Crumbling Castle by King Gizzard & the Lizard Wizard(2017)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Crumbling Castle」は、オーストラリアのサイケデリック・ロック・バンド、King Gizzard & the Lizard Wizardが2017年に発表したアルバム『Polygondwanaland』のオープニングを飾る大作です。10分を超える尺を持つこの曲は、アルバム全体の壮大な世界観を示唆すると同時に、バンドのプログレッシブな要素や叙情的なメロディ展開、複雑な拍子変化を融合した意欲作として注目を集めました。

タイトルの“Crumbling Castle(崩れゆく城)”が象徴するように、歌詞には「徐々に朽ちていく建造物」や「崩壊する秩序」を暗示するフレーズが数多く散りばめられています。King Gizzard & the Lizard Wizardは環境問題や黙示録的なテーマを扱うことが多く、本曲でもそうした“滅び”のイメージや“終末”の風景が歌詞に反映されていると考えられます。さらに、彼ら特有のファンタジックかつ抽象的な言い回しによって、“人間の文明”や“内面の葛藤”を暗喩するような多義的解釈が可能です。

音楽面では、10分超えの長尺を活かして幾つかのパートに区切られたドラマティックな展開が特徴的です。フォーク、クラウトロック、プログレッシブ・ロック、ガレージ・ロックなど、バンドが得意とする多彩な要素が織り交ぜられ、ゆったりとした導入部から徐々にテンションを高め、リフとリズムが加速していく構成が“城が崩れていく光景”を音で描いているかのようです。King Gizzard & the Lizard Wizardの作品では頻繁に導入される変拍子や、ファズを効かせたギター、緻密なリズムセクションの連動なども存分に堪能できる一曲で、アルバム『Polygondwanaland』の世界観に没入させる効果的なオープニングを担っています。

2. 歌詞のバックグラウンド

King Gizzard & the Lizard Wizardは2010年代のロック・シーンにおいて、驚異的なペースでアルバムをリリースしながらも、毎回異なるコンセプトを追求するバンドとして注目されてきました。2017年は彼らにとって“年内に5枚のアルバムを発表する”という壮大な目標を掲げた挑戦の年であり、『Polygondwanaland』はその4作目にあたります。特筆すべきは、このアルバムをバンド自身が「フリーでダウンロード可能」「さらに音源データやアートワークまでオープンにしてリスナー自身がフィジカルを作成しても良い」と宣言した点で、インディペンデントなDIY精神を極限まで発揮した作品としても話題を呼びました。

そうしたユニークなリリース形態をとった本作の冒頭を飾る「Crumbling Castle」は、曲名が示すように“朽ち果てる城”を巡る神話的・黙示録的なイメージが注がれています。英語圏のロック評論では、しばしばこの曲を“プログレッシブ・ロックへの真正面からのアプローチ”と形容し、King Gizzardが短時間のガレージロックやポップ寄りのアプローチだけでなく、大作志向のサウンドスケープにも対応可能な柔軟性と創造力を持つことを強く印象づけたと評されます。

歌詞の内容については、環境破壊や文明の崩壊を喚起する表現が散見される一方、神秘主義やオカルト的モチーフを連想させるフレーズが並ぶため、一義的な解釈を与えにくいのが特徴。バンドとしても“特定の物語”を強要するわけではなく、あくまでイメージを提示し、リスナー各自の想像力で補完してもらうというスタンスを取っているようです。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Crumbling Castle」の歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を付します。なお、著作権保護の観点から、引用は一部にとどめております。全文は下記リンクをご参照ください。

King Gizzard & the Lizard Wizard – Crumbling Castle Lyrics

See the crumbling castle
崩れていく城を見よ
Worn and frail, battered by time
時の流れにすり減らされ、弱り果てている
Seek the hidden passage
隠された通路を探し出せ
Down below, the ancients lie
地下深く、古の者たちが眠っている

(中略)

Overgrow, the forest creeps
森が生い茂り、這い寄ってくる
Stone by stone, the tower weeps
石が崩れ、塔は泣き叫ぶ
Hear the old ones chanting
古の者たちの唱和が聞こえる
In the gloom, the castle sleeps
闇の中で、城は眠り続ける

これらのフレーズは、朽ちた城やその地下に眠る“古の者”に対する神話的ファンタジーのようなイメージを強く喚起します。一方で、“time”や“forest overgrowth”“stone by stone, the tower weeps”といった表現は、“自然の浸食”や“人間の遺物が崩れていく過程”を連想させるため、文明の盛衰や終末観を暗示するとも読めるでしょう。さらに“ancients”や“old ones chanting”という語感は、オカルトやクトゥルフ神話を好むファンにとっても魅力的に映る要素です。

4. 歌詞の考察

「Crumbling Castle」の歌詞は、一見するとファンタジー小説の一場面のようでありながら、“古代の存在”“崩れゆく塔”“自然に吞み込まれる建造物”といったモチーフを用いて、人間が築いた文明の儚さや自然の絶対的な力を暗示しているようにも感じられます。King Gizzard & the Lizard Wizardは環境問題や宇宙規模の物語を題材に取り上げることが多く、この曲でも明確に“環境破壊反対”や“社会批判”を訴えるわけではないにせよ、“人間の営みがやがて自然に還元され、古い神秘が再び目覚めるかのような黙示録”をイメージさせる流れが見えてきます。

アートワークやアルバムタイトル『Polygondwanaland』からも分かるように、本作全体のテーマとしては多次元的な世界や、古代大陸ゴンドワナを想起させる大陸移動説的なモチーフ、幾何学的な図形(Polygon)などが結びついており、「Crumbling Castle」は“城”という古典的・中世的イメージと、宇宙的・地質学的なスケールを交差させることでアルバムの導入部を飾ります。その結果、“ミステリアスな世界の扉が開かれる”感覚をリスナーに与える構成になっているわけです。

