の身体を讃えるパワフルなメッセージが込められた一曲。能動的な女性像が共通点。
  • Snooze by SZA
    甘く切ない恋心と官能が共存するR&Bバラード。繊細でありながら芯のある表現が魅力。

6. グローバルポップ時代のアフリカ発ヒロインの誕生

「Water」は、Tylaがアフリカ出身のアーティストとしてグローバルに受け入れられる存在となった象徴的な楽曲であり、現代ポップミュージックにおける多様性と境界の解体を象徴する作品でもある。アマピアノというローカルなサウンドをベースにしながら、英語詞で世界中のリスナーに届く内容を描き、SNSで拡散され、グローバルチャートを席巻する——その過程すべてが今の音楽業界の新しい構造を映し出している。

また、Tylaはそのヴィジュアルとスタイル、パフォーマンスでも注目を集めており、ファッションアイコンとしても支持を広げている。彼女の表現する“女性らしさ”は、受動的ではなく、堂々としていて、決して媚びない。そのスタンスが、特にZ世代の女性リスナーから高い共感を得ている。

「Water」は、性的表現を含むにもかかわらず、いや、それゆえに、女性の自己決定権と尊厳を音楽で体現した一曲である。そしてそれは、南アフリカから世界へ向けて発信された、新たなポップスターの誕生を告げる“水しぶき”のようなものだった。彼女の登場は、単なるバズを超えたカルチャーの転換点である。

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