1. 歌詞の概要
「Throwing Things」は、Superchunkが1991年にリリースしたセカンド・アルバム『No Pocky for Kitty』に収録された楽曲であり、バンドの初期衝動を象徴するナンバーのひとつである。この曲では、心の中で抑えきれなくなった感情が“物を投げる”という行為で爆発する様子が描かれており、そのストレートな怒りと混乱は、多くの若者にとって普遍的なフラストレーションのメタファーとして響く。
歌詞は非常にシンプルで、主人公が自分の感情を抑えきれず、怒りにまかせて“物を投げてしまう”ことを繰り返す。その行為自体は決して理性的とは言えないが、それによってのみ一瞬でも感情を解放できるという現実が、曲全体にダイレクトに刻み込まれている。これは、自制心と爆発とのあいだで揺れる心のリアルな描写であり、Superchunkの持つ“理性よりも本能”というパンク的精神の象徴でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
『No Pocky for Kitty』は、Superchunkが1990年代初頭のインディー・ロック・シーンにおいてその名を知らしめた重要作であり、スティーヴ・アルビニが録音を担当したことで知られる。生々しく、削ぎ落とされたサウンドは、バンドの“ライヴ感”と“エネルギー”をそのまま真空パックしたような質感を持っており、「Throwing Things」もその例に漏れない。
この曲は、恋人との関係のもつれ、もしくは自己不全感によって生じる爆発的な感情を題材にしており、その背景には当時の若者文化──特に“感情を表現する手段が限られていた世代”の内面性が映し出されている。Superchunkのソングライティングはこの時期、シンプルな言葉の中に鋭い心理描写を織り交ぜることに長けており、本曲もまさにその真骨頂と言えるだろう。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Throwing Things
You make me want to throw things out the window
君のせいで 窓の外に物を投げたくなる
You make me want to shout
君のせいで 叫び出したくなる
And every time you’re near me / I get stupid
君がそばにいると 頭が真っ白になるんだ
I’m throwing things / And I don’t know why
物を投げてるんだ でも理由は分からないんだよ
言葉の背後にあるのは、理解も説明もできない“感情の圧力”そのものだ。
4. 歌詞の考察
「Throwing Things」は、まさに“感情の反射”をテーマとした楽曲であり、言葉でうまく処理できない怒りや戸惑いを、“行動”という衝動的な手段で発散する主人公の姿が描かれている。ここで描かれる“物を投げる”という行為は、破壊衝動そのものでありながら、同時に“助けてほしい”という無言の叫びにも見える。
「I’m throwing things / And I don’t know why」というラインは、感情をコントロールできない人間の脆さをそのまま提示しており、リスナーの多くが共感できる“人間的な失敗”の瞬間を象徴している。Superchunkはこうした失敗や弱さを美化せず、かといって否定もせず、そのまま音楽に昇華することに長けたバンドであり、この曲でもその手腕が発揮されている。
リスナーはこの曲に、自分の“言葉にならない衝動”を重ね合わせることができる。そして、それが音楽としてアウトプットされることで、少しだけ“許された気持ち”になれるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Bastards of Young by The Replacements
若者の無力感と爆発するエネルギーを描いた80年代パンクロックの傑作。 - Surrender by Cheap Trick
家庭と世代の断絶をテーマにしながら、明るさと皮肉を併せ持つ一曲。 - Alec Eiffel by Pixies
混乱と知性、そしてポップさの間で揺れる感情を表現した90年代インディーロックの名作。 -
Slack Motherfucker by Superchunk
「Throwing Things」と同じアルバムに通じる、怒りの方向性が明確に表れたバンドの代表曲。 -
I’m Not Okay (I Promise) by My Chemical Romance
エモーショナルな爆発と無力感を鮮やかに描いた現代的エモの名曲。
6. 感情の“無処理性”を肯定するロック
「Throwing Things」は、Superchunkが描く“感情の不器用さ”を最も素直に表現した楽曲のひとつである。そこには、誰しもが人生のどこかで感じたことのある“わけもなく苛立つ気持ち”や“言葉にできない動揺”が、過剰でもなく、誇張もなく、そのままの形で存在している。
この曲を聴くと、自分の中にある衝動や未整理の感情も“悪いものじゃない”と思わせてくれる。そして、そんな感情を持つ自分も、ちょっとは許せるようになる──そんな効能を持った、まさに感情解放のインディー・アンセムである。
