
楽曲の概要
「High Road」は、ニューヨークを拠点とするインディーポップ・デュオ、Cultsが2013年に発表した楽曲で、同年10月発売のセカンド・アルバム『Static』に収録されている。Madeline FollinとBrian Oblivionが作詞・作曲を担当し、CultsとShane Stonebackがプロデュースした。2011年のセルフタイトル・デビュー作で注目された彼らにとって、初期の1960年代ポップへの強い憧れを残しながら、より暗く重量感のある音へ進んだ時期の代表的な一曲である。
「High Road」は約4分半とCultsの楽曲としては比較的ゆったり展開し、甘いメロディと陰ったアレンジを組み合わせている。Madelineの高く柔らかな声は初期から変わらないが、その周囲を包む音は以前より厚い。ストリングス、低音の強いリズム、ざらついたギターや鍵盤が重なり、単純なレトロポップではなく、過去のポップスを現代的なスタジオ処理で歪ませたような感触を作っている。Stereogumが発表時に「dark-but-sweet」と評したように、甘さと不穏さが同じ場所にあることが、この曲を端的に表している。
歌詞の概要
タイトルの「high road」は英語で、対立や困難な状況に直面したとき、安易な報復や感情的な行動を避けて「より立派な道を選ぶ」という意味でも使われる。しかし、この曲の語り手が振り返っているのは、その道を選べなかった状況である。自分はもっと賢明に行動できたはずなのに別の道を進んでしまい、いまでは元の場所へ戻ることさえ難しくなっている。その後悔が、タイトルの言葉を中心に繰り返される。
歌詞には、誰かに見られているような感覚、離れていく相手、帰る場所への意識などが断片的に現れ、出来事の全貌は明確には説明されない。重要なのは、語り手が「間違った選択をした」という認識を抱えながら、その結果から簡単には抜け出せないことである。「高い道」と「長い道」という対照的なイメージによって、一度の判断がその後の時間を長く引き延ばしてしまった感覚が表現されている。
『Static』制作期にはFollinとOblivionが恋愛関係を終えていたため、こうした言葉を二人の実体験と結びつけて読むことはできる。ただし、二人自身はアルバム全体を単純な「別れのアルバム」とする見方には距離を置いていた。したがって「High Road」も特定の出来事の告白と断定するより、関係が変化した後で過去の判断を振り返り、戻れない時間を意識する歌として読むほうが自然である。
制作背景・時代背景
Cultsは2011年のデビュー・アルバム『Cults』で、1950〜60年代のガール・グループやポップ/ソウルを思わせるメロディと、ローファイで霞んだ録音を組み合わせて注目された。「Go Outside」などでは、古いレコードから聞こえてくるような音色と現代のインディーポップが同居していた。ところが『Static』では、その基本的な美学を維持しながら、Brian Oblivionが若い頃に親しんだPixiesなどの1990年代ギターロックからの影響も前面に出し、より歪みが強く、緊張感のある作品を目指したと説明している。
二人はデビュー作の後に長期間ツアーを続け、その過程で恋愛関係を解消した。活動自体は継続し、『Static』はニューヨークのスタジオを中心に制作された。Oblivionによれば、別れは制作内容そのものより仕事の進め方に影響し、むしろ二人が別々の生活を持つことで音楽上の関係を整理しやすくなったという。録音ではShane Stonebackが重要な協力者となり、最終段階ではBen H. Allen IIIもミックスなどに参加した。
『Static』では、デビュー作のノスタルジックなポップ感覚を単純に繰り返すのではなく、低音、ノイズ、歪んだギター、空間的な鍵盤などがより強調された。「High Road」はその変化が分かりやすい。60年代的な旋律の親しみやすさを残しながら、背景には暗い音が広がっており、初期Cultsの「古いポップスを現代に持ち込む」という方法が、より重く映画的な方向へ変化している。
歌詞の抜粋と和訳
この曲では、「high road」と「long road」という二つの道のイメージが中心になっている。「high road」はより賢明で節度ある選択、「long road」はその選択を逃した結果として遠回りする現在、と捉えることができる。語り手は過去の判断を訂正できず、現在から振り返ることで初めて別の道があったことに気づいている。
この対比で面白いのは、後悔が抽象的な感情ではなく「距離」として表現されている点である。何かを間違えたから悲しいというだけではなく、間違えたことで帰る場所が遠くなった。そのため曲が進んでも感情的な解決には向かわず、同じ認識へ何度も戻ってくる。この循環する感覚が、反復の多いアレンジとも結びついている。
サウンドと歌詞の考察
「High Road」の核にあるのは、非常に親しみやすいポップ・メロディと、それを素直には明るく聞かせないアレンジの組み合わせである。Madeline Follinの声には1960年代のガール・グループを思わせる軽さがあり、旋律だけを取り出せば口ずさみやすい。しかし、その下ではドラムが重く響き、低音が広い空間を埋めている。音が軽快に跳ねるというより、一歩ずつ重さを引きずりながら進むように聞こえるため、歌詞にある「遠回りしてしまった」という感覚がリズムそのものにも表れている。
特に効果的なのがストリングスである。『Static』のレビューでも「High Road」のストリングスはアレンジを洗練させる要素として指摘されているが、この曲では単なる豪華な装飾にはなっていない。弦の長く伸びる音がボーカルの周囲に広がることで、曲に映画音楽のような大きな奥行きが生まれる。その一方で、演奏が感情を明快に解放する方向には進まない。華やかさの中にどこか影が残り続けるため、過去を振り返る語り手の感情が必要以上にドラマチックにならず、むしろ抜け出せない状態として聞こえてくる。
