
発売日: 2009年
ジャンル: フォーク、アコースティック
静かに響く情景描写と繊細な叙情性
イギリスのシンガーソングライター、Passenger(本名:Mike Rosenberg) の2ndアルバム Wide Eyes Blind Love は、彼のキャリア初期の重要な作品だ。前作 Wicked Man’s Rest(2007年)でバンド形態だったPassengerは、本作からRosenbergのソロプロジェクトへと移行し、よりパーソナルでアコースティックなスタイルを確立する。
アルバム全体を貫くのは、温かみのあるギターの響きと、Rosenberg特有の儚くも味わい深いヴォーカルだ。詩的な歌詞とシンプルなアレンジが、まるで旅人の視点で紡がれる物語のようにリスナーを引き込む。本作は、後の大ヒット作 All the Little Lights(2012年)へとつながるフォーク・ポップの土台を築いた作品ともいえる。
全曲レビュー
1. Last Unicorn
優しく鳴るギターのアルペジオと、Rosenbergの哀愁漂う歌声が印象的なオープニング。失われたものへの憧憬と喪失感を描いた詩的な歌詞が心に沁みる。
2. What Will Become of Us
静かなピアノとアコースティックギターが響くバラード。関係性の儚さや人生の不確かさについて歌っており、感情を抑えたようなヴォーカルが逆に胸を打つ。
3. Moon
淡々としたギターのリフとメロディが、月夜の静けさを思わせる楽曲。Rosenbergのソフトな歌声が、ロマンチックでありながらも切ない情景を描き出す。
4. Wide Eyes
タイトルにもなっている「Wide Eyes」が象徴するのは、純粋な驚きや感動。穏やかなアコースティックサウンドと、詩的な言葉が共鳴し、リスナーに静かな感動をもたらす。
5. Underwater Bride
水中に沈むような感覚を覚える、静謐で幻想的なアレンジが特徴。愛と喪失をテーマにした歌詞が、透明感のあるメロディに溶け込む。
6. Strangers
異国の地での出会いと別れを描いた、旅情を感じさせる楽曲。Rosenbergのシンプルな語り口が、リスナーの想像力をかきたてる。
7. Starlings
アコースティックギターの繊細なフレーズが、美しく舞うムクドリの群れを連想させる。自然と人間の関係を詩的に表現した作品。
8. Blind Love
タイトル曲にふさわしい、純粋で儚い愛を描いたバラード。シンプルな構成ながら、心を打つメロディと歌詞が際立つ。
9. Snowflakes
降り積もる雪のように淡々としたアレンジと、繊細な歌詞が印象的な楽曲。冬の静けさと孤独が、Passengerらしい優しさをもって表現されている。
10. Rainbows
アルバムの中でも比較的明るいトーンを持つ楽曲。希望や新たな始まりを歌いながらも、どこか切なさを感じさせるのがPassengerらしい。
総評
Wide Eyes Blind Love は、Passengerの持つ叙情的な世界観がより純粋な形で表現された作品だ。シンプルなアコースティック・アレンジと、繊細な歌詞が特徴的で、リスナーに深い余韻を残す。彼の後の代表作 Let Her Go のような即効性のあるメロディこそ少ないが、旅の途中で静かに耳を傾けたくなるような、内省的な魅力に溢れている。
おすすめのリスナー:
- フォークやアコースティック音楽を好む人
- Damien RiceやNick Drakeのようなシンガーソングライターが好きな人
- 静かに物語を感じられる音楽を求めている人
おすすめアルバム
1. Damien Rice – O (2002)
繊細なアコースティックサウンドと内省的な歌詞が、Passengerと共鳴する一枚。
2. Ben Howard – Every Kingdom (2011)
海を感じさせるギターサウンドと、静謐ながらも情熱的なボーカルが魅力的。
3. Nick Drake – Pink Moon (1972)
ミニマルなアレンジと詩的な歌詞が印象的な、フォークの名盤。Passengerの音楽にも通じる叙情性がある。
4. José González – Veneer (2003)
クラシックギターを基調としたサウンドが美しく、静かな時間に寄り添う一枚。
5. Iron & Wine – The Shepherd’s Dog (2007)
柔らかく幻想的なフォークサウンドが、Passengerの音楽と相性が良い。
Wide Eyes Blind Love は、決して派手ではないが、じっくりと聴くことでその魅力が滲み出る作品だ。シンプルな中に込められた感情の深さを感じたいなら、ぜひ耳を傾けてほしい。
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