音楽的にも、序盤は淡々と穏やかなアルペジオとメロディが展開され、中盤で突然リズムがうねり出し、ギターリフやリズムセクションの多面的なアンサンブルが爆発するというドラマチックな展開が特徴です。King Gizzard & the Lizard Wizardは変拍子やリフの繰り返しを得意とする一方で、曲ごとにサウンドの雰囲気をがらりと変える柔軟性を持ち合わせており、「Crumbling Castle」ではプログレッシブな構成力やクラウトロック的トランス感、フォーク調のメロディといった多彩な側面が矛盾なく一体化しています。これは10分を超える尺があるからこそ可能になる壮大な試みであり、曲が終わる頃には“城が完全に崩壊し、荒れ果てた土地に別の世界が立ち現れる”ような情景を連想させるはずです。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “The Castle in the Air” by King Gizzard & the Lizard Wizard
    こちらは公式に存在する曲名ではありませんが、同じアルバム『Polygondwanaland』内の楽曲と対比する形で「Crumbling Castle」を聴き比べるのがおすすめ。実際には「Deserted Dunes Welcome Weary Feet」など、アルバムの後半曲との流れを感じ取ってみてほしい。

  • Head On/Pill” by King Gizzard & the Lizard Wizard
    アルバム『Float Along – Fill Your Lungs』(2013年)収録の2部構成による長尺サイケ・ジャム。まだ粗さが残る初期作だが、長尺での世界観の作り方やジャム的な展開は「Crumbling Castle」に通じる部分が多い。

  • “Crumbling Castle (Live)”
    公式やファン撮影のライブ映像も多数出回っており、スタジオ音源とは違ったアレンジやエネルギーを感じられる。複数のメンバーが楽器を乗り換えつつ演奏する姿は見応えがあり、曲のドラマチックさがさらに引き立つ。

  • “Change” by King Gizzard & the Lizard Wizard
    後年にリリースされた作品で、ややポップ寄りのメロディとサイケ要素を融合した一例。対照的な短めの曲を聴くことで、バンドの幅広さと「Crumbling Castle」の大作感をより強く体験できる。

  • Gamma Knife” by King Gizzard & the Lizard Wizard
    アルバム『Nonagon Infinity』 (2016年) からの一曲で、激しいビートとサイケリフが渦巻くトランシーなナンバー。「Crumbling Castle」と同じく変幻自在な展開が魅力で、複雑かつ耳に残るリフの応酬を好む人におすすめ。

6. 特筆すべき事項:壮大かつプログレッシブな冒頭曲としての機能

「Crumbling Castle」は、アルバム『Polygondwanaland』のリスナーにとって最初の“入り口”となる楽曲であり、10分を超える大作であるにもかかわらず、決して冗長に感じさせない構成力と緻密に編み込まれたサウンドスケープが大きな魅力です。曲の導入では静かにギターのアルペジオやメランコリックなメロディが流れ、徐々にリズムが加速し、後半へ向かうにつれてクラウトロック的な反復ビートや攻撃的なリフが重ね合わさっていく流れは、まるで“不気味な古城を探索しているうちに、深淵へと引きずり込まれていく”ような感覚をもたらします。

また、歌詞に描かれる“崩壊する城”は、ただのファンタジー要素としてではなく、“自然による浸食”“文明の朽ち果て”といった現実の問題と結びつけることもできるため、King Gizzard & the Lizard Wizardの作品全般に散見される“環境や社会への警鐘”というテーマを読み取ることも可能です。彼らはストレートな政治メッセージを打ち出すよりも、サイケデリックで象徴的なイメージを積み重ねることで、聴き手の想像力を揺さぶる手法を好んでおり、「Crumbling Castle」もその延長として“崩れゆく世界への黙示”を音楽的に描いたものと解釈できるでしょう。

一方で、「Crumbling Castle」はライブでも非常に人気が高く、バンドの持ち味である“長尺でのダイナミックな演奏”を存分に堪能できる楽曲として愛されています。変拍子やリフの切り替えを次々とこなしながらも、一貫してロックのグルーヴと高揚感を維持し続ける演奏力は圧巻で、King Gizzardがいかに技量と実験精神を高次元で両立させているかが示される瞬間でもあります。

そして、アルバム『Polygondwanaland』がフリー配布されたという背景も面白いポイントです。デジタル音源からバンド自身が公開したマスター音源まですべて自由に使ってよいという方針は、リスナーやファン、インディーレーベル、さらには個人レベルでのレコードやカセットの製作を呼び込み、アルバムに対する多様なクリエイティビティが広がる結果となりました。そうしたDIY精神に満ちたリリース形態も、「Crumbling Castle」が持つ“広大な世界を想像し、各々のかたちで体験してほしい”というアーティスティックなメッセージと呼応しているように感じられます。

結局のところ、「Crumbling Castle」はKing Gizzard & the Lizard Wizardが2017年という驚異的な創作活動のピークで示した“大曲志向”と“サイケデリックな世界観”、そして“社会や自然への視点”がすべて詰め込まれたような曲です。タイトル通り、朽ち果てていく城を舞台にした幻視的な物語と、10分以上にわたって展開されるプログレッシブかつサイケデリックなサウンドは、多作の彼らのディスコグラフィの中でも特に代表的な到達点の一つと言えます。アルバムの冒頭から一気に深淵へ引きずり込まれる体験を求めるリスナーは、ぜひ“Crumbling Castle”の扉を開き、その崩壊のドラマに身を委ねてみてください。崩れ落ちる城の壁の向こうから、未知の世界が姿を現すかもしれません。

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