Cultsらしいのは、Follinの歌唱がこうした重い背景に対して大げさにならないことである。強く叫んで後悔を表現するのではなく、高く柔らかな声を比較的一定の温度で保っている。そのため、歌詞の内容と声の表面には距離がある。深刻な内容を深刻な声で説明するのではなく、甘い声が暗い状況を淡々となぞることで、感情がかえって不安定に聞こえる。Billboardも当時、この曲で彼女の夢見るような幼さを持った声に新しい落ち着きや深刻さが加わったことを指摘していた。
曲が進むにつれて音の層が厚くなることも重要である。最初からすべてを爆発させるのではなく、反復を続けながら少しずつスケールを広げていく。Stereogumが発表時に「4分半を通して成長していく」と評した通り、基本的なモチーフを大きく変えず、周囲の音を増やすことで感情を膨らませる構成になっている。これは、同じ後悔を考え続けるうちに、その意味だけが次第に大きくなっていく心理にも似ている。語り手は新しい答えを発見するのではなく、同じ結論へ何度も戻る。その反復が曲を停滞させるのではなく、徐々に圧力を高めていく。
『Static』全体では低域を強調した、やや濁ったミックスも大きな特徴になった。PitchforkのインタビューでOblivionは、当初のミックスに満足できずBen Allenの助力を得た経緯を語っている。完成したアルバムには、楽器を一つずつ明瞭に分離して聞かせるより、複数の音を霧の中で重ねるような質感がある。「High Road」でもFollinの声だけが完全に前へ飛び出すのではなく、ストリングスやギター、鍵盤、リズムの中に半ば包まれている。歌詞の人物が自分の判断を整理できず、過去と現在の間に取り残されているような感覚と、この輪郭のぼやけた音像はよく合っている。
同時に、この曲は暗さだけに支配されてはいない。Cultsの強みである古典的なポップソングの感覚があるため、メロディにはすぐ覚えられる明快さがあり、サビの反復も強い。この「覚えやすいのに晴れない」という矛盾が曲の魅力である。正しい道を選べなかったという歌詞を、沈み込むだけのバラードではなく、甘く大きなポップソングとして鳴らすことで、後悔が一時的な感情ではなく、日常の中で何度も頭に戻ってくる記憶のように聞こえる。「High Road」は、Cultsが得意としてきた過去のポップスの美しさを保ちながら、その表面にノイズと重量を加えた『Static』期の方向性をよく示す曲なのである。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Always Forever」 by Cults
同じ『Static』収録曲で、Follinの甘いボーカルと60年代ポップを思わせる旋律をより直接的に味わえる。「High Road」の重い後悔に対し、こちらは一つの関係に強く留まり続けようとする感情が反復によって強調される。
「I Can Hardly Make You Mine」 by Cults
『Static』の方向性を示したもう一つの主要曲。歪んだギターの存在感が「High Road」以上に強く、デビュー作のレトロポップから、より荒く攻撃的なギターポップへ進んだCultsの変化が分かりやすい。
「You Know What I Mean」 by Cults
デビュー作『Cults』収録曲。古いガール・グループやソウルを思わせるメロディと、霞んだ現代的プロダクションというCults初期の基本形が聞ける。「High Road」がそこからどの程度暗く重い方向へ進んだのかを比較しやすい。
「Heaven or Las Vegas」 by Cocteau Twins
ボーカルを明確な物語の伝達だけでなく、音色そのものとしてアレンジの中に溶け込ませる点で共通する。「High Road」より幻想的だが、甘い声と厚い音の層によって感情を作るドリームポップの流れをたどるうえで相性がよい。
「Be My Baby」 by The Ronettes
Cultsのレトロなポップ感覚を理解するための基準になる1960年代の代表曲。大きなドラム、女性ボーカル、重層的なアレンジによって小さな恋愛感情を巨大な音像へ変える発想は、時代も録音方法も異なる「High Road」と比較すると興味深い。
まとめ
「High Road」の特徴は、後悔を扱った歌詞を暗いバラードにせず、甘く覚えやすいポップソングの中へ閉じ込めた点にある。Follinの柔らかな声、反復する旋律、重いリズム、広がるストリングス、霞んだミックスが重なり、前へ進んでいるはずなのに同じ場所へ戻ってしまうような感覚を作る。「正しい道」を選べなかった語り手の心理は、説明的な歌詞だけでなく、反復しながら徐々に厚くなるサウンドによっても表現されている。初期Cultsの60年代ポップへの愛着を残しながら、ギターや低音、ノイズによる緊張感を増した『Static』の変化を一曲で捉えられる作品であり、彼らのレトロポップが単なる懐古趣味ではないこともよく分かる。
参照元
- Cults / Pitchfork「Cults」インタビュー(2013年9月25日)
- Pitchfork「Listen: New Cults: “High Road”」(2013年9月3日)
- Under the Radar「Cults: Reconnect」(2013年9月27日)
- Billboard「High Road」シングルレビュー(2013年9月21日号)
- AllMusic『Static』レビュー/クレジット
- Stereogum「Cults – “High Road”」(2013年9月3日)
- W Magazine「Listening to Static」(2013年10月15日)

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