
発売日: 2009年9月29日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポスト・パンク・リバイバル
情熱と洗練の融合——AFIの新境地
2009年にリリースされたCrash Loveは、AFIがエモーショナルなポスト・ハードコアやダークなゴシック・ロックの要素から離れ、よりシンプルで洗練されたオルタナティヴ・ロックへとシフトした作品である。本作では、前作Decemberunderground(2006年)に見られたエレクトロニックな要素を排し、ギターを前面に押し出したシンプルかつメロディアスなロックサウンドが展開されている。
歌詞のテーマも変化し、これまでの作品に見られた死や孤独といったダークなモチーフよりも、現代の消費文化、名声、愛と欲望の衝突といった社会的テーマが色濃く反映されている。プロデューサーにはジョー・マクグラス(Green Day、Blink-182)を迎え、サウンドのクリアさとダイナミズムを追求している。
このアルバムは、メジャー感のあるロックサウンドを志向したことで、一部のファンには賛否が分かれたが、AFIの新たな側面を示す重要な作品となった。
全曲レビュー
1. Torch Song
オープニングを飾る力強いナンバー。ギターリフとキャッチーなメロディが印象的で、サビの「If you listen, listen close, you can hear when the heart stops beating now」が、アルバム全体のテーマを象徴する。
2. Beautiful Thieves
シングルカットされた楽曲で、ダンサブルなリズムとメロディアスなコーラスが特徴的。「もし世界を盗めるなら、君は何をする?」という歌詞が示すように、名声と権力を巡る皮肉が込められている。
3. End Transmission
ニューウェーブの影響を感じさせる楽曲。浮遊感のあるギターとドラマティックなメロディが、80年代のポスト・パンクを彷彿とさせる。
4. Too Shy to Scream
ダンサブルなビートとパンク的なエネルギーが融合した楽曲。ライブ向けの高揚感のあるサウンドが印象的。
5. Veronica Sawyer Smokes
映画『ヘザース/ベロニカの熱い日』(1989年)に登場するキャラクターの名前を冠した楽曲。ノスタルジックな雰囲気とパワーポップ的なメロディが魅力的。
6. Okay, I Feel Better Now
アルバムの中で最も内省的な楽曲の一つ。エモーショナルなメロディと、徐々に盛り上がるドラマティックな構成が特徴的。
7. Medicate
本作のリードシングルで、ギター主導のオルタナティヴ・ロック。ヘヴィなリフとシンプルな構成が特徴で、AFIの新しい音楽性を象徴する楽曲。
8. I Am Trying Very Hard to Be Here
パンク的な勢いを持ちながらも、ポップなメロディが融合した楽曲。ハヴォックのヴォーカルのレンジの広さが際立つ。
9. Sacrilege
ミドルテンポの楽曲で、シリアスなテーマとエネルギッシュな演奏が際立つ。
10. Darling, I Want to Destroy You
タイトル通り、愛と破壊の矛盾した感情を描いた楽曲。シンプルながらも印象的なメロディが心に残る。
11. Cold Hands
勢いのあるパンク・ロック調の楽曲で、バンドのルーツに近いサウンドを感じさせる。
12. It Was Mine
アルバムの締めくくりを飾るバラード調の楽曲。感傷的なメロディと静かなアレンジが、アルバム全体の余韻を強める。
総評
Crash Loveは、AFIがよりクリーンでオルタナティヴなロックサウンドへと移行した作品であり、ポスト・ハードコアやエモの要素を抑え、ギターリフを基盤としたシンプルな楽曲構成へとシフトしている。
本作は、前作Decemberundergroundのようなエレクトロ要素や、Sing the Sorrowのようなドラマティックな演出を期待していたファンには意外な作品だったかもしれないが、AFIが変化を恐れずに新たな音楽性を模索した結果として、洗練されたロックアルバムに仕上がっている。
特に、「Medicate」「Beautiful Thieves」「End Transmission」などの楽曲は、AFIのメロディアスな側面を存分に活かしており、新たなリスナー層を獲得する可能性を秘めた作品と言える。
ただし、バンドのダークな側面やゴシック的な美学を求めるリスナーにとっては物足りなさを感じる部分もあり、Crash LoveがAFIの方向性を大きく変えるきっかけになったことは間違いない。
おすすめアルバム
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AFI – Sing the Sorrow(2003)
Crash Loveよりもダークでシネマティックな作品。AFIの壮大なエモーショナルな世界観を堪能できる。 -
The Killers – Hot Fuss(2004)
AFIのCrash Loveと共通するポスト・パンク・リバイバル的な要素を持つ作品。 -
My Chemical Romance – Danger Days: The True Lives of the Fabulous Killjoys(2010)
AFI同様、ポスト・ハードコアからオルタナティヴ・ロックへと移行したバンドの代表作。 -
Green Day – 21st Century Breakdown(2009)
ポップなメロディとパンクの融合が特徴で、AFIのこの時期の音楽性と共通点がある。 -
30 Seconds to Mars – This Is War(2009)
シネマティックなロックサウンドが特徴で、AFIのメロディアスな部分に共鳴する作品。
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