Reflections on the Screen by Superorganism(2018)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Reflections on the Screen」は、Superorganismのセルフタイトル・デビュー・アルバム『Superorganism』(2018年)に収録された楽曲であり、現代のデジタル時代における人間関係と感情のあり方を静かに、そして鋭く描いた作品である。タイトルにある“screen(スクリーン)”は、スマートフォンやコンピューターの画面を指し、それを介して他者とつながる現代人の姿を象徴している。

歌詞は一貫して「君の顔はもうずっとスクリーンに映ってるだけ」「でもそれでも、私は見続けてしまう」という、現代の“非対面的な親密さ”を描く。直接触れ合うことのない関係性、物理的距離のある人への愛情や関心、そしてそれがもたらす虚しさと焦がれるような感情が、非常に繊細に描写されている。

この曲は、リモートな恋愛、SNS上でのつながり、画面越しの自己投影といったテーマを、優しくも切ないメロディに乗せて伝えてくる。“画面に映った自分や相手”に感情を注ぎながら、どこかでその虚構性に気づいている──そんな矛盾が、美しく表現されている。

2. 歌詞のバックグラウンド

Superorganismは、物理的距離を超えてインターネット上で集まった多国籍メンバーによって構成されたバンドであり、その成り立ち自体が“スクリーン越しの創作”を象徴している。ボーカルのOrono Noguchiは、当時高校生でアメリカに住んでおり、他のメンバーとは実際に会うことなく音楽制作をスタートさせた。

この「Reflections on the Screen」も、そうした彼らの活動背景をそのまま楽曲に反映させた作品であり、実体験に根ざした“画面越しのつながり”の哀しさと希望の両方が込められている。

また、この曲はアルバムの中でも特に内省的かつ穏やかなトーンを持っており、奇抜さやサンプリングに溢れた他の楽曲とは異なる“静けさ”が印象的である。その静けさの中で、Oronoの無機質で淡々としたヴォーカルが、“感情の不在”と“感情の過剰”という矛盾を浮き彫りにしていく。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Reflections on the Screen

All I see is reflections of me on the screen
私が見るのは スクリーンに映った私自身の反射ばかり

And I can’t get to sleep at night
夜になると眠れなくなるの

I just watch the fireflies fly
ただホタルのように瞬く画面を眺めてる

All I need is your face in front of me
必要なのは あなたの顔が目の前にあることだけ

But all I see is reflections of me
でも見えるのは 自分自身の反射だけ

ここでは、画面の中で他者を見つめながら、そこに映り込む自分自身の姿に意識が戻されてしまうという、現代人特有の“感情の孤立”が描かれている。

4. 歌詞の考察

「Reflections on the Screen」は、現代の人間関係──とりわけデジタルを介したつながりが、いかに切実で、いかに虚構的であるかを示す詩的な作品である。主人公は誰かを求めて画面を見つめるが、そこにあるのは“自分の反射”であり、その瞬間に気づいてしまう。──「私は、私自身を見ているだけなんだ」と。

この構造は、SNSやビデオ通話、インスタグラムのストーリーズといった現代的な“観察される自己”や“編集された自己像”にも通じており、私たちが他者との関係を築こうとする中で、常に“自分がどう見えているか”という視点から逃れられないことを示している。

また、「fireflies(ホタル)」という言葉の使い方も巧妙である。ホタルの淡い光は、美しくも儚く、永続しない。スクリーンに映る誰かの顔、交わされる短いメッセージ、それらが一瞬の幻想にすぎないことを、さりげなく示唆している。

Oronoの歌声は感情を抑えたように聞こえるが、だからこそ、その裏にある“届かない想い”や“もどかしさ”がより深く響いてくる。まさに、現代的なラヴソングのひとつの到達点と言えるだろう。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Realiti by Grimes
    現実と幻想、画面の中と外との境界をサウンドで描いたエレクトロポップ。

  • Videotape by Radiohead
    メディアや記憶をテーマにした、極めて内省的なピアノ・バラード。

  • Delete Forever by Grimes
    現代社会の孤独と自己投影を静かなメロディに込めた楽曲。

  • Motion Picture Soundtrack by Radiohead
    映画のように編集された自己像と、その向こう側の孤独。

  • Your Best American Girl by Mitski
    理想化された自己と現実の自己のズレをテーマにした、痛烈なポップソング。

6. “つながりの幻”を見つめる静かなまなざし

「Reflections on the Screen」は、インターネット越しに誰かを想う──そんな現代の“遠距離の親密さ”を静かに見つめた楽曲である。それは新しい形のラブソングであると同時に、“見えているのに触れられない関係性”への哀しみを表現した作品でもある。

誰かの顔を見たいと思って画面を開く。でもそこにあるのは、自分自身の反射。言葉は交わせるけれど、匂いも体温も届かない──そんなジレンマが、この曲全体ににじんでいる。

Superorganismは、この曲で「孤独」という感情を声高に叫ぶのではなく、あくまで淡く、静かに描く。だからこそ、その痛みはより深く、長く心に残る。「Reflections on the Screen」は、テクノロジーが進化した現代だからこそ生まれた、やさしく、せつない名曲である。そして私たちは今日もまた、スクリーンの向こうに誰かの気配を求めて、無言で光を見るのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました