
発売日: 1971年8月
ジャンル: ロック、フォークロック、サイケデリックロック
過渡期のHollies——サイケデリックからアメリカ志向のフォークロックへ
The Hollies の11thスタジオアルバム Distant Light は、バンドの音楽的変化とメンバーの入れ替わりが交錯する、過渡期の作品 である。本作は、サイケデリックな要素を持ちながらも、カントリーやフォークロック、アメリカンロックの影響が色濃く表れている。
本作のリリース後、長年のフロントマン Allan Clarke がソロキャリアに専念するため脱退。その後のThe Hollies は、スウェーデン出身の Mikael Rickfors を迎え、新たな方向性へと進むことになるため、本作はオリジナルメンバーによる最後のアルバムのひとつ とも言える。
本作には、アメリカで大ヒットした「Long Cool Woman in a Black Dress」が収録されており、この楽曲はThe Hollies らしからぬ、ストレートなロックンロールのスタイル を持っていたことが特徴的。バンドのコーラスを前面に出した楽曲が多い彼らにとって、異色の楽曲となったが、このシンプルなギターリフ主体のスタイルが当時のアメリカ市場で受け入れられた。
全曲レビュー
1. What a Life I’ve Led
ブルースロック的なギターリフが特徴のオープニングトラック。哀愁漂うメロディとシンプルなアレンジが、1970年代のバンドの方向性を示唆している。
2. Look What We’ve Got
ファンキーなリズムが特徴的なナンバー。ホーンセクションが加わり、The Hollies の従来のポップサウンドとは異なる印象を与える。
3. Hold on
カントリー風のアレンジが施された楽曲で、アメリカ志向のサウンドが強くなっていることを感じさせる。メロディアスで心地よいが、バンドの典型的なスタイルとは異なるアプローチ。
4. Pull Down the Blind
フォークロック的な雰囲気が強く、アコースティックギターが印象的な楽曲。Bob Dylan やThe Byrds の影響を感じさせる。
5. To Do with Love
ポップ寄りのナンバーで、The Hollies のハーモニーが生かされた楽曲。しかし、やや地味な印象もあり、アルバムの中では控えめな存在。
6. Promised Land
ハードエッジなギターと、アメリカンロック的なアレンジが光る楽曲。The Hollies らしさを持ちつつ、新しい音楽性を模索している姿勢がうかがえる。
7. Long Cool Woman in a Black Dress
アルバムのハイライトであり、最大のヒット曲。The Hollies の典型的なコーラスワークを封印し、Allan Clarke のラフなボーカルとシャープなギターリフで構成された、ストレートなロックンロール曲。まるでCreedence Clearwater Revival(CCR)を思わせるスタイルで、アメリカのチャートで大ヒットを記録した。
8. You Know the Score
ゆったりとしたリズムと、ダークなサイケデリック・ムードが特徴的な楽曲。Pink Floyd や The Moody Blues に通じる雰囲気があり、バンドの実験的な側面を感じさせる。
9. Cable Car
フォーク調のアコースティックギターが美しい楽曲。静かながらも印象的なメロディが心に残る。
10. A Little Thing Like Love
ミディアムテンポのポップソングで、これまでの The Hollies の作風に近いナンバー。コーラスワークが光る楽曲であり、バンドの持ち味が生きている。
11. Long Dark Road
アルバムの締めくくりを飾るエモーショナルなバラード。メランコリックなメロディとドラマチックな展開が、Clarke のバンド脱退を予感させるような雰囲気を持っている。
総評
Distant Light は、The Hollies の新しい音楽性を模索したアルバムであり、サイケデリック・ポップの要素を残しつつも、アメリカ市場を意識したロック寄りのサウンドへとシフトしている。
「Long Cool Woman in a Black Dress」の大ヒットは、バンドの進化の象徴とも言えるが、同時にメンバー間の音楽的な方向性の違いを浮き彫りにし、Allan Clarke の脱退へとつながった。結果的に、このアルバムはThe Hollies の最もアメリカ寄りのサウンドを持つ作品のひとつ となり、バンドの歴史の中でもユニークな位置を占めている。
おすすめのリスナー:
- The Hollies のポップな側面だけでなく、ロック志向の楽曲を楽しみたい人
- アメリカンロックやフォークロックが好きな人(The Byrds、Creedence Clearwater Revival のファン)
- The Hollies の進化と変遷を追いたい人
おすすめアルバム
1. Creedence Clearwater Revival – Cosmo’s Factory (1970)
「Long Cool Woman in a Black Dress」のサウンドに近い、アメリカンロックの名盤。
2. The Byrds – Sweetheart of the Rodeo (1968)
カントリー・ロックとフォークの要素が強いアルバムで、Distant Light の方向性と共通点が多い。
3. The Moody Blues – A Question of Balance (1970)
サイケデリック要素とロックの融合が特徴で、本作のムードと通じるものがある。
4. Bob Dylan – Nashville Skyline (1969)
フォークとカントリーを融合させた作品で、The Hollies のアメリカ志向と比較するのに興味深い。
5. Badfinger – Straight Up (1971)
メロディアスなロックサウンドを持ちつつ、ハードなギターも取り入れた作品で、The Hollies の方向性に近い。
Distant Light は、The Hollies のキャリアの中で最もアメリカ市場を意識した作品であり、「Long Cool Woman in a Black Dress」という異色の大ヒットを生み出した、重要なアルバム である。
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