アルバムレビュー：Permanent Waves by Rush

アルバムレビュー

2025.03.13

発売日: 1980年1月14日
ジャンル: プログレッシブロック、ハードロック

プログレからの脱却――Rushが次の時代へと踏み出した変革作
全曲レビュー
総評
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プログレからの脱却――Rushが次の時代へと踏み出した変革作

1980年にリリースされた『Permanent Waves』は、Rushが70年代の長尺プログレッシブロックから、よりコンパクトでアクセスしやすい楽曲へと進化した転換点となるアルバムである。前作『Hemispheres』（1978年）までは、長大な組曲形式の楽曲を中心としたスタイルだったが、本作では「The Spirit of Radio」や「Freewill」といった5分前後の楽曲を中心に構成し、シングル向けのフォーマットへと移行している。

この変化は、70年代後半のロックシーンの流れを意識したものでもあり、当時急速に台頭していたニューウェーブの影響も感じられる。とはいえ、Rushの持つプログレッシブなアレンジと高度な演奏技術はそのままであり、実験精神とポップな要素が絶妙に融合した作品となっている。

本作は、バンド初の全米トップ5入り（Billboard 200で4位）を果たし、Rushがプログレバンドからメインストリームのロックバンドへと進化する礎を築いた。

全曲レビュー

1. The Spirit of Radio

Rushの代表曲の一つであり、ラジオ業界への皮肉を込めた楽曲。
キャッチーなギターリフとポップなメロディが特徴的でありながら、変拍子やレゲエ風のブレイクなどプログレ的な要素も巧妙に取り入れられている。
特に「Invisible airwaves crackle with life」というラインは、ロックファンの間で名フレーズとして語り継がれている。

2. Freewill

ニール・パートの哲学的な歌詞が印象的な楽曲で、自由意志（Free Will）をテーマにしたメッセージ性の強い歌詞が特徴。
アレックス・ライフソンのギターソロは本作でも特に激しく、プログレッシブロックとハードロックの完璧なバランスが取れた一曲。

3. Jacob’s Ladder

本作の中では最もプログレ色が強い楽曲で、ダークで荘厳な雰囲気を持つ、7分を超える大作。
静かなイントロから徐々に盛り上がる展開が特徴で、歌詞は天候の変化（嵐と光）を神話的な視点で描いている。シンセサイザーを効果的に使い、後のRushのサウンドの進化を示唆する楽曲。

4. Entre Nous

アルバムの中では比較的シンプルな作りの楽曲で、「Entre Nous（私たちの間で）」というタイトル通り、人間関係における距離感をテーマにした歌詞が印象的。
キャッチーなメロディが際立ち、Rushのポップな側面が垣間見える。

5. Different Strings

ゲディ・リーが単独で作曲を手掛けたアコースティック主体のバラードで、Rushの中では珍しいタイプの楽曲。
シンプルながらも美しいメロディが印象的で、アレックス・ライフソンのギターが楽曲を包み込むように展開する。

6. Natural Science

アルバムのラストを飾る、約9分に及ぶプログレッシブな大作。
3つのセクション（Tide Pools / Hyperspace / Permanent Waves）で構成されており、Rushの持つテクニカルな演奏力と構成力が存分に発揮された楽曲。
歌詞ではテクノロジーと自然の関係性をテーマにした内容が描かれ、80年代以降のRushの哲学的な側面を象徴する一曲となっている。

総評

『Permanent Waves』は、Rushがより広いリスナー層に向けてアプローチを広げるきっかけとなったアルバムであり、プログレッシブな要素とシンプルなロックのバランスが絶妙に取れた作品である。

「The Spirit of Radio」や「Freewill」のようなキャッチーな楽曲を収録しながらも、「Jacob’s Ladder」や「Natural Science」のようなプログレ的な楽曲も含めることで、Rushの持つ多様性を示している。また、このアルバムからシンセサイザーの使用が増え始め、80年代のRushサウンドの方向性を決定づける一枚となった。

「プログレは長すぎて難しい」と感じる人にもおすすめできる、ちょうど良いバランスの名盤であり、Rush入門としても最適な作品である。