
楽曲の概要
「The Queen Is Dead」は、The Smithsが1986年に発表した3作目のスタジオアルバム『The Queen Is Dead』のタイトル曲であり、アルバムのオープニングを飾る約6分の楽曲である。作詞はMorrissey、作曲はJohnny Marr。Marrのギター、Andy Rourkeのベース、Mike Joyceのドラムによる激しい反復の上で、Morrisseyがイギリス王室、階級、家族、名声といった題材をブラックユーモアとともに歌う。アルバムはMorrisseyとMarrがプロデュースし、Stephen Streetがエンジニアを担当した。
The Smithsには繊細なギターポップというイメージも強いが、この曲はかなり攻撃的である。Johnny Marrは後年、The Stoogesのようなデトロイト・ガレージロックの攻撃性を目指し、The Velvet Undergroundからも影響を受けたと説明している。そこへ古い英国歌謡の音源、強烈なドラム、ファンク的に動くベース、ノイズに近いギターを組み合わせることで、「英国らしさ」を懐かしむのではなく、英国というイメージを内側から揺さぶる曲になった。
歌詞の概要
タイトルは「女王は死んだ」という非常に挑発的な言葉だが、歌詞は王室批判だけを一直線に展開する政治的声明ではない。語り手は自分と英国王室の奇妙なつながりを想像し、バッキンガム宮殿へ入り込み、王族をからかいながら、やがて自分自身の家庭、仕事、名声への不満へ話を飛ばしていく。話題が次々と変わるため、一つの論理的な主張というより、英国社会についての不満と冗談を高速で連想していくモノローグに近い。
王室はここで、単に特定の人物として批判されているだけではない。世襲、階級、伝統、敬意といった、古い英国社会を支える価値観の象徴として扱われている。語り手はそうした権威に敬意を払うどころか、王族を日常的で滑稽な人物へ引き下ろしてしまう。王室の持つ荘厳なイメージと、くだらない冗談や家庭的な会話を同じ場所へ置くことで、権威が持つ距離感を壊しているのである。
しかし後半では、批判の対象が王室だけではなくなる。語り手自身も家族から金を稼ぐよう求められたり、有名人として扱われたりする社会の中にいる。そこで問題になるのは「王室対庶民」という単純な構図ではなく、地位や金、家柄、有名であることによって人間の価値を決めようとする社会そのものだと読める。最後まで政治的な結論を示さず、怒りと笑いを混ぜたまま走り抜けることが、この曲の特徴である。
制作背景・時代背景
『The Queen Is Dead』は1986年6月に発売されたThe Smithsの3作目のアルバムで、全英アルバムチャートでは2位を記録した。前作『Meat Is Murder』までにバンドはイギリスのインディーロックを代表する存在となっており、この時期にはMorrisseyとMarrの作詞・作曲関係だけでなく、RourkeとJoyceを含む4人の演奏も非常に強固になっていた。Marrは後年、このアルバムを作っていた時期について、4人の結束と制作上の相性が非常に良かったと振り返っている。
タイトル曲についてMarrが目指したのは、従来のThe Smiths以上に荒々しいロックだった。本人はThe StoogesやThe Velvet Undergroundを具体的な参照点として挙げ、「The SmithsがThe Stoogesをやり、そのThe StoogesがThe Velvet Undergroundをやる」ような発想だったと説明している。Rourkeによれば、Marr、Joyce、Rourkeの3人は重いリフを長時間ジャムしながら曲の骨格を作った。2017年の拡大版には通常版より長い「Full Version」も収録されており、もともと反復をさらに長く続ける構想だったことが確認できる。
Morrisseyは王室について、単に乱暴に攻撃したかったのではなく、英国社会の中で王室が必要以上に有用な存在として扱われていることへの疑問があったと後年説明している。Marrも「The Queen Is Dead」という4語をアルバムタイトルとして見たとき、その非常に英国的で反抗的な響きを意識したと語っている。1977年のSex Pistols「God Save the Queen」と同じ反王室の流れを連想させるが、The Smithsの場合はパンクの直接的な罵倒より、文学的な言葉遊びとコメディを使って権威を小さく見せる方法を取った。
