
発売日: 1989年9月5日
ジャンル: グランジ、オルタナティブ・メタル、ヘヴィ・ロック
ヘヴィネスとアートの融合——Soundgardenが放つグランジの胎動
1989年、シアトルのサウンドがまだ「グランジ」として確立される前夜、Soundgardenは2ndアルバム『Louder Than Love』をリリースした。本作は、彼らのサウンドをよりメタル寄りのヘヴィ・ロックへと進化させた作品であり、のちのグランジ・ムーブメントの方向性を決定づける重要なアルバムとなった。
前作『Ultramega OK』(1988年)はインディーレーベルSSTからのリリースだったが、本作ではメジャー・レーベルA&Mと契約し、より洗練されたプロダクションを導入。プロデューサーの**テリー・デイト(後にPanteraやDeftonesも手がける)**による重厚な音作りが、バンドのダークでサイケデリックな側面を強調している。
本作の特徴は、ヘヴィメタル的なリフ、ブルースの影響を感じさせるグルーヴ、そしてクリス・コーネルの圧倒的なボーカルの融合にある。サウンド的には、Black Sabbathのスローでドゥーミーなリフと、Led Zeppelinのダイナミックな構成、さらにThe StoogesやMC5の荒々しいエネルギーが混ざり合い、シアトルの湿った空気感が加わることで独自の音楽性を確立している。
また、歌詞はよりダークで皮肉に満ちたものとなり、社会への批判や個人的な苦悩を描きつつ、どこか退廃的で不穏なムードを醸し出している。
『Louder Than Love』は、のちの『Badmotorfinger』(1991年)や『Superunknown』(1994年)で開花するサウンドの原型を形作った作品であり、グランジがメジャーへ進出する道を切り開いた先駆的なアルバムである。
全曲レビュー
1. Ugly Truth
ヘヴィなリフとクリス・コーネルの強烈なシャウトが炸裂するオープニング・ナンバー。タイトル通り、社会の「醜い真実」を暴くような攻撃的な歌詞が特徴的。
2. Hands All Over
本作の代表曲のひとつ。環境破壊をテーマにした歌詞が印象的で、スローなグルーヴとヘヴィなギターリフが圧倒的な存在感を放つ。コーネルのシャウトが、怒りと絶望を表現する。
3. Gun
ガン・バイオレンス(銃犯罪)をテーマにした楽曲。サイケデリックな雰囲気を持つイントロから、突如として爆発するヘヴィな展開が特徴的で、Soundgardenらしいダイナミックな構成が光る。
4. Power Trip
ファズの効いたギターリフが特徴の楽曲で、グルーヴ感が強い。歌詞は、権力や支配に対する皮肉を込めた内容。
5. Get on the Snake
アップテンポなロックンロール・ナンバーで、The Stooges的なパンクのエネルギーと、メタリックなリフが融合している。グランジのルーツを感じさせる一曲。
6. Full on Kevin’s Mom
ユーモアとダークさが同居した奇妙な楽曲。不穏なムードを持ちながらも、どこかキャッチーな要素があり、アルバムの中では異色の存在。
7. Loud Love
本作の中心的な楽曲であり、Soundgardenの代表曲のひとつ。ダークでスローテンポなリフと、クリス・コーネルのカリスマ的なボーカルが炸裂する。「ラウド・ラブ(大音量の愛)」というフレーズが、バンドの音楽性そのものを象徴している。
8. I Awake
サイケデリックな雰囲気を持つ楽曲で、歪んだギターとリズムの変化が印象的。のちの『Superunknown』期に通じる実験的なサウンドの萌芽が見られる。
9. No Wrong No Right
ミドルテンポのグルーヴィーな楽曲で、レッド・ツェッペリン的なリズムの展開が特徴的。コーネルのボーカルがエモーショナルに響く。
10. Uncovered
ヘヴィでスローなナンバー。Black Sabbath的なドゥームメタルの影響が色濃い楽曲で、Soundgardenのメタル要素を強く感じさせる。
11. Big Dumb Sex
Soundgarden流のアイロニーに満ちた楽曲。80年代のグラム・メタルの歌詞を皮肉った、ジョーク的なナンバーで、のちにGuns N’ Rosesがカバーしたことでも知られる。
12. Full on (Reprise)
アルバムのエンディングを飾る短い楽曲。リフとボーカルのリフレインが続き、最後までヘヴィな雰囲気を貫く。
総評
『Louder Than Love』は、Soundgardenがメジャーへ進出し、のちのグランジ・ムーブメントの先駆けとなった重要なアルバムである。サウンド的には、ヘヴィメタルとパンクのエネルギーが融合し、さらにサイケデリックな要素を加えた独自の音楽性を確立している。
本作は、後のグランジブームに先駆けた作品でありながら、メタルの影響が色濃く残るため、1991年の『Badmotorfinger』や1994年の『Superunknown』と比べると、よりヘヴィでダークな印象が強い。しかし、ここにはグランジの精神が確実に息づいており、Soundgardenがいかに唯一無二のバンドであったかを証明する作品となっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Alice in Chains – Facelift(1990年)
ヘヴィメタルとグランジの融合を感じさせる名作。 - Melvins – Houdini(1993年)
スラッジ・メタル的なヘヴィネスが共通する。 - Black Sabbath – Master of Reality(1971年)
Soundgardenの影響源となった、ヘヴィロックの名盤。 - Nirvana – Bleach(1989年)
初期グランジの荒々しさを堪能できる作品。 - Led Zeppelin – Physical Graffiti(1975年)
グルーヴィーなリフとプログレッシブな展開が共通する。
『Louder Than Love』は、グランジの誕生を告げるヘヴィでダークな傑作である。
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