Alright by Supergrass(1995)楽曲解説
1. 歌詞の概要
「Alright」は、イギリスのロックバンドSupergrassが1995年に発表したデビュー・アルバム『I Should Coco』に収録された代表曲であり、ブリットポップ時代を象徴する“青春の賛歌”として知られている。「We are young / We run green / Keep our teeth nice and clean」という冒頭の歌詞に象徴されるように、この楽曲は10代後半から20代前半の“自由で奔放な若さ”を祝福する内容となっている。
歌詞に描かれるのは、社会的な責任から解放された若者たちの姿──学校を出たばかりで、まだ現実の重さを知らず、ただただ“楽しいことをしたい”“仲間と過ごしたい”“大人になるのはまだ先でいい”という純粋な衝動。そこには皮肉も葛藤もなく、ただ全力で“今この瞬間”を肯定するエネルギーがみなぎっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Alright」は、Supergrassが平均年齢20歳という若さでリリースしたデビュー作の中でも特にヒットした楽曲であり、当初は映画『Clueless(クルーレス)』のサウンドトラックにも使用されたことで、イギリスだけでなくアメリカの若者にも広く知られることとなった。メンバーのガズ・クームスはこの曲について「子どものころの感覚をそのままロックンロールにした」と語っており、シニカルさのないナイーブなパワーが逆に鮮烈な印象を残す。
当時のイギリスではBlurやOasisを筆頭にブリットポップ・ムーヴメントが全盛を迎えており、「Alright」はその中でも最も“ポジティブな青春”をストレートに表現した楽曲として異彩を放った。今やこの曲は“90年代青春アンセム”の代名詞として、テレビCMや映画などで何度も起用される定番曲となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Alright
We are young, we run green
俺たちは若い 無邪気に駆け回る
Keep our teeth nice and clean
歯をちゃんと磨いて 清潔にして
See our friends, see the sights / Feel alright
友達に会って 街をぶらついて 最高の気分さ
We are free, we do as we please
俺たちは自由だ 好きなように生きてる
We don’t care what they say
誰が何を言おうが気にしない
このように、歌詞のすべてが“肯定”と“楽観”に満ちており、それがかえって心に響く。
4. 歌詞の考察
「Alright」は、一見すると単なる“明るい青春ソング”のように思えるが、その無邪気さの中にはむしろ“無知であることの強さ”や“過去を背負わずに生きられる瞬間”の尊さがある。現実をまだ知らないからこそ、自信たっぷりに「自由だ」と言える。その瞬間にしか存在しない“誤解された自由”が、この曲では永遠の価値として称えられている。
また、“歯を磨く”といった日常的な行動や、“友達に会う”といった些細なことが、若者にとっては特別な喜びであるという視点もユニークであり、Supergrassの感性の若さと誠実さを象徴している。ブリットポップの文脈において、この曲が異例なのは、階級意識や社会への批評といった要素をあえて排除し、ただ“今が楽しい”という感情だけで突き抜けている点だ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Parklife by Blur
イギリスの日常と若者文化をユーモラスに描いたブリットポップの金字塔。 -
Song 2 by Blur
シンプルな爆発力と青春の衝動を描いた、短くも鮮烈なロックナンバー。 -
There She Goes by The La’s
若さと恋心の軽やかさを歌った、イギリスギターポップの名曲。 -
She’s Electric by Oasis
人間味あふれる女性との関係を、軽快に描いたOasisのポップ寄りの楽曲。 -
Alright by Jamiroquai(別曲)
同名の別曲だが、1990年代の楽観主義をグルーヴィーに表現したダンスチューン。
6. “若さの肯定”という時代の特権
「Alright」は、1990年代のブリットポップ・ムーブメントにおける“希望と若さの結晶”であり、それまでのロックにあった悲しみや怒りを一切持ち込まない“純粋な陽性”の象徴だった。それはまさに、青春という一瞬の煌めき──何も知らないからこそ、すべてが可能に見えるあの感覚──を音にしたものである。
そして今なお、この曲を聴くことで私たちは、あの自由で、理由もなく笑っていた時代の空気を一瞬だけ取り戻すことができる。そういう意味で「Alright」は、決して古びない“時間旅行のテーマソング”なのだ。
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