歌詞の抜粋と和訳
曲の冒頭では、第一次世界大戦期に広まった英国歌謡「Take Me Back to Dear Old Blighty」が映画『The L-Shaped Room』から取られた音源として使われる。「Blighty」は英国を親しみを込めて呼ぶ古い俗称であり、ここでは故郷イギリスへの郷愁を強く感じさせる。
しかし、その懐かしい英国像の直後に「The Queen Is Dead」という攻撃的な曲が始まる。この配置が重要である。古き良き英国への郷愁を提示した直後、その英国を象徴する王室や階級制度をMorrisseyが茶化していくため、イントロそのものが歌詞への皮肉として働いている。
サウンドと歌詞の考察
「The Queen Is Dead」で最初に耳を奪うのは、Mike Joyceのドラムである。古い歌のサンプルが消えると、巨大なドラムが突然前面へ飛び出し、そこから曲全体をほとんど休みなく押し続ける。通常のロックのようにヴァースでは抑えてサビで大きくするのではなく、かなり早い段階から高い緊張状態へ入り、それを長時間維持する。Joyceの演奏は単なる伴奏ではなく、王室へ突入していく行進のような推進力を作っている。
Andy Rourkeのベースは、その下でかなり自由に動く。ギターのコードの根音をなぞるだけではなく、短いフレーズを繰り返しながらドラムと噛み合い、曲にうねりを与える。Marr自身がRourkeのベースラインを高く評価したという証言が残っているが、実際、この曲ではギターよりベースの方が「リフ」として認識しやすい部分もある。The Smithsをギターバンドとしてだけ捉えると見落としやすいが、この曲の攻撃性はJoyceとRourkeのリズム隊によるところが大きい。
一方、Johnny Marrのギターは「This Charming Man」のような細かなアルペジオを中心とするスタイルとはかなり異なる。コードをきれいに響かせるより、歪んだ音や反復する短いパターンを重ね、曲全体へざらついた壁を作る。The StoogesやThe Velvet Undergroundを意識したという本人の説明通り、ここでは美しいコード進行よりも、一つのグルーヴを繰り返すことで熱量を上げる方法が中心だ。同じパターンが続くほど演奏が息苦しくなるのではなく、むしろ集団的な興奮が増していく。
この荒々しいバンド演奏に対して、Morrisseyは典型的なロック歌手のようには振る舞わない。怒鳴って政治的主張を叩きつけるのではなく、言葉の発音を誇張し、皮肉を込め、時には会話を演じるように歌う。王族を扱う場面でも、敵を巨大な権力者として描いて恐怖を煽るより、滑稽な人物として扱う。権威を倒すために自分の声を権威的にするのではなく、笑いによって権威そのものの大きさを縮めてしまうのである。
この方法は、冒頭の「Take Me Back to Dear Old Blighty」と特に強く結びついている。古い音源から聞こえてくる英国は、共同体、故郷、伝統を感じさせる。しかしその直後に鳴るThe Smithsは、同じ「英国」をノイズ、反復、皮肉によって別の姿へ変える。ここでは過去の英国文化が否定されているというより、誰が「英国らしさ」を決めるのかが問われているように聞こえる。伝統的な歌も、王室も、マンチェスター出身の若いロックバンドも、すべて英国文化の一部なのである。
曲に一般的な意味での大きなサビがないことも重要だ。約6分という長さにもかかわらず、キャッチーなサビを何度も挟んで構成を整理するのではなく、基本的なグルーヴを保ったままMorrisseyの言葉が次々と展開する。そのため、聴き手は「次のサビ」を待つより、終わらない演説とジャムの中へ巻き込まれる。王室から家族、仕事、名声へ話が飛んでいく歌詞と、反復しながら前進するバンドが同じ構造を持っている。
さらに面白いのは、これほど攻撃的な曲なのに、演奏にはかなりの高揚感があることである。歌詞は英国社会の閉塞や権威への嫌悪を扱っているが、RourkeとJoyceのグルーヴは身体を動かしたくなるほど力強い。つまり、不満を沈鬱な音楽で表現するのではなく、怒りそのものをエネルギーへ変換している。これはThe Smithsの他の曲にも見られる「歌詞と演奏の感情が完全には一致しない」という特徴を、最も激しい形で使った例の一つだ。
「The Queen Is Dead」がアルバムの1曲目に置かれている意味もここにある。The Smithsはこの後、「I Know It’s Over」のような悲痛なバラード、「Cemetry Gates」の軽快なギターポップ、「Vicar in a Tutu」のミュージックホール的なユーモア、「There Is a Light That Never Goes Out」のロマンティックなポップへ次々と姿を変える。その入口として、まず過去の英国を象徴する音源を流し、それを巨大なドラムで破壊する。アルバム全体が持つ英国文化への愛着と反抗を、冒頭の数十秒だけですでに提示しているのである。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Barbarism Begins at Home」 by The Smiths
Andy Rourkeの動くベースとMike Joyceの反復的なドラムを前面に出した長尺曲。「The Queen Is Dead」よりファンク色が強く、The Smithsの演奏がJohnny Marrのギターだけで成立していたわけではないことがよく分かる。
「Bigmouth Strikes Again」 by The Smiths
同じ『The Queen Is Dead』収録曲で、Morrisseyのブラックユーモアと攻撃的なバンド演奏がよりコンパクトにまとまっている。Johnny Marrが初期Rolling Stonesを意識した、荒々しく疾走感のあるギターも特徴だ。
「I Can’t Stand It」 by The Velvet Underground
Johnny Marrが「The Queen Is Dead」を作る際に意識した曲の一つ。単純なコードとリフを反復しながら演奏の熱量を上げていく方法に共通点があり、The Smithsの普段の繊細なギターとは別のルーツが見える。
「Search and Destroy」 by Iggy and The Stooges
荒々しいギター、猛烈なリズム、反復による高揚という点で、「The Queen Is Dead」の攻撃性につながる一曲。The Smithsとはボーカル表現が大きく異なるが、Marrが求めたデトロイト・ロックの感触を理解しやすい。
「God Save the Queen」 by Sex Pistols
英国王室を攻撃的なロックの題材にした先行例。ただしSex Pistolsが直接的な言葉とパンクの衝撃を使ったのに対し、The Smithsは文学的な連想、キャンプな笑い、英国文化への複雑な愛着を混ぜている点が異なる。
まとめ
「The Queen Is Dead」は、王室批判を歌った曲であると同時に、「英国らしさ」を誰が所有するのかを音そのもので問い直した作品である。古い英国歌謡による郷愁から始まり、それをMike Joyceの巨大なドラム、Andy Rourkeのうねるベース、Johnny Marrの荒々しい反復ギターが塗り替える。その上でMorrisseyは王室を巨大な敵としてではなく、冗談の対象へ引き下ろして権威を解体する。繊細なギターポップだけでは説明できないThe Smithsの演奏力と、怒りをユーモアへ変える歌詞が最も激しく交差した曲であり、『The Queen Is Dead』というアルバムが持つ反抗性、多様性、英国文化への複雑な距離感を最初の約6分で提示している。
参照元
- Rhino Records『The Queen Is Dead』公式リリース情報
- Rhino Records『The Queen Is Dead』Deluxe Edition
- NME「The Incredible Full Story Behind The Smiths’ ‘The Queen Is Dead’ As Told By The Band」
- NME Johnny Marrインタビュー
- NME Stephen Streetインタビュー

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