
発売日: 2006年6月6日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポスト・ハードコア、エモ、エレクトロ・ロック
冷たい美学の到達点——AFIのサウンド革命
2006年にリリースされたDecemberundergroundは、AFIがメジャーシーンでさらなる進化を遂げた作品であり、前作Sing the Sorrow(2003年)からのダークなエモーショナルな要素を引き継ぎつつも、より洗練されたプロダクションとエレクトロニックなサウンドを取り入れた新境地となった。
本作は、全米アルバムチャート1位を獲得し、バンドにとって最も商業的な成功を収めた作品でありながら、ゴシック、エレクトロ、インダストリアルといった要素を巧みに取り入れ、単なるメロディック・パンクの枠を超えた壮大な音楽性を確立している。
デイヴィー・ハヴォックのヴォーカルはこれまで以上に感情的で表現力に富み、ジェイド・ピュージェットのギターとエレクトロニック・アレンジがアルバム全体に冷たい空気感を生み出している。
全曲レビュー
1. Prelude 12/21
静かに始まるイントロダクション。「Kiss my eyes and lay me to sleep」というフレーズが繰り返され、アルバム全体の冷たくも美しい雰囲気を象徴する。ライブのオープニングにも頻繁に使われる。
2. Kill Caustic
鋭いギターリフとスピーディーなドラムが炸裂するアグレッシブな楽曲。シャウト気味のヴォーカルとシンセサウンドが絡み合い、ハードコアな側面を見せる。
3. Miss Murder
本作のリードシングルであり、AFI最大のヒット曲のひとつ。ダンサブルなベースラインとキャッチーなメロディが特徴的で、サビの「Hey, Miss Murder, can I make beauty stay if I take my life?」というリリックが印象的。MVではゴシック調の世界観が表現されている。
4. Summer Shudder
ポスト・ハードコアとエレクトロの要素が融合した楽曲。疾走感のあるリズムと透明感のあるギターが、タイトルの「夏の震え」を想起させる。
5. The Interview
アンビエントなシンセと幻想的なメロディが際立つ楽曲。デイヴィー・ハヴォックのソフトなヴォーカルが、内省的な雰囲気を演出する。
6. Love Like Winter
エレクトロ・ロックとゴシックの要素を融合させた楽曲で、アルバムの中でも特にシンセが前面に押し出されている。「It’s in the blood, it’s in the blood」というラインが印象的で、冷たい愛をテーマにしている。MVでは雪と氷の世界が描かれ、アルバム全体のコンセプトを象徴する。
7. Affliction
ヘヴィなギターリフと電子的なビートが絡み合う、攻撃的なナンバー。ハヴォックのシャウトが炸裂し、バンドのハードな側面を感じさせる。
8. The Missing Frame
オルタナティヴ・ロック寄りの楽曲で、流れるようなメロディが心地よい。シンセのレイヤーが繊細に重なり、シネマティックな雰囲気を醸し出している。
9. Kiss and Control
ダークなエレクトロ・ビートとゴシック調のコーラスが特徴的な楽曲。インダストリアル・ロック的な要素も感じられ、Nine Inch Nailsの影響を思わせるアレンジが施されている。
10. The Killing Lights
メロディアスでありながらも、悲哀に満ちた雰囲気を持つ楽曲。ギターとシンセのバランスが絶妙で、アルバムの流れの中で特に印象的な楽曲の一つ。
11. 37mm
タイトルが示すように、映画的な視点を持つ楽曲。エレクトロニックなサウンドとAFIのドラマティックな音楽性が融合し、Decemberundergroundのコンセプトを象徴するような一曲。
12. Endlessly, She Said
アルバムのラストを飾る、壮大で感情的な楽曲。ピアノの旋律とメランコリックなメロディが、美しい余韻を残す。
総評
Decemberundergroundは、AFIが単なるパンクバンドから、より芸術的なオルタナティヴ・ロックバンドへと進化した作品であり、彼らの音楽的探求が最も顕著に現れたアルバムだ。
エレクトロニクスやシンセの導入により、ゴシック・ロックやインダストリアルの要素が強調され、冷たく幻想的な雰囲気が作り上げられている。本作は、バンドの従来のパンク色の強い作品とは一線を画すが、AFIの持つエモーショナルな核は変わらず、むしろより洗練された形で表現されている。
特に、「Miss Murder」や「Love Like Winter」はバンドの代表曲となり、AFIがより幅広いリスナー層を獲得する契機となった。
本作は、ポスト・ハードコアやエモ、エレクトロ・ロックが好きなリスナーにおすすめの作品であり、AFIの新たな可能性を感じさせるアルバムとなっている。
おすすめアルバム
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AFI – Sing the Sorrow(2003)
Decemberundergroundの前作で、ドラマティックなゴシック・エモの要素が強い。 -
The Cure – Disintegration(1989)
ゴシック・ロックの名盤で、AFIのダークな側面に通じる作品。 -
Nine Inch Nails – Year Zero(2007)
エレクトロ・ロックとインダストリアルの融合が、Decemberundergroundのサウンドと共通点を持つ。 -
My Chemical Romance – The Black Parade(2006)
同時期のエモ・ロックの代表作で、壮大なコンセプトとドラマティックな楽曲が特徴。 -
30 Seconds to Mars – A Beautiful Lie(2005)
シネマティックなサウンドとエモーショナルなメロディが共通する作